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			<title>猫又女帝の暗黒帝国(本館)</title>
			<description>歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。
</description>
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			<language>ja</language>
			<copyright>Copyright (C) 2005-2008 SAMURAI-FACTORY ALL RIGHTS RESERVED.</copyright>

		<item>
			<title>泡沫の夢　13―7</title>
			<description>
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/tekagami-sakura-1.jpg"><img border="0" alt="tekagami-sakura-1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221254/" /></a>
<div>　与太郎の姿を見て、幻之介は唖然としていた。</div>
<div>「後で、馬も手に入れるさ。そうしたら、お前の足手まといにはならねえ」</div>
<div>　庵に現れた与太郎は足軽具足に身を包み、その手には長柄まで持っていたのだった。</div>
<div>「一旦あっちの屋敷に寄るんだろ？そこで何とか調達してみせるさ」</div>
<div>　言い切った与太郎に、幻之介は困惑気な表情を見せた。</div>
<div>「連れて行きな、幻之介。黒にゃあ悪いが、あっちの屋敷に着くまでの事だ。与太郎が一番馬扱いにゃ長けてるしな。何よりも、お前の楯くらいは勤められんぞ」</div>
<div>　大助の言葉に、さしもの与太郎も嫌そうな表情を見せただけだった。</div>
<div>「本当なら、俺ら全員がおめえについて行きてえぐれえなんだよ。けどそれじゃあ白妙の世話するのが居なくなっちまうしな&hellip;&hellip;。腕と体力から言ったら大の方が良いんだろうが、この体格じゃあ黒駒が可哀想だしな」</div>
<div>　佐吉の言葉に、今度は大助がプイっと横を向いてしまったのだった。</div>
<div>「白妙の事は、俺らが責任を持て面倒みる。だから、せめてお前だけでも無事に戻ってこい」</div>
<div>　与吉は、幻之介の手を握りしめながら言ったのだった。</div>
<div>「勘解由様と共に戻ってまいりましょう&hellip;&hellip;、それまでの間&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男達は、かわるがわる幻之介の身体を抱きしめた。幻之介自身も男達の体を抱き返していた。</div>
<div>　荷を積み終えた黒駒が、さも嫌そうな表情で男を眺めていた。</div>
<div>「黒っ、悪いけど、少しの間頼むなっ」</div>
<div>　心底嫌そうな溜息を吐いて見せた黒駒に、幻之介は苦笑したのだった。</div>
<div>　幻之介の背後に男が座った途端、黒駒は走り出した。幻之介の背に無様な叫び声を上げてしがみ付く姿。見送る男達の失笑を買っていた。それを少女が祈るような姿で見送っていた。黒馬の姿が視界から消えてなお、少女はその場に立ち尽くしていた。が、暫くすると、男達に守られる様に、庵の中に消えて行ったのだった。</div>
<div>　表屋敷に着くなり、黒馬は幻之介の後ろの男を振り落していた。</div>
<div>「もうっ、黒っ」</div>
<div>　幻之介の叫び声が上がるのと、その男が屋敷から飛び出してきたのは殆ど同時だった。</div>
<div>「おおっ、息災であったか、幻之介殿。最近はちっとも姿を見せてくれんでなあ&hellip;&hellip;。おお？その&hellip;&hellip;、連れの方か？」</div>
<div>　庭先に転がり、しきりに尻を擦っている男を指さし喜平次が聞いてきた。</div>
<div>　幻之介は手早く馬を降り、与太郎に手を貸しながら立たせていた。</div>
<div>「このような処ではな&hellip;&hellip;。さあ、さあ、中へお入り。それ、連れの方も&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は喜平次に案内されるままに、広間へと向かった。その後ろをきょろきょろしながら与太郎がついてきた。</div>
<div>　幻之介を案内すると直ぐに、喜平次はいずこかへ消えた。</div>
<div>「いやあ、何だね。噂にゃ聞いていたが&hellip;。すげえ、屋敷じゃねえのさ、幻之介――」</div>
<div>　幻之介の隣に腰をおろしながら、与太郎が言って来た。</div>
<div>「そうですね。でも&hellip;&hellip;、私は好きになれない&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ちげえねえや。なんか、尻の収まり具合が悪いもんな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与太郎は長柄を放り投げて、ごろりと横になっていた。</div>
<div>「悪かったなあ、居心地の悪い場所で&hellip;&hellip;」</div>
<div>　響く老女の声に、慌てて与太郎は飛び起きたのだった。</div>
<div>「久しいのぉ、幻之介殿。もっとこちらに顔を出してくれるものと思ったが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言いながら、藤乃は幻之介の目の前に座った。その後ろから幼児を抱いた白菊が顔を見せたのだった。</div>
<div>「お久しゅうございます、幻之丞様」</div>
<div>　深々と頭を下げた白菊からは、血の気が失せていた。</div>
<div>「いやいや、お待たせして&hellip;&hellip;。人手が足りませんでなあ」</div>
<div>　湯のみを手に、喜平次が姿を現した。そして広間の襖はすぐに閉じられた。人払いをしてある故に――、とにこやかに笑う爺。</div>
<div>「藤乃様、喜平次様&hellip;&hellip;。時がありませぬゆえ、これにて&hellip;&hellip;」</div>
<div>　立ち上がりかけた幻之介を藤乃が呼び止めていた。</div>
<div>「待たれよ、幻之介殿。その出で立ち――。よもや戦場に行かれようと言うのではあるまいな」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。そのつもりです」</div>
<div>　仰々しくため息を吐いた藤乃であったが、すぐに喜平次を睨みつけたのだった。</div>
<div>「だからあれ程知らせるなと申したのに&hellip;&hellip;。この爺ときたら&hellip;&hellip;」</div>
<div>「こちらからの知らせが無くとも、同じ事です」</div>
<div>　幻之介はそこまで言ってから、はたと顔色を変えた。</div>
<div>「構わぬ&hellip;、幻之介殿。どうせこの爺も『知る者』だからな。そうか&hellip;&hellip;。他からも知らせが届いていたか&hellip;&hellip;。なれば、いたし方あるまい」</div>
<div>　藤乃は、数回手を打った。</div>
<div>　間もなくして、隠し部屋の通路が静かに開けられ、数名の男が姿を見せたのだった。</div>
<div>「準備いたせ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　静かに藤乃は男達に声をかけた。音も静かに再び閉じられた通路。</div>
<div>「少しだけ時間をおくれ、幻之介殿。お主にあの者どもを付けようから&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「この屋敷の中にも『知る者』はおる。その一部を付けよう。足手まといにはならぬよ。それと馬をもう一頭――、必要であろう？」</div>
<div>　藤乃は優しく微笑んでいた。</div>
<div>「私にしてやれる事はこれくらいぞ。あの者達は皆、お前の事を知っている。安心するが良い」</div>
<div>「じゃがのお、戦場へ向かうとて、どうするつもりじゃ？松次郎の行方とて知れぬものを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　喜平次の言葉に、白菊の顔色は益々青ざめていくのであった。</div>
<div>「それには少々宛てがあります&hellip;&hellip;」</div>
<div>「なれば、やはり幻之介殿に行ってもらうしか方法は無いか。処で&hellip;&hellip;、もう一人の御子の方は元気か？」</div>
<div>　突然の話題の切り替えに、さしもの幻之介も面喰らっていた。</div>
<div>「あの子は大きくなったでしょうか？」</div>
<div>　心配そうに白菊が聞いてくるのだった。</div>
<div>「準備が整うまではまだ時間がかかる。もう一人の御子の話でも聞かせておくれ。それ、そちらの方も&hellip;&hellip;」</div>
<div>　突然声をかけられて、与太郎は慌てて姿勢を正していた。</div>
<div>「そらあ&hellip;&hellip;、めんこく育ってるよ。皆に可愛がられてさあ。当人目の前にして言うのもなんだがなあ、白菊の姐さんより美人になるんじゃねえのか？」</div>
<div>　白妙の事を想い出してか、与太郎は照れたように話始めたのだった。</div>
<div>「ほう、そんなに育ったか。もうすでに変化も終えたとはな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃は吃驚したように呟いていた。</div>
<div>「既に、その&ldquo;力&rdquo;の片鱗も見え始めました。どうやら、白妙は死人の声が聞こえる様です&hellip;&hellip;」</div>
<div>　悲しそうに幻之介の表情が歪んでいた。</div>
<div>「そうか&hellip;&hellip;。心配よのう、幻之介殿」</div>
<div>　藤乃の言葉に、幻之介は頷いていた。</div>
<div>「なんで？」</div>
<div>　不思議そうに二人を眺める与太郎と、喜平次であった。</div>
<div>「&ldquo;力&rdquo;を制御する術を知らねば、死人に引きずり込まれる。そういう力なのだよ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そうなのか？」</div>
<div>「ええ&hellip;&hellip;。それを知ったのも今朝方の事ゆえ&hellip;&hellip;。何も打つ手がなかったのが気がかりで&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白菊も幻之介同様俯くだけだった。</div>
<div>「なれば、この婆があちらに詰めようかの。幻之介殿が戻ってこられるまでの間――。まあ、何かの足しにはなろうや」</div>
<div>「でも、それでは&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の言い分とは裏腹に、喜平次と白菊がこれに賛同していた。</div>
<div>　その時、襖の外から男の声がかかったのだった。</div>
<div>「準備全て整いました」</div>
<div>「行かれよ、幻之介殿。勘解由殿を頼むぞ。ついでに、松次郎も拾って下さると助かるが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。白妙は、未だ声が聞えぬと申しておりました」</div>
<div>　そう言い残すと、幻之介は立ち上がった。広間を出る幻之介の後を、与太郎が慌てて追いかけた。三人はその姿をその場で見送っていた。遠ざかる足音に、白菊は立ち上がろうとした。</div>
<div>「何処へ行くつもりじゃ、白菊。今のお前では足手まといになるだけだぞ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃の言葉に、白菊の動きも止まった。両膝が崩れる様にその場に屈み込むと、嗚咽を零したのだった。</div>
<div>「待つしかあるまいて。我らが総領殿のご帰還をな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃の言葉は白菊の耳に届くだけの響きであった。</div>
<div>&nbsp;</div>
<br />
＞　13―8]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/214/</link>
			<pubDate>Thu, 11 Mar 2010 12:47:21 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>淡雪　１</title>
			<description>
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/w-kaiawase-1.jpg"><img border="0" alt="w-kaiawase-1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221591/" /></a>&nbsp;
<div><font color="#ff99cc"><strong><font size="5">淡雪</font></strong></font></div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
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<br />
&nbsp;</div>
<div>「姫様～、何処におわしますか？姫様――っ」</div>
<div>　右往左往する男や女達。それを足元に見て少女はクスリと笑い声をたてた。</div>
<div>　その頭上で突然ガサリと物音。少女はビックリて見上げた。</div>
<div>　青葉生い茂る古木の上。自分の居る枝よりもさらに高い処に誰かが居るのだった。</div>
<div>「何者っ！」</div>
<div>　少女の声が鋭く相手に向けられていた。</div>
<div>「ただの先客ですよ、姫君&hellip;&hellip;」</div>
<div>　聞えたのは若い男の声だった。</div>
<div>　思いもかけぬ他者の出現に少女は身構えていた。</div>
<div>「先の者達は貴女を探しているのではありませんか？」</div>
<div>　頭上から潜めた声が降って来た。</div>
<div>「姿を見せぬとは卑怯であろうやっ」</div>
<div>　元々この少女、相当に勝気な性格をしているらしかった。</div>
<div>「今暫くお静かに&hellip;&hellip;。かの者達に見つかっても良いのですか？」</div>
<div>　男の声に少女は慌てて自分の口を手で塞いでいた。</div>
<div>　そのはるか足元では、またも人の気配。少女はじっと古木の幹に体を寄せていた。</div>
<div>「はて？この辺りで姫の声を聞いた様な&hellip;&hellip;」</div>
<div>「早くせねば御館様に知れてしまうぞ」</div>
<div>　半ば怯えを見せた従者達が他を探しにその場を離れるまで、少女はじっと息をひそめていた。</div>
<div>　気配も遠のき、風に揺れる様な木の葉の音だけが周りに流れていた。頭上にあった男の気配もしなかった。</div>
<div>「おいっ&hellip;&hellip;、これ、天狗？&hellip;&hellip;おらぬのか？」</div>
<div>　少女は頭上に向かって潜めた声をかけていた。</div>
<div>　ガサリと枝の揺れる音――。</div>
<div>　男は手慣れた仕草で枝を降りてきた。</div>
<div>「天狗とはひどいな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　見上げる程の背の高さ。真白に近い長髪を緩く無造作に後ろで纏めているだけの男。一見その髪の色に年配者とも思ったのだが、その顔付きは青年そのものであった。</div>
<div>「やはりお主は天狗じゃ」</div>
<div>　少女は相手を指さして言い切った。</div>
<div>「まあ、良いさ&hellip;&hellip;。それでも&hellip;&hellip;」</div>
<div>　青年は呆れ顔のまま答えていた。</div>
<div>「それで、姫君。この天狗に何か用がおありか？」</div>
<div>「そちは、何処から参ったのじゃ。この近くでは見たことが無い顔ぞ。何をしにこの地に来たのじゃ？」</div>
<div>「散歩」</div>
<div>　笑みを浮かべながら青年は答えていた。</div>
<div>「悪さを死に来たのではあるまいな？」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。余り疑り深いと嫌われますよ、姫君。まあ、簡単に相手を信じるのもどうかと思われますがね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ちらりと少女の方を見ながら、青年はすぐ傍に腰を降ろしたのだった。</div>
<div>「で、姫君はなんでこのような木の上に居られるので？」</div>
<div>「散歩じゃ」</div>
<div>　青年に向かって少女は答えていた。</div>
<div>「普通の姫様は木登りなどしませんけどね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　青年の言葉に少女はプイっとむくれていた。</div>
<div>「どうせ私は普通でないっ」</div>
<div>　青年はオヤオヤという様な表情を見せた。</div>
<div>　はるか遠くの方で、未だ人探しを諦めずに居る声が聞こえていた。</div>
<div>「可哀想ですよ、姫君。皆あんなに一生懸命貴女を探しているのに&hellip;&hellip;」</div>
<div>「あれらと居ても退屈じゃもの&hellip;&hellip;」</div>
<div>　急にシュンとした表情を見せた少女。</div>
<div>「なあ、天狗も一緒に参らぬか？」</div>
<div>　少女はくるりと青年に向き合っていた。</div>
<div>「出来ませんよ&hellip;&hellip;。姫が良くっても他の者がビックリしてしまうでしょ」</div>
<div>　青年は少女の頭を優しく撫でていた。</div>
<div>　それを片手で少女は跳ねのけて見せた。</div>
<div>「子供扱いするでないっ」</div>
<div>　勝気そうな目が青年を見つめていた。</div>
<div>「子供ですよ、姫はね&hellip;&hellip;。この私から見ればまだまだ子供です」</div>
<div>　青年は優しげに微笑んでいた。</div>
<div>「どうせっ&hellip;&hellip;。お前もそうやって&hellip;&hellip;」</div>
<div>　少女はただ俯いた。</div>
<div>「皆勝手に子供扱いしたり、大人扱いしたり&hellip;&hellip;。自分たちの都合の良い様に振舞うだけなんだっ」</div>
<div>　どこか悲しげな表情を見せる少女を青年はじっと見つめていただけだった。</div>
<div>　木の葉の擦れ合う音が静かに響いていた。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。なあ、天狗」</div>
<div>　ふと少女は青年に向き合っていた。</div>
<div>「又、会えるか？」</div>
<div>「縁があれば&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そっか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　少女は木の幹に手をかけてそろそろと気を降りはじめていた。</div>
<div>　下から木の上を仰ぐように少女は見上げていた。</div>
<div>　木の上に居る者が返事をする事は全く期待していないようだった。</div>
<div>「今度お目にかかれた時は、ゆっくりと話でもしましょうか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　囁く様な青年の言葉が降って来た。</div>
<div>　少女は吃驚したように眼を見開くと、力強く頷いていた。そして――。少女は袖を膨らませながら里の方へと駆け出して行った。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「すいませぬ、御館様――。もう暫く&hellip;&hellip;」</div>
<div>　水干姿の男の前で、女が一人ひれ伏すように頭を垂れていた。</div>
<div>「構わぬ。あれの気性は、とうに知れておる。放っておけば何れひょっこりと姿を現すであろう」</div>
<div>　男は苦笑を浮かべながら言った。</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　女は心配げに言うのだった。</div>
<div>「あれの気まぐれにも慣れたわっ」</div>
<div>　男は溜息交じりに遠い目をしていた。しばし、何かに想いを馳せているかの様にも見えた。</div>
<div>「が、いつまでも今の様にさせておくことも出来ぬしな&hellip;&hellip;。あれには当分の間、目付役を付ける事にいたそう」</div>
<div>　それにしても&hellip;&hellip;、と男は眉間の皺を深く刻んでいた。</div>
<div>「姫様がお戻りになられました&hellip;&hellip;」</div>
<div>　汗まみれの女が息を切らせながら男の前に現れた。</div>
<div>「白妙を呼べっ」</div>
<div>　男の言葉に、女は身を縮ませた。</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「泥だらけになっていようが構わぬ。身支度も整える必要は無い。すぐに此処に連れて来い」</div>
<div>　脇息に凭れたままで、男は命じていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　白妙の部屋の周りはしっかりと見張りが付けられるようになっていた。終始監視の生活を強いられるようになったのだった。以前の様に館を抜け出し、勝手気ままな散歩を楽しむ事も出来なくなっていた。</div>
<div>　部屋に押し込められ、やらされる事と言えば行儀作法。まるで花嫁修業の様な事ばかりだった。流石の白妙もこれにはうんざりしていた。</div>
<div>「この時間帯にこの部屋を訪れて、お前の姿を見るとは珍しいな」</div>
<div>　突然の様に従者を引き連れ現れた男を白妙は睨みつけていた。</div>
<div>「自分がそうさせた癖に&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ボソリと呟いた白妙の顔を男は覗き込んでいた。</div>
<div>「どうかしたか？白妙」</div>
<div>　一族を束ねる長は、白妙の睨みなど意に介する事も無かった。</div>
<div>「何の御用ですか、父上」</div>
<div>　そう、白妙は総領家の姫であった。</div>
<div>「やはり、血は争えんな&hellip;&hellip;」</div>
<div>「どうせ私は姉様達とは違いますからねっ」</div>
<div>　己の父とはいえ、一族の長に向かって思いっきり舌先を付きだす白妙だった。少女の背後に控える女官も思わずの苦笑い。</div>
<div>「まあ、そこがお前の良さなのだが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の表情が僅かに曇った。</div>
<div>　白妙はそれに気が付かなかった。</div>
<div>「お前ならば、耐えられようか？」</div>
<div>　ボソリと言った父の言葉に白妙は眉間に皺を寄せていた。</div>
<div>「父上――、何がおっしゃりたいのですか？私をこのような処に閉じ込めたままで&hellip;&hellip;」</div>
<div>　不服丸出しの白妙の顔を男はじっと見つめていた。</div>
<div>「此度、お前には『南の地』へ行って貰う事になった故な&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の言葉に、白妙は顔色を変えたのだった。</div>
<div>「な&hellip;&hellip;ぜ&hellip;&hellip;。ちい姉様のはずじゃ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「決定事項だ。既にあちらへも伝わっている」</div>
<div>　その言葉に、白妙はがっくりと肩を落としていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
＞　２</div>]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/213/</link>
			<pubDate>Wed, 10 Mar 2010 11:11:01 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>泡沫の夢　13―6</title>
			<description>
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/tudumi_suisen-2.jpg"><img border="0" alt="tudumi_suisen-2.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221462/" /></a>&nbsp;
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　男達の目の前で、幻之介は徐に髪の毛を切り捨てた。それを高く結い上げたのだった。</div>
<div>「幻之介&hellip;&hellip;、本気なのか？」</div>
<div>　心配そうに大助が言った。</div>
<div>　書簡の内容は全て皆に伝えた。その上での行動であった。その時、寝所の奥にしまってあった筈の包みを白妙が無言のままに持ってきたのだった。</div>
<div>「お兄様、これを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙が差し出したのは、例の真紅の神子衣装。</div>
<div>「父様を助けに行くのでしょう？これはお兄様の身を守ってくれる物――」</div>
<div>「白妙&hellip;&hellip;」</div>
<div>「お兄様が傷付いたら、勘解由父様が悲しむから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は無言でそれを受け取っていた。</div>
<div>「幻之介&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに声をかける佐吉。</div>
<div>「止めても無駄です。私ごときが行ってどうなるというものでもないのでしょうが&hellip;&hellip;。ここでじっと待つ事など出来ませぬっ」</div>
<div>「そうじゃあねえ、違う、幻之介」</div>
<div>　いつになく険しい表情の幻之介に怯んだ佐吉を代弁するかのように、与吉が後を続けたのだった。</div>
<div>「止めるつもりは、毛ほどもねえ。だけどよお、せめて出発は夜が明けてからにしてくれねえか？今から出ても暗闇に呑まれちまうだけだ。お前にもしもの事があっちゃあ、それこそ事だ。それに、こっちにも準備の時間をくれっ」</div>
<div>　頼むから――、と与吉は頭を下げた。</div>
<div>「刻限までは、間に合うんだろ？」</div>
<div>　大助の言葉に、白妙が答えていた。</div>
<div>「黒の足ならば、表屋敷に寄っても十分に時はありますが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　切り落とされた髪の束を手に、白妙はじっと幻之介の方を見ていた。</div>
<div>「お兄様――、これは白妙の我が儘。もう一晩だけ&hellip;&hellip;、一緒に&hellip;&hellip;」</div>
<div>　包みを手にしたまま立ち尽くす幻之介に、白妙が背後から抱きついていた。</div>
<div>「頼むっ、幻之介」</div>
<div>　男達も一斉にその頭を下げるのだった。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。解りました。夜明けにはここを出ます。それで宜しいか？」</div>
<div>　ため息交じりに言った言葉に、男達は笑みを漏らすと足早に庵を飛び出していった。</div>
<div>　残ったのは佐吉一人。佐吉はいつもと変わりない所作で台所に立ったのだった。</div>
<div>「幻之介&hellip;&hellip;。まずは湯でも浴びてこいや。白妙も一緒にな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙は嬉しそうに、幻之介の手を引いていた。</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「飯が出来上がるまでは今しばらくかかる。いっぱい食って、充分体を休めるんだ。ここを出れば何時ゆっくり休めるか解らねえ。旦那の口癖だったよ&hellip;&hellip;。休める時に休んで、次には全力で立ち向かうんだってな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　かつて勘解由と共に戦場を駆け回った男の言葉。素直に幻之介はその言葉に従っていた。幻之介が湯殿に消えたのを確認してか、男はぼそりと言葉を村していた。</div>
<div>「幻之介ほどじゃねえが、俺らだって旦那の事は心配さ&hellip;&hellip;。でも、それ以上に、おめえの方が気がかりなんだがなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　佐吉の手は止まらずに動き続けていた。</div>
<div>　湯上りの幻之介は佐吉を手伝おうとしたのだが、逆に怒鳴られた。手持無沙汰の幻之介は、糸車を持ちだそうとして、これまた、叱られていた。</div>
<div>「白妙っ、幻之介をちゃんと見張ってろ」</div>
<div>「はあい、佐吉おじさま」</div>
<div>　白妙は言うなり、ちゃっかりと幻之介の膝の上に乗ったのだった。</div>
<div>「お前が落ち着かねえのな解るがよ、チャンと休めって言ったよな」</div>
<div>　振り向きながらの佐吉の言葉に、幻之介は苦笑を浮かべていた。</div>
<div>「お兄様、笛を聞かせて&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙は焔華を手渡してきた。</div>
<div>「それ良いねえ。暫くは幻之介の笛の音もきけなくなるんだしな&hellip;&hellip;。俺からも頼むわ」</div>
<div>　佐吉の言葉に後押しされて、白妙はねだる様にそれを求めたのだった。とても笛など吹きたい心境ではない幻之介であったが、白妙の眼差しに負けそれを渋々と口にあてがった。</div>
<div>　不思議なもので、笛を吹き始めた途端に、妙なあせりは徐々に薄れて行くのだった。白妙を膝に乗せたまま幻之介は笛を吹き続けた。白妙はゆったりと幻之介に体を預けて目をつぶっていた。その頬を一筋の雫が流れ落ちたのに幻之介は気がつかなかった。</div>
<div>　いつの間にか、再び集まって来た男達も幻之介の笛の音に耳を傾けていた。思うままの音を出し終えた幻之介はゆっくりと笛を口から離していた。</div>
<div>「&hellip;&hellip;飯にしようかの」</div>
<div>　いつにない品数の料理。佐吉はにっこりと笑っただけ。庵の外は夕日が紅く空を染め上げていた。</div>
<div>　幻之介に杯が差しだされた。</div>
<div>「少しで良い。飲んでおいたほうが、良く眠れるだろう」</div>
<div>　男共は幻之介が酒に弱いのを承知で差しだしたのだった。大助がその杯に少しずつ酒を注ぐ。だが、車座の男達は誰一人として酒を口にしようとしない。</div>
<div>「俺らにはまだ、準備が残っているからな&hellip;&hellip;。お前の出発には間に合うようにしねえとならねえんでな」</div>
<div>　男達の半ば強制の様な勧めに幻之介は渋々と杯を干した。いつも以上に喰わされた幻之介。酒のせいもあってか体を動かすのも億劫なほどだった。そんな幻之介をひょいと抱きあげたのは大助であった。</div>
<div>「後は、時間まで寝てろ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の傍に白妙だけを残して大助は襖を閉めた。</div>
<div>　横たえられた布団の中に白妙がそっと潜り込んで来た。</div>
<div>「お兄様、勘解由父様大丈夫だよね。必ず、戻ってくるよね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　啜りあげる白妙を、幻之介は優しく抱きとめたまま目を閉じた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　夜明け前の空気の冷たさに幻之介は目が覚めた。酒を飲んだ割には、意外と意識はすっきりとしていた。襖の外からは未だに物音が聞こえていた。白妙を起こさぬように幻之介は布団から抜け出した。寝間着のままでそっと襖をあけた。</div>
<div>「なんでえ、もう起きちまったのか？」</div>
<div>　与吉が振り向きざまに言った。</div>
<div>「あの&hellip;&hellip;、皆&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ああ、俺らの事は気にしねえで良いぞ。お前の出立にやあ万全の備えをさせてやりてえだけだからな」</div>
<div>　言いながら、佐吉は台所に立った。</div>
<div>　見渡すと、一人足りない。</div>
<div>「あの、与太郎は？」</div>
<div>「ああ、もう少ししたら顔出すだろう。朝飯ぐらいは食っていけるだろう&hellip;&hellip;」</div>
<div>　聞き返してきた佐吉に、幻之介は小さく頷いた。</div>
<div>「なら、もう少し体を休めておきな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　大助に促される様に、幻之介は再び寝所へと戻って行った。</div>
<div>「お兄様、もう行くの？」</div>
<div>　目覚めた白妙が言った。</div>
<div>「&hellip;もう少ししたらね」</div>
<div>　その言葉を聞いて、白妙は飛び起き、急いで身支度を整えた。その手際の良さに、幻之介も安堵の表情を浮かべていた。</div>
<div>「私が居ない間、ちゃんと良い子で居られるよね」</div>
<div>　幻之介の言葉に白妙ははっきりと頷いていた。</div>
<div>「大丈夫だよ、お兄様。皆の言う事聞いて良い子にしてる。だから&hellip;。勘解由父様を&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに見上げる白妙を、幻之介は抱き締めていた。</div>
<div>「必ず一緒に戻って来ようから&hellip;&hellip;」</div>
<div>「待ってます、お兄様&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙の小さな手が幻之介を抱き返していた。</div>
<div>　襖の外から声がかかる頃には、幻之介の身支度も終わっていた。真紅の神子衣装に身を包み、腰には二本の刀を差していた。勘解由から貰った飾り紐で高々と結い上げられた髪の根元には、不知火の片割れが姿を変えて差しこまれていた。胸元には焔華もあった。そのまま寝所を出ようとした幻之介を白妙が呼び止めた。</div>
<div>「お兄様、これも&hellip;&hellip;」</div>
<div>　差し出されたのは、幻之介の物と対となる勘解由の太刀であった。</div>
<div>「父様、今回はそれを置いていかれたの&hellip;&hellip;。だからこうなったような気がする。きっと、それが必要になる感じがするの&hellip;&hellip;」</div>
<div>　持って行って――、とせがむ白妙。</div>
<div>　白妙にもここの男達にも、対となる二振りの太刀と神子衣装の謂れは教えては居なかったのだ。それにも関わらず、白妙は幻之介と勘解由の物とを的確に見分けていた。勘解由の太刀だけならばともかくも、奥にしまってあった幻之介の物まで白妙は取り出してきたのだ。</div>
<div>　はっと想い、幻之介は白妙に問いかけた。</div>
<div>「お兄様の傍にはいつも優しい光の球が浮かんでいるの。それが時々教えてくれる――。私の事も、お兄様の事も&hellip;&hellip;。本当は、もっとたくさん教えてくれるのかもしれないけど、私には片方の言葉しか聞けないから&hellip;&hellip;。それも、半分ぐらい&hellip;&hellip;。父様とお兄様が一緒に居る時じゃないと、解らないの&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そう、それがお前の&ldquo;力&rdquo;なんだね、白妙。今、勘解由様の声はお前に聞えるかい？」</div>
<div>「全然聞こえないよっ。聞こえるわけないもんっ」</div>
<div>　お兄様とは違う――、そう呟いた白妙を抱きよせながら、幻之介は襖を開け放った。</div>
<div>「父様は、必ず連れ帰るよ」</div>
<div>　白妙にだけ聞えるように、幻之介は囁いていた。</div>
<br />
<br />
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/214/">１３―7</a>]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/212/</link>
			<pubDate>Wed, 10 Mar 2010 11:05:37 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>泡沫の夢　13―5</title>
			<description>
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/201003031205000.jpg"><img border="0" alt="201003031205000.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1268218623/" /></a>&nbsp;
<div>　白妙すらも居なくなった庵。縁側に座って幻之介は糸車を回していた。男達は野良仕事に出かけて行った。カラカラと廻る幻之介の糸車が時々止まった。その度に小さなため息が漏れるのだった。</div>
<div>　そんな、何度目かの小休止。進まない糸車の糸をじっと幻之介は眺めていた。そこへ、がさりと物音。蹄の音が聞こえたかと思った途端、見知らぬ男の叫び声が聞こえた。</div>
<div>　幻之介は慌ててその声のした方へと駆け出していた。見れば、庭先に入る少し手前の小道で、腰を抜かしたように尻もちを突いている男の姿が見えた。着ている物は粗末だったが、男の傍にはその姿に見合わぬ短刀が落ちていた。男の袖口と着物の裾を、黒馬が踏みしめたまま威嚇の歯ぎしりを繰り返していたのだった。</div>
<div>　丁度そこへ、野良仕事を放り投げて吹っ飛んできた男達が、鍬や鎌を手に詰め寄ったのだから堪らなかっただろう。</div>
<div>「幻之介、大丈夫か？」</div>
<div>　真っ先に走り付いた与太郎がその光景を見て吹き出しそうになっていた。</div>
<div>「黒っ。そのまんま離すんじゃねえぞ」</div>
<div>　佐吉はそのまま手持ちの鎌を男の喉笛へと宛てていた。</div>
<div>「あの&hellip;&hellip;、みんな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　おろおろする幻之介を尻目に、与吉は幻之介を自分の後ろへと押しやった。</div>
<div>「見てくれのまんまって訳ではなさそうだな&hellip;&hellip;。てめえ、何しにきやがったっ！」</div>
<div>　男の傍らに落ちていた短刀を蹴り飛ばしながら、与吉も手の中の鎌を男に向けた。</div>
<div>「わし&hellip;は、その&hellip;&hellip;、伝言&hellip;頼まれた&hellip;だけ」</div>
<div>　目を白黒させながら、男が言った。</div>
<div>「誰にだよ」</div>
<div>　佐吉は握っている手に力を込めた。</div>
<div>「ご家老&hellip;殿&hellip;&hellip;から」</div>
<div>「はあ？」</div>
<div>「幻&hellip;之介殿&hellip;&hellip;と言&hellip;う若者に&hellip;&hellip;と」</div>
<div>「本物か？証拠あんのかよっ」</div>
<div>　黒馬に組伏せられた男を庵の男共が取り囲んでいた。流石の与太郎も、幻之介の名を出された途端に険しい表情へと変わったのだった。男は震える手で、胸元に手を差し入れようとしたが、黒駒の抑えに腕も上がらす男共の方を見上げていた。</div>
<div>「懐に、&hellip;&hellip;ご家老からの書簡が&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の代わりに与太郎がその胸元へ手を差し入れていた。</div>
<div>　表書きは無し。折り込まれたその裏には何やら人の名らしきものが記されていた。与太郎はそれを幻之介へと手渡した。</div>
<div>「あの&hellip;&hellip;、それは、その幻之介と言う若者へ&hellip;直に渡せと&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言いかけた男の胸倉を、佐吉が掴み上げていた。</div>
<div>「あれが、幻之介だ」</div>
<div>「え？あの、女子では&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男がそう口にした途端に、与太郎が殴りつけていた。</div>
<div>　幻之介は苦笑を浮かべるしかなかった。長くなりすぎた髪の毛は、高く結い上げる事も難しくなってしまった為、背中で緩く結び止めているだけだったのだ。しかも、この髪型を勘解由が好んだとあっては仕方が無かった。</div>
<div>「幻之介、その家老だかって言うのに、間違いはねえのか？」　</div>
<div>　与吉の言葉に、幻之介は慌てて手の中の書簡を見た。確かに裏には『喜平次』と記されてあったのだった。</div>
<div>「名はそのようですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　庵の男達は文盲であった。</div>
<div>「ご家老殿よりの伝言、確かに渡したぞっ。返事は後で良いから――、と言っておられた」</div>
<div>　男が良い終わるや、黒駒はその足をどけた。男は今とばかりに、這い出して一目散に走り出していた。</div>
<div>「逃げ脚だけは、早いなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「で、なんて書いてあるんだ？幻之介」</div>
<div>「えっ、はい&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は想い出したかのように、手の中の書簡を広げていた。が、読み進むにつれ、幻之介の手は震えだして、顔は血の気を失っていた。</div>
<div>「そん&hellip;&hellip;な、うそ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　がっくりと、幻之介はその場で気を失っていた。</div>
<div>　そんな事があったとは知らず、大助と白妙は鼻歌交じりに庵へと戻ってきた。いつもならば、まだ野良仕事の真っ最中なはずなのに、なぜか全員が雁首をそれ得て車座になっていた。</div>
<div>「なに、辛気臭え顔して集まってんだよ。仕事はどうした？仕事は――」</div>
<div>　大助の言葉に、男達が一斉に睨みつけたのだった。</div>
<div>「&hellip;&hellip;なんでえ」</div>
<div>　その眼光の強さに怯んだ大助。</div>
<div>「幻之介が倒れた&hellip;&hellip;。これを目にしてな」</div>
<div>　大助に投げてよこされたのは、くしゃくしゃに丸められた書簡。</div>
<div>「こんなの、俺に読めるかっ」</div>
<div>　大助は、それを男達に投げ返していた。</div>
<div>　白妙は、にも放り出して幻之介の枕元に座っていた。</div>
<div>「お兄様&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに、幻之介の顔を覗いては、浮かび上がる汗をふき取っていた。</div>
<div>「幻之介が目覚めねえ以上は、俺らにやあ解らねえ事だしな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　大助も男達の中に加わった。</div>
<div>　かさりとした物音。白妙はその方向に視線を向けた。</div>
<div>「犬のおば様&hellip;&hellip;」</div>
<div>『暫く見ぬうちに人型になってしまったか――。婆様によう、似ておられるのお』</div>
<div>　獣の唸り声に男達も一斉に振り返った。</div>
<div>　山犬は縁側から上がり込むと、そのまま幻之介の枕元に近付いていた。男達が慌てたのを、白妙が落ち着くようにと言ったのだった。</div>
<div>『この有り様では、知れたようだね&hellip;&hellip;』</div>
<div>　山犬が幻之介の目元をふわりと舐めた。ゆっくりと開けられた幻之介の瞳は紅く染まっていた。</div>
<div>『どうしたい？狐の倭子よ――』</div>
<div>　山犬の言葉に、幻之介の顔がゆっくりと動いた。</div>
<div>『私は男の居場所を知っているがね&hellip;&hellip;。まあ、あれでは当分は動けまいよ』</div>
<div>　身をくつろがせて、前足をぺろりと舐めた山犬。</div>
<div>「それは真？」</div>
<div>『人共と違ってな&hellip;&hellip;。私は嘘は言わぬ。まあ、今ならば、まだ無事だと言えよう』</div>
<div>　その後は知らぬがな――、と山犬は答えていた。</div>
<div>「案内は？」</div>
<div>『必要ならば――』</div>
<div>　むっくりと起き上がった幻之介に、白妙が飛びついた。</div>
<div>「お兄様――、何があったと言うの。その身体で、動いては駄目っ」</div>
<div>　白妙の叫びの様な声に、男達も幻之介の体を抑えにかかった。かっと見開かれた瞳。途端にその身体からは炎が噴きあがった。思わずの熱さに、男達は飛びのいた。だが、白妙だけはその顔を苦痛にゆがませながら幻之介の体を離そうとしなかった。</div>
<div>『お止し、倭子よ。その娘の命を奪う気か？』</div>
<div>　山犬の言葉に、幻之介は我にかえった。</div>
<div>『幻の炎とて、相手が本物と思い込めば焼かれる――』</div>
<div>　特に、お前の&ldquo;力&rdquo;ではな――、と山犬が続けた。</div>
<div>『二日三日ならば、あの男の事。何とか持ちこたえるであろう。日を改めようぞ、倭子よ。そこに居る者共も訳を知りた気の様だしな&hellip;&hellip;。それに、今のお前には片付けなければならぬ用向きもあるだろう？二日後の夕暮れ、あの村で落ち合おう&hellip;&hellip;』</div>
<div>　そう言うと、山犬は豊かな尾を振って外へと飛び出していた。</div>
<div>「お兄様&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに言う、白妙を幻之介はそっと抱きしめていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/212/">13―6</a>]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/211/</link>
			<pubDate>Wed, 10 Mar 2010 11:00:24 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>泡沫の夢　13―4</title>
			<description>
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/tessen-3.jpg"><img border="0" alt="tessen-3.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221382/" /></a>
<div>　どちらからともなく身を寄せ合う二人。</div>
<div>「淋しかったか&hellip;&hellip;？」</div>
<div>「いえ、それよりも私は&hellip;&hellip;」</div>
<div>　珍しく勘解由の体を幻之介が押し倒していた。その上に自ら体を乗せてきたのだった。</div>
<div>「余りご無理をなさいませんよう&hellip;&hellip;。私は、前のままで充分です&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そう言って、お前の手は皸だらけになるんだ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の指先を口元に運ぶ勘解由。</div>
<div>「それでも&hellip;&hellip;。今よりは、一緒に居られる&hellip;&hellip;」</div>
<div>　指先を愛撫される刺激に身を震わせながら、幻之介は続けていた。</div>
<div>「貴方の無事を、こうやって確かめるまでは&hellip;&hellip;、私は&hellip;&hellip;」</div>
<div>「済まねえな。だが&hellip;&hellip;、これも、今回の『山』が過ぎるまでの事。それが終われば、俺はお前の傍に居よう。だから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由の手が優しく幻之介の体を撫でていた。</div>
<div>「今回の戦、長引けばあの野郎の事だ。総動員何て事をしかねねえ。たかが一地方の一揆制圧にさ&hellip;&hellip;。そうなりゃ、あいつ等も徴兵されかねねえしな&hellip;&hellip;。ここの生活だって&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の顔は今にも泣き出しそうに歪んでいた。それを慰めるかのように、勘解由の手が伸びて行く。</div>
<div>「なるべく早く終わらせよう&hellip;&hellip;。それまでの辛抱だから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由の言葉に、幻之介はただ頷いていた。</div>
<div>&nbsp;</div>
<div>　数日の骨休め――。又、勘解由は戦場へと駆り出されていった。幻之介はそれを不安な面持ちで見送っていた。</div>
<div>　いつもと変わり映えのない毎日。それでも、少しずつ変化を見せる白妙の成長ぶりに、幻之介の心も幾分慰められていた。一人で着付けも出来るようになった。織り機を扱う手つきも徐々に慣れ、今では幻之介と同じ程の腕前になっていた。</div>
<div>「お兄様っ、今度はこれで作って」</div>
<div>　淡い色合いに織りあがった反物を幻之介に手渡してきたのだった。幻之介はそれを受け取りながら、小さくため息を吐いていた。</div>
<div>　松次郎が送ってくる上等な布には一切目もくれない。最初の頃、松次郎の送ってよこした着物など、半日もしないうちにボロボロに引き裂いてしまったのだった。そのくせ、幻之介の織った内着だけは大事に着ている。</div>
<div>「父様の送ってくれる物は気に入らないのか？」</div>
<div>「うん&hellip;&hellip;。身につけると、気持ち悪くなる&hellip;&hellip;」</div>
<div>　それでも生成りの綿や、白絹ならば身につける様にはなった。だが、色物柄物は全く受け付けないのである。それも、どんな素材のものであろうと、変わる事は無かった。</div>
<div>「私は、こっちの方が好きっ」</div>
<div>　単なる草木染めの方を好んで身につける白妙。</div>
<div>「お兄様の織ったのが数段気持ち良いの。私のは、まだ、だめ&hellip;&hellip;。お兄様の様にはいかない&hellip;&hellip;」</div>
<div>「どうして？だいぶ上手に織れるようになってきてるよ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の言葉に、白妙は嬉しそうな笑顔を見せていた。</div>
<div>「そう？でも、もっと練習しなくっちゃっ。お兄様の物の様に、勘解由父様に着て貰えるくらいに&hellip;&hellip;」</div>
<div>　再び白妙は織り機に向かって新たな糸をかけだした。そう、白妙は本人不在の時に限って、勘解由を父と呼ぶのであった。実の父親ではない事は重々承知の上。決して本人の前では口にはしない。それが白妙流の配慮なのだろう。庵の男達もその事を知っていた。だが、誰もそれを勘解由には言わない。それが、彼ら流の意地悪なのだった。幻之介が勘解由に伝えないのは、白妙の気持ちを知ってしまったから&hellip;&hellip;。</div>
<div>　白菊の事も頭の中にある。未だに白妙は白菊を本当の意味では受け入れていなかった。対面すれば、それこそ卒なく挨拶を交わす。だが、それだけなのであった。ここの男達に見せる様な、無防備な甘えは一切出さないのである。何度か訪れた事のある松次郎も、その事に気が付いていたようだった。松次郎ほどで無いにしても、白菊もこの地を訪れた事はあった。もう一人の子を抱いた白菊をじっと睨みつけるだけで、白妙は幻之介の傍を離れようともしなかったのだ。</div>
<div>　いつかは――、という気持ちも、今はすっかりと薄れてしまった。幻之介には、二人の間にできた溝が最早修復不可能である事が知れてしまったのだった。それでも、松次郎は諦めずに何かと贈り物をよこすのだった。白妙にとっては、寧ろそれが嫌で堪らなかったようだ。代わりとばかりに勘解由に『父親』を求めたのだろう。</div>
<div>「お兄様が居てくれて良かった。でなければ、勘解由父様には会えなかったもの&hellip;&hellip;。今頃は、あの犬のおば様の子になっていたんだわ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ある日、幻之介の腕の中で、白妙はそう呟いていたのだった。</div>
<div>　勘解由不在の夜、白妙は幻之介の横たわる布団に潜り込んでくるのだった。幻之介自身も、少女を抱き留めながら、男の不在の心細さを埋めるのだった。</div>
<div>「ねえ、明日。大助おじさまと出かけても良い？染料が無くなりそうなの&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介を見上げるように白妙が言ってきた。</div>
<div>&nbsp;</div>
<div>「迷惑掛けちゃ駄目だよ、白妙。――我がまま言う時には、引っ叩いても連れ戻して下さいねっ」</div>
<div>　幻之介の言葉に、男達は笑い声を上げていた。</div>
<div>「そりゃあ、無理な話だって、幻之介。大にゃあ、手を上げる事なんざできやしねえよ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与太郎の言葉に、大助は「おめえらだって同じだろうがっ」と、むくれる様に呟いていた。</div>
<div>　ちげえねえや――、と口を揃えて笑う男達。</div>
<div>「荷物持ちには、丁度良いからな」</div>
<div>　佐吉の言葉に益々むくれる大助。</div>
<div>　男達の中で、一番年若く、体の大きな彼は確かに力持ちである事は間違いなかった。</div>
<div>「白妙&hellip;&hellip;。あんまり無茶してあぶねえ事なんかしねえでくれよ。勘解由の旦那も居ねえんだし&hellip;&hellip;。幻之介に心配かけちゃなんねえぞ」</div>
<div>　与吉の言葉に白妙は元気に頷いていた。</div>
<div>「遠くまではいかない。ちゃんと大助おじちゃんの言う事も聞く。なるべく早く帰ってくるから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与吉に抱きつきながら白妙は言っていた。</div>
<div>　空の竹籠を背負った大助が、ひょいっと白妙の体を抱き上げ、自分の肩へと座らせていた。</div>
<div>「うるせえのはほっといてさ、早く行こうぜ白妙。陽が落ちちまうぞ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言いながらも、大助は歩きだしていた。その肩からは白妙が元気に手を振っていた。</div>
<div>&nbsp;<br />
<br />
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/211/">13―5</a></div>]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/210/</link>
			<pubDate>Mon, 08 Mar 2010 15:39:16 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>泡沫の夢　13―3</title>
			<description>
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/PHTO0049_thumb.jpg"><img border="0" alt="PHTO0049_thumb.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1255915891/" /></a>&nbsp;&nbsp;
<div>　白妙を誘って勘解由は湯殿の中へと消えていた。</div>
<div>　幻之介はと言うと、糸車を仕舞い込んで勘解由の着替えを出していた。その後で、荒駒に積んであった荷を下ろすのだった。と、その時、湯殿から幻之介を呼ぶ声が聞こえた。</div>
<div>　急いで幻之介は湯殿へと向かった。そこには湯あがりに肌を染めた白妙が待っていた。幻之介は雫をふき取って、着物を着せてやる。白妙の方は、完全に幻之介に体を預けたままだった。</div>
<div>　無事に人型へと変化を終えたとはいえ、それもついひと月前の事。それも間もなく、勘解由は松次郎の要請で戦場へと向かってしまったのだった。やっと、片言の人語を話せるようになった白妙を残して。勘解由が出かける時には幼児そのモノだった白妙も、今や少女の姿であった。</div>
<div>「うちの姫さんは、一人で着替えは出来んのかね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の真後ろには着替えを終えた勘解由が経っていた。</div>
<div>「今しばらくは、無理でしょうね。私とて、そうでしたから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　旨く指先が動かせないのだ。物を掴んだりと言う事は出来るが、細かい動作は難しいのだった。</div>
<div>「帯を結べるようになるまでは、もう少しかかりましょう」</div>
<div>　白妙の着付けを終えて幻之介はゆっくりと立ち上がった。</div>
<div>「お前の指は器用に動くのにな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由は幻之介の指先を捉えていた。</div>
<div>「私が勘解由様に再会した時は、変化から四年は経っておったでしょう。それに、白妙は私よりも早くその時期を迎えている。この体に慣れるまでには時が必要なのです」</div>
<div>　言いながらも、幻之介は恥ずかしそうに頬を染めていた。</div>
<div>　咄嗟の時には、未だに四つん這いで走り回る白妙であった。それも勘解由に告げたのだが、男は余り興味なさげに幻之介の指先に口を寄せていた。一本一本をしゃぶり上げる様な口の動きに、幻之介の背はぞくりと震えた。</div>
<div>　その身体を引き寄せた勘解由は、幻之介の耳元で囁いていた。</div>
<div>「お前の笛の音が聞きてえ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「はい、いくらでも&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は男を抱き返しながら答えていた。</div>
<div>　幻之介はいつもの様に、日当たりの良い場所に腰を下ろした。胸元の笛袋に手を伸ばしながら、勘解由を呼ぶ。幻之介の膝を枕に、勘解由はごろりと寝転んでいた。男の手がそっと、幻之介の頬に触れた。</div>
<div>「悪いな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は優しく微笑んで、笛を口に当てていた。視線は勘解由に向けたまま、息をそっと吹き込む。笛の音が響き始めると、視界の中の男はゆっくりと瞼を閉じるのだった。いつもの光景――。決して眠るわけではない。笛の音が響いている間中、腰よりも長く伸びた幻之介の髪の毛を手慰みに弄っているのだった。</div>
<div>　最初、勘解由は『仕事』から戻ると、苛立ったまま一人ぼうっと庭先を眺めるだけであった。それを少しでも慰めようと笛を取り出したのがきっかけだった。笛を吹く幻之介を抱きしめてきた両腕が、何かに耐えるように震えていたのだった。最初の日、その震えが収まるまで、幻之介は笛と吹き続けたのだった。</div>
<div>　そして今回も――。</div>
<div>（お辛いのならば、お断りになられれば良いものを&hellip;&hellip;）</div>
<div>松次郎の度重なる懇願もあった事は確かだが、白妙と幻之介の為と、その『仕事』を引き受けたのは明らかだった。『仕事』を受ければそれなりの報酬も入る。たぶん松次郎の計らいもあるのだろうが、定期的に表屋敷から荷が運びいれられるようになったのだった。それは、この集落の人々が生活するのには十文を超えた量。それでも、男達は自分たちの生活を崩す事は無かった。運び入れる荷が増えるにつれ、男達は専用の小屋を建てた。ある意味、物資は溢れていた。だが、幻之介をはじめとする庵の住人達は、それに殆ど手をつける事は無かった。</div>
<div>それにしても、毎回のように辛そうな表情で戻ってくる勘解由の事が心配でならなかった。</div>
<div>「やっぱり旦那帰ってたんですかい？」</div>
<div>　いつもよりも野良仕事を早めに切り上げてきた男達が庭先に顔を出していた。</div>
<div>　一旦止まった幻之介の笛の音に、勘解由は目を開けた。勘解由に寄り添うように、白妙がいつの間にか眠りに落ちていた。</div>
<div>「なんでえ、お前ら。又、野良仕事かよ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「まあね。幻之介や白妙は兎も角、働かなきゃ食っていけんでしょうが」</div>
<div>「なんでえ&hellip;&hellip;。あの禄高じゃあ不足か？」</div>
<div>「旦那に養ってもらう謂れはねえって事&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男達の言葉に、勘解由は面白くなさげに寝がえりを打っていた。男達はそんな勘解由にお構いなしで、それぞれが縁側に腰をかけていた。このところ毎度の様に繰り広げられる光景。勘解由の指先が催促するように幻之介の黒髪を引っ張るのだった。幻之介は再び笛に口を付けていた。ゆっくりと移り行く笛の音が、山間の集落にしみこんでいった。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「しかし、旦那もなんだねえ。幻之介が居ると立ち直りが早いって言うかさ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「まあ、前だったら、数日は誰も寄せ付けやしなかったもんなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　囲炉裏を囲みながら、男達は勘解由をからかうのだった。車座になって摂る夕飯。むすっとした表情の勘解由とは裏腹に、雰囲気はいつになく明るかった。</div>
<div>「勘解由おじ様、怒ってるの？」</div>
<div>　勘解由の膝の上に乗った白妙がじっとその顔を見上げてきた。</div>
<div>「違うよ、白妙。オジサンはねえ、幻之介を一人占め出来ないから拗ねてんのさっ」</div>
<div>　からかう男の方を無言のままに睨みつけた勘解由。そのまま杯の酒を飲みほしていた。</div>
<div>「まあ、旦那のおかげで、こうやって酒に在り付けるんだ。それだけは、感謝しねえとなっ」</div>
<div>　最近運び込まれる荷には、酒が多く含まれるようになっていた。ここの男達も、それにだけは手を伸ばす。だが、金子や他の財には一切目もくれない。勘解由もそれには気が付いている様子だった。本来の報酬ならば米と金子だけなのだが、松次郎が我が子の養育費代わりと、いろんなものを送ってよこすのだった。当初の頃米以外の食料も入っていたのだったが、流石にこれは勘解由が止めさせていた。</div>
<div>　ここにはここの暮らし方がある――、と。</div>
<div>　白妙がいずれ人型をとるであろう話も、白菊からでも聞いたのか。反物やら装飾やら、はては家具の類まで&hellip;&hellip;。とても武士の報酬とは思えない品物まで含まれているのだった。</div>
<div>「しかし、なんだねえ&hellip;&hellip;。白妙の親父殿は、何度娘を嫁に出すつもりなんだろうねえ」</div>
<div>　荷が運びいれるたびに男達が口にする言葉。それが聞こえたのか否か――。酒好きの勘解由を考えての内容に変わってきていた。男達も、そのお零れに預かる。だが、勘解由不在の時は、手出しはしないのだった。</div>
<div>　いつの間にか、勘解由も交じって雑談に花が咲く。そして、白妙が眠そうに目をこすり始めた。</div>
<div>「もう、寝るか？」</div>
<div>　勘解由の言葉に頷きながら白妙はその膝を降りた。その様子を男達が固唾をのんで見守るのだった。</div>
<div>　ちょこちょことした歩調で歩く白妙が、ある男の前で止まった。</div>
<div>　喜ぶ男と、落胆する男達。</div>
<div>「なんでえ、又、与吉の処かよっ」</div>
<div>　面白くなさげに、大助が言った。</div>
<div>「悪いねえ、こればっかりはなあ&hellip;&hellip;。なあ、白妙」</div>
<div>　与吉が抱き上げると、白妙はその首に腕を回してきたのだった。与吉は嬉しそうに白妙を抱き上げると、早々に勘解由の庵を出て行った。</div>
<div>　白妙が変化した最初の夜だけは、勘解由と幻之介の間に挟まれる様にして眠ったのだった。が、翌日からは、それを嫌がった。たぶん、白妙なりの気遣いなのだろう。勘解由が居る間だけは、他の男達の庵で寝るのが白妙の習慣になっていた。その相手を選ぶのは彼女自身。寸前までそれは分からないのである。男達には、毎夜の楽しみ。今のところ、与吉を選ぶ確率が一番高いようだった。</div>
<div>　与吉らを追うように、男達も早々に庵を後にしていた。残された勘解由と幻之介は互いの顔を見合わせていた。</div>
<div>「全く&hellip;&hellip;、気のきかせ過ぎだってえの」</div>
<div>　照れ隠しの勘解由の言葉を幻之介は笑顔で見つめ返していた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/210/">13―4</a>]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/209/</link>
			<pubDate>Sun, 07 Mar 2010 15:13:18 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>水責め</title>
			<description>
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/minamo7_thumb_1.jpg"><img border="0" alt="minamo7_thumb_1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1254239154/" /></a>&nbsp;
<div><font color="#ff0000"><b><font size="6">水責め</font></b></font></div>
<div><br />
拷問・処刑</div>
<div>　<br />
<br />
　大量の水を漏斗などで注ぎ込む方法や、川や池に縛り付けた受刑者を吊るして水につけたり上げたりする方法などがある。または、身動きの取れない受刑者の顔を強制的に水の中に押し込むなど、方法も様々である。だが、拷問が目的なのか、処刑が目的なのかによってどこで止めるのかが変ってくるだけの事。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<br />]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/208/</link>
			<pubDate>Sun, 07 Mar 2010 14:26:17 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>泡沫の夢　13―2</title>
			<description>
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/w-hanaguruma.jpg"><img border="0" alt="w-hanaguruma.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221651/" /></a>&nbsp;
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　表屋敷では松次郎がぐったりと項垂れていた。</div>
<div>「やはり、来ては貰えませんでしたか&hellip;&hellip;。あれが悲しむなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ばあか、そんなんじゃあねえ。白妙のせいだよっ、幻之介が戻ったンはっ」</div>
<div>　奥へと進む二人。それを呼び止めたのは藤乃であった。</div>
<div>「おや、幻之介殿は一緒ではなかったのかえ？」</div>
<div>「&hellip;お前までかっ。花嫁はどこだ？」</div>
<div>「祝言前に、男が会うもんではないわな。幻之介殿ならばいざ知らず&hellip;&hellip;」</div>
<div>「その幻之介からの言付けがあるんだが？」</div>
<div>「ふむ、なれば仕方も無かろう&hellip;&hellip;」</div>
<div>　こっちじゃ、と藤乃が案内したのは、以前幻之介が使っていた部屋だった。</div>
<div>「手短にな、勘解由殿」</div>
<div>　言うと藤乃は部屋を出て行った。</div>
<div>「やはり、幻之丞様は&hellip;&hellip;」</div>
<div>　目の前の白無垢姿の女の声が震えた。</div>
<div>「早合点するんじゃねえぞ、白菊。これを&hellip;&hellip;。お前にと、幻之介がな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白菊の前に勘解由は預かり物を無情さに差しだした。女の震える手がそれを受け取った。</div>
<div>「それが&ldquo;何&ldquo;なのかは、お前には解るだろう。細工は俺が施した。いつもあいつがその身につけていられるようにとな&hellip;&hellip;。あいつが、ここに顔を出さねえ理由な白妙の為だ。あれはここには連れてこれねえしな&hellip;&hellip;。かといって、一人にしておくわけにもいくまい？」</div>
<div>　女は不知火の片割れを胸に抱きしめながら、嗚咽を漏らしただけだった。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「あちらこちらで怪しげな動きがあるようで&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そんなの、今更俺の知った事じゃあねえやな」</div>
<div>　勘解由が部屋で寝転がっていると、松次郎がやってきて言うのだった。</div>
<div>「ですが義親父殿。戦火が広がれば、いずれは長谷川にも命が下る事に&hellip;&hellip;」</div>
<div>「それこそ今更だろう。あの大殿が好きで広げたんだ。&hellip;&hellip;もう、俺には関わりは無え」</div>
<div>　ごろりと勘解由は背を向けるように寝がえりを打った。</div>
<div>「徴兵召集ともなれば、話は別でございましょう？」</div>
<div>「雑兵集めて、何するって言うんだ？」</div>
<div>「一揆潰しの捨て駒ぐらいにはなりましょうや&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ぼそりと言った松次郎を勘解由は肩越しに睨んでいた。</div>
<div>「魔王に従えねえ輩はそれだけ多いって事さっ。ましてや民衆相手になら尚の事――。俺には全く興味はねえっ」</div>
<div>　吐き捨てるように言う勘解由の背後で松次郎が大きな溜息を吐いた。</div>
<div>「義親父殿――」</div>
<div>　なおも食い下がろうとする松次郎。勘解由はもっそりとその身体を起こしたのだった。</div>
<div>「あんな胸糞悪い事は一度で沢山だっ。やりてえ奴が好きにやりゃあ良いだろっ」</div>
<div>　背を向けたままの勘解由に、松次郎は諦めるかのように部屋を出て行った。</div>
<div>　ひそかに松次郎は義兄から命を受けていた。主家の命令は断る事も出来なかった。勘解由を手放すな――、と。しかも有事の際には戦場に引っ張り出せとまで言われていた。目下の敵は一揆衆。魔王の軍は、ここの処この一揆衆に手酷くやられっ放しなのであった。民衆の旗色が強いと聞いて、あちらこちらで反勢力が介入し、戦火が拡大していく。手持ちの兵を減らす事無くこちらの力を削ぎ落そうとしているのだった。それ以外にも、大きな集団がその背後に潜んでいるのだ。</div>
<div>　徹底的な殲滅――。処が魔王の思惑通りには事は運んでいなかった。</div>
<div>　近いうちに命が下る――。それは松次郎の予感と言うモノではなく、情勢から見える確信であった。</div>
<div>　何よりも、松次郎自身、家名を背負って立つ自信がなかった。せめて初戦だけでも勘解由に居てほしかったのだ。だが、とてもそれを口にできる雰囲気ではなかった。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　不機嫌そのモノと言う表情で勘解由は庵に帰ってきた。</div>
<div>「あの&hellip;、勘解由様。白菊が何かしたのでしょうか？」</div>
<div>　勘解由の表情を見て、心配そうに幻之介が問いかけてきたのだった。</div>
<div>「祝言の事なら別に変った事は無かったが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　そう言いながらも勘解由の表情は険しかった。</div>
<div>「本当に？」</div>
<div>　幻之介は心配げに勘解由の顔を覗きこんでいた。</div>
<div>「ああ、顔に出ちまったか？そんなら、たぶん嫌な事を思い出しちまったせいだ」</div>
<div>　勘解由は幻之介を抱きしめながら、その首筋に顔を埋めていた。まるで甘えるかのような仕草。幻之介は無言のままに男を抱き返していた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「幻お兄様、後はこれってどうすればいいの？」</div>
<div>　織り機に腰をかけた白妙が振り向いた。初夏の風の吹き抜ける部屋で、幻之介は糸車を回す手を止めた。</div>
<div>「全く&hellip;&hellip;。白妙は幻之介のやる事全部に興味がある見てえだな」</div>
<div>　荒駒の上から勘解由が答えていた。</div>
<div>「勘解由おじ様っ、お帰りなさいっ」</div>
<div>　白妙は幻之介に問いかけた事など忘れたかの様に、勘解由に飛びついていた。</div>
<div>「幻之介はお兄様で、俺はオジサンかよ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　不服そうに言いながらも、勘解由は白妙を抱いたままで荒駒を降りていた。</div>
<div>　縁側から、幻之介も勘解由の傍へと近付いた。</div>
<div>「お帰りなさいませ、勘解由様」</div>
<div>　安堵の表情を浮かべたまま、幻之介はそっと手を差し伸べていた。その手の上に、勘解由は腰先から引き抜いた太刀をそっと乗せた。一瞬だけ触れた指先に、幻之介の肌が染まった。</div>
<div>「今度はどの位？」</div>
<div>「まあ、数日はゆっくりしていられようが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「おじ様又お出かけ？」</div>
<div>　腕の中で白妙が聞いた。</div>
<div>「お前の親父殿の頼みとあっちゃあ、断るわけにもいくまい？」</div>
<div>「そう&hellip;&hellip;、父様の」</div>
<div>　勘解由の腕の中で、白妙は妙に沈んだ顔をしたのだった。</div>
<div>「どうした？白妙」</div>
<div>「私&hellip;、父様何て嫌いっ。だって、おじ様連れて行ってしまう&hellip;&hellip;。おじ様居ないと幻お兄様、とっても淋しそう&hellip;。私&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は白妙の言葉に苦笑を浮かべるしかなかった。</div>
<div>「淋しいか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由はぼそりと呟いた。そして、そのまま幻之介を抱き寄せたのだった。</div>
<div>「&hellip;&hellip;そうなのか？」</div>
<div>　幻之介の顔を覗きこむように勘解由は問いかけていた。幻之介はただじっと相手を見つめ返しただけ。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。湯あみを&hellip;&hellip;。お疲れになったでしょう」</div>
<div>　勘解由に視線を向けたままで、幻之介は言っていた。</div>
<div>「そうだな、戦場の垢でも落としてくるか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の肩を抱いたまま、勘解由は表口へと向かっていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/209/">13―3</a>]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/207/</link>
			<pubDate>Sun, 07 Mar 2010 14:18:09 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>泡沫の夢　13―1</title>
			<description>
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/e8238251.jpeg"><img border="0" alt="e8238251.jpeg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1253024919/" /></a>&nbsp;
<div><font color="#ff99cc"><strong><font size="4">１３・白妙</font></strong></font></div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　梅雨のジメジメした空気も、ここに集まる者たちにとっては少しも苦ではないようだった。湿気寒い風が吹き抜ける中で、男達はぐるりと車座になって作業に没頭していた。幻之介の布を織りだす音が響く中、其々の手仕事に打ち込んでいるのだった。その間を、所狭しと豊かな尾を振って白妙が飛び跳ねていた。</div>
<div>　勘解由も幻之介のすぐ傍で細工物に勤しんでいた。町で獲物を売ってきた時に購入してきたという、小刀を使っているのだった。それは細工物専用に加工された、小さな鑿の様な刃物だった。</div>
<div>　手慣らしだ&hellip;、と言いながら青竹を割った物に、何やら模様を刻んでいく。幻之介はその手元にじっと見入っていた。</div>
<div>　そのたびに勘解由は照れたように「仕事は？」と言うのだった。慌てて織り機に向かう幻之介。忍び殺した様な勘解由の笑い声が背後から聞こえるのだった。</div>
<div>　何本も、似たような幅・長さの青竹荷細工をしていく男。ふと、ある時満足げな笑みを湛えて幻之介に言って来たのだった。</div>
<div>「お前の不知火――、俺にくれねえか？」</div>
<div>　真っ二つに割れ、すでに笛としての役目も果たせなくなった代物。それでも、母の形見の骨笛ゆえ、今まで肌身から離さずにいたものだった。</div>
<div>「あの&hellip;、でも&hellip;&hellip;」</div>
<div>　困惑気な表情をした幻之介に、勘解由は笑顔で答えていた。</div>
<div>「あっ、言葉が悪かった。あれを、俺にちょいと貸しちゃあくれねえか。お前がいつでも身につけられるよう、細工するだけなんだが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由の言葉が終る前に、幻之介は胸元の笛袋からそれを取り出していた。</div>
<div>「どうぞ、お好きにお使いください」</div>
<div>　そっと差し出された、二つを勘解由は受け取った。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。あまり手元を覗きこむなよ。緊張して、しくじってしまうから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　照れたように、言う勘解由に幻之介は微笑んで頷いていた。</div>
<div>「しかし、器用なもんですな。どこでこんな事覚えたんですか？」</div>
<div>　ひょいと勘解由の手元を覗いた与吉が言ったものだ。興味津津とばかりに、他の男達も聞き耳を立てていた。</div>
<div>「以前――、俺の部隊に居た爺様が手慰みにやっていてな。もう、だいぶ前の事になるが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由は手元から、目を離さずに答えていた。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。台があった方が良いんじゃねえですか？」</div>
<div>　大助がぼそりと言った。</div>
<div>「爺様は、今の俺見てえな恰好でやってたがな&hellip;&hellip;。ああ、あると楽かもしれんが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　時々首を回しては、又、己の手元に集中する勘解由。それを見て男達は何事かひそひそと話しこんでいた。</div>
<div>　青竹を削るのとは勝手が違うらしく、勘解由の作業は遅々として進まない様子だった。どうしても余分に力が必要な為か、作業をしている時間よりも、手を休める時間の方が多くなっていた。</div>
<div>　そんな折、ここ数日姿を見せなかった大助と与太郎が荷を抱えて庵にやってきた。</div>
<div>　文机とは明らかに異なった、丈夫な造り。高さもあり、座ると丁度胸元に届く程の物。両脇の足の部分には小さな引き出しまで造り付けられていた。大助と与太郎が共同で造り出した勘解由の作業台。何しろ、この集落の家財の殆どを彼らが造り出していた。別に誰に教わったというのでもなく、見よう見真似で造り出すのだ。</div>
<div>「まあ、旦那の為って言うよりはさ、幻之介の為さね。旦那の作業が中断すると、幻之介がいつも心配そうに見るもんでね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与太郎の言葉に勘解由は苦笑を洩らしていた。</div>
<div>「どうせ、そんなこったろうさ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。そろそろ、飯にでもしないかね？」</div>
<div>　台所に立つ佐吉が皆に向けて声をかけていた。</div>
<div>　それぞれが、己の得意な事で皆を助けあう。それを極当たり前に行っているのだ。幻之介はそれを眺めながら、針仕事に精を出す与吉にそっと声をかけていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　綿花の袋もだいぶ嵩を減らし始めた。幻之介は針仕事をしていた。幻之介の代わりに、与吉が織り機の前に座っている事もあった。時々、与吉は幻之介の手元を覗きこんで、あれこれ指図をする。それを幻之介は頷きながら真剣に聞いているのだった。</div>
<div>　梅雨も明け、男達は再び野良仕事にせるようになった。</div>
<div>　幻之介の結い上げられた髪の根元には勘解由の細工の施された、不知火の片割れが一本差しこまれていた。幻之介は家内の仕事を終えると、日差しの当たる縁側で針仕事に打ち込んでいた。勘解由は表屋敷からの使いが来て、野良仕事の最中に連れ出されてしまったのだった。使者に悪態を吐きまくる勘解由を宥めすかして送り出したのはほんの数刻前。時々幻之介は針仕事の手を止めて、己の髪に手を伸ばすのであった。</div>
<div>　突然の訪問者は勘解由と共に訪れた。</div>
<div>「白妙―っ」</div>
<div>　若い男の叫びに、白狐はその声の主に飛びついた。</div>
<div>「会いたかったぞっ」</div>
<div>　白狐に頬摺りしながら「大きくなったなあ」としみじみと言う若い男。他の男達はそれをブスっとした表情で眺めていた。幻之介は視線を反らして笑いを堪えていた。</div>
<div>「旦那、誰なんですか？」</div>
<div>　勘解由の耳元にこそりと聞いたのは与吉。</div>
<div>「ああ、親父だ」</div>
<div>「親父って&hellip;&hellip;、誰の？」</div>
<div>　きょとんとした佐吉。勘解由はただ指さしただけ。</div>
<div>　と、同時に男達の驚きの声が上がった。</div>
<div>「え&hellip;っと、この方が白菊の旦那ってことですか？」</div>
<div>　しどろもどろの与太郎に向かってにっこりと振り向いた若者。</div>
<div>「白妙がお世話になっている。松次郎と申す。義親父殿共々、今後も良しなに頼む」</div>
<div>　潔く頭を下げた若者に、男達もつられる様に頭を下げていた。</div>
<div>「義親父殿って&hellip;&hellip;、まさか」</div>
<div>　目を白黒させた与吉に、勘解由はさらりと言ってのけた。</div>
<div>「俺の息子――。本当は甥っ子だがな。後を継いでもらった」</div>
<div>「甥っ子って&hellip;、あの若様以外に？」</div>
<div>　大助の言葉に笑顔で松次郎が答えていた。</div>
<div>「あれは義兄です。私は母が違いますので」</div>
<div>　あっさりと言い切る松次郎にどうやら男達も警戒を解いたらしい。</div>
<div>　勘解由の庵の中、車座になる男達。その間を嬉しそうに白妙が走り回っていた。</div>
<div>「これで安心申した&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ぼそりと言った松次郎に、勘解由は頭を抱えた。</div>
<div>「だからってなあ、松&hellip;&hellip;」</div>
<div>「駄目なのですか、義親父殿っ」</div>
<div>　わけのわからない二人のやり取りに、皆の視線が集中した。</div>
<div>　幻之介は何事かと、二人に問いかけていた。全く正反対の反応を示す二人。</div>
<div>　松次郎が幻之介に向かって言った。</div>
<div>「是非とも祝言の席に参列して欲しい&hellip;&hellip;、幻之介殿も」</div>
<div>　一晩を白妙と共に過ごした松次郎は、幻之介の返事を聞く事も無く早朝表屋敷へと戻って行った。</div>
<div>「少なくとも、一晩はあっちに泊らねばならなくなるだろう。その間、白妙をどうするかって事だ。まあ、あいつ等に任せても良いと思うがな」</div>
<div>「&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介はじっと考え込むだけだった。</div>
<div>　幻之介と勘解由が出かけると言う朝、何かを感じるのか白妙は妙に落ち着きなくソワソワとしていたのだった。</div>
<div>「白妙の事は俺らに任せて行ってこいや。たかが一日の事だろう」</div>
<div>　そう言う男達に白妙を預けて二人は馬を走らせた。</div>
<div>　途端に白妙が、男の手をすり抜けて追いかけだしたのだった。悲しそうな泣き声を上げて&hellip;&hellip;。</div>
<div>　それを聞きつけた幻之介が勘解由を呼び止めた。急に立ち止まる黒馬二頭。</div>
<div>「どうした、幻之介？」</div>
<div>「やはり、私は残ります&hellip;&hellip;。代わりにこれを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　己の髪に差してあった不知火の片割れを勘解由に手渡したのだった。</div>
<div>「でも、これは&hellip;&hellip;」</div>
<div>「私には、もう片方ありますから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　そう言った幻之介の胸元に白妙が飛び込んできた。</div>
<div>「私の代わりに、それを、白菊へ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言うと、幻之介は白妙を抱いたまま、庵の方へと戻って行った。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/207/">13―2</a></div>]]>
			</description>
			<link>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/206/</link>
			<pubDate>Sat, 06 Mar 2010 12:55:59 GMT</pubDate>
		</item>
		<item>
			<title>アペカの像</title>
			<description>
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/666-1.jpg"><img border="0" alt="666-1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1252297667/" /></a>&nbsp;
<div><font color="#ff0000"><b><font size="6">アペカの像</font></b></font></div>
<div><br />
紀元前２００年ごろのスパルタの処刑器具</div>
<div><br />
<br />
　時の独裁者ナピスは自分の美しい妻アペカそっくりの彫像を作らせた。その彫像にはアペカ自信の衣装を付けさせ、アクセサリー、香水までも纏わせた。</div>
<div>　ナピスは晩餐に招くと称してスパルタ中の金持ちに声をかけた。その一人ずつをある部屋に招き入れるのだ。そして、何気ない口調で金を無心する。男が招き入れられた部屋には薄布の垂れた天蓋の中にアペカの姿があった。「幾ばくかの金を差し出す代わりに、絶世の美女アペカを一晩自由にして良い」と、持ちかけられるのだ。</div>
<div>　これに応じた金持ちは天蓋の中へにじり寄っていく。男が舌舐めずりしながらアペカに近付くと、女は両腕を広げて男を受け入れようとするのだ。男は堪らずその身体に抱きつく。途端にアペカの腕が男をキツク抱きしめた。当然この女の正体はナピスが作らせた彫像。そしてその全身は尖った針で覆われていた。だが、その針は衣装と男自身の欲で見えなくなっていたのだった。当然男の全身からは血が止めどなく流れ出る。捜査しているのはナピス自身。</div>
<div>　男の死後、約束として執達吏がその男の家に金を徴収しに行くのだ。残されるのは男の遺体と空っぽの金蔵。</div>
<div>　この像をヒントに造られたと思われるのが、「鉄の処女」や「鉄の聖母マリア」と言われている。この二つはあくまでも処刑器具では無く拷問装置。その為、中の受刑者が簡単に絶命しないように針は急所を外すように取り付けられているのだ。</div>
<div><br />
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			<pubDate>Sat, 06 Mar 2010 12:51:06 GMT</pubDate>
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