小鳥の鳴く声に小十郎はゆっくりと目を開けた。人肌の感触にその方を見れば、未だ少年らしさを残した政宗の顔が見て取れた。
じんじんと疼く体を気にしながらも、小十郎は寝返りをうとうとしたがそれも叶わなかった。背後から抱きつくような姿勢で寝息を立てる政宗の物が、未だ小十郎の中に納められたままだったのである。
小十郎の身じろぎに、政宗がゆっくりと瞼を開けた。
「…っ、政宗様…」
目覚めた途端に政宗は突き上げを始めた。
刺激に徐々に大きくなっていく小十郎の中の物。
「小十郎、ゆんべはとっとと落ちちまいやがって…。覚悟しろよ…」
「…まっ、うっ…。くっ」
若さに任せた突き上げはあっという間に小十郎を高みへと押し上げていく。
人の動きだす気配を感じながらも、小十郎は声を押し殺した。それでも、尚漏れ出す嬌声。それに気を良くしたか、若い主君の動きは激しさを増すばかり。
「…もっ、これ以上は…」
「これ以上…、なんだって…」
背後に伸し掛かる政宗は、それでも動きを止めようとはしない。
「…こ、声が…。くふうっ…、うううっ…」
「……仕方ねえなあ」
政宗は、小十郎の中から己の物を引き出すと組み敷いていたその体を返した。小十郎の足を高々と抱えあげると、再びの突き入れ。
「これなら、文句あるめえ…」
云いながら小十郎の体の上へと覆いかぶさって来た。
仰け反ってその衝撃から逃れようとする小十郎の頭をとらえると、そのまま口を合わせにかかった。
息苦しさにもがく小十郎の舌先を、政宗のそれが絡め取る。小十郎の吐き出す嬌声と共に。湿った音と皮膚のぶつかり合う音の中に、獣のような息使いだけが混じっていた。
再びの大広間―――。
集まった家臣たちを前に、政宗は輝宗の埋葬の手配と今後の対応を指示した。初七日を過ぎたのち、直ちに進軍を開始すると――。
事実上の輝宗の弔い合戦。下準備を早くから始めていた成実が政宗の左に座していた。その、反対側には未だ顔色の優れぬ小十郎の姿。車座になって勧められる軍議。政宗の正面には鬼庭親子を始めとした一族の武将達。いつもならばその中心に座する基信一派の姿が見当たらなかった。
一同には、基信の輝宗贔屓は周知の事。しかも、この度の顛末を聞いては流石の基信自身未だ立ち直れずと踏んでいたのであった。当の、政宗にしても軍議に欠席の報告は受けてはいなかったのだが敢えてそれを問いただそうとはしなかった。
「で、今居ねえ奴は、どう使う気なんで」
そう政宗に聞いてきたのは成実。
その問いに一同の顔に緊張が走った。
「別に…。好きにさせておくさ。動く気があれば、俺の指図なんかは受けねえだろうしな…」
「…例えば。趣旨替えして奴が相手方についたらどうする」
成実のその言葉に、激しく反応を返したのは左月であった。
「成実殿。いくらそなたの立場であっても、言っていい事と悪い事があろうっ。基信を愚弄する気かっ」
「基信に限った話じゃあねえだろう。俺の政宗贔屓と同様、いやそれ以上に御館様に傾倒している輩は多いんだぜ。その急先鋒ともいうべき男がここに居ねえってのがなぁ。しかも何の沙汰も無くってなあ…」
成実の、暗に匂わせた反政宗勢力に対する牽制の言葉。さしもの左月もそれ以上の食い下がりを見せることなくただ若き主君の顔を見つめただけだった。
「…成実。基信に関して言えば、有りえねえ話だ。…まあ、他の奴らがどうかは解らねえがな。…兎に角、今回の戦に関しちゃあ、基信はあてにしてねえ…」
その、吐き出すように言う政宗の言葉をただ黙って左月は飲み込んだ。
「…が、兵力が少ねえってのも事実。成実、なるべくかき集めろ。その上で布陣を敷くしかねえからな…」
苦笑いを浮かべながらの政宗の言葉に一同はただ頭を垂れて見せた。急な戦支度の上、相手方の大将は間違いなく籠城戦を決めてくるはず。それ以外の周囲の敵勢力の動向も気になる。
「周りが、変な動きし出したら下手すりゃこっちが返り討ちに会う。…取り敢えず、情報収集もだな…。ある意味無謀な時期の戦さ。天候にだって左右され兼ねないしな…。それを承知でついて来れる者だけで良い、今のところはな…」
「私は意地でも参戦させていただきますよっ」
云い切ったのは最年長の左月。
「親父殿が老体で参戦するのに、我々が黙っていられようか…」
左月に続くのは他の一族武将達。左月の息子は、その親父の意気込みに頭を抱えつつ溜息をついた。
「私は残りましょう。皆様の帰る場所を守る者も必要でしょうから…」
溜息と共に綱元の口から出た言葉。大まかな布陣の確約を取り付けて、此度の軍備はお開きとなった。
広間を出ようとする政宗を、左月が呼び止めた。
「若っ。若も、基信が裏切ると…」
「…否。思わねえよ…。ただ、この戦に参戦するとも思えねえってのは事実だけどな…」
左月の言葉に返事を返した政宗は、相手を見る事もなくその部屋を後にした。
やはり案の定、基信ら一派は出立の日になってもその姿を見せる事は無かった。それぞれが、複雑な思いを胸に抱きながら敵の城を目指しての行軍が始まった。
流石に敵も政宗の行動を読んでいたらしく、想定通りの籠城戦へと戦は進んで行った。冬の厳しさも敵に回り、思うような戦火を揚げられずにいた時、その知らせは政宗の元へと届けられた。
基信以下数名の武将達が出奔したというのである。
その知らせに浮足立った古参武将達を怒鳴りつけたのは成実の存在。小十郎はただ、政宗の傍らでその知らせを聞き大きな溜め息をついて見せた。
「あのお方は…」
その、小十郎の呟きを政宗は聞き逃さなかった。
「小十郎…、なんか知ってんのか」
「知っているのは左月殿の方でしょう…。私はただ、予感がしていただけですから…」
政宗の幕陣の中に重い空気が流れた。
名前を出された左月は、小十郎同様にこれまた大きな溜め息を付いた。
「私とて、知りませんよ。ただ、奴ならば…」
それ以上二人は口をつぐんだままだった。
政宗のどんな問いかけにも、重く閉ざされた二人の口は開く事は無かった。ただ、二人が言った事は、「基信探索に人を割りさく必要は無い」と、言う事だけ。
政宗は、二人の奇妙な合致を不思議な面持ちで見つめたいただけだった。
その数日後―――。
基信発見の知らせが政宗の元に届けられた。
出奔した基信他の武将達も同時に発見されたと…。
その知らせを政宗の幕陣の中で聞いたあの二人は、それ以後の報告を聞く事もなくその場所を静かに退席したのだった。
残された政宗以下の他の武将達が耳にした報告内容に、一同は二人の行動の意味を知った。
基信らが発見されたのは、輝宗の墓前であった。「鼠」らの探索にもかかわらず、彼らの行動はそれ以上に早かったのだろう。
大きな血溜まりの中、彼等は横たわっていたのだった。
特に基信は最も輝宗に近い位置で発見された。満足げな、笑みを浮かべたような表情で冷たくなっている姿をである。ちょうど輝宗の死後十四日目の事であった。
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