床に横たわる幻之介は眼を閉ざしたまま、体の震えに耐えていた。気を許せば、歯の根の合わなくなるほどの震え。痛めた左足だけでなく、体中の節々が痛む。晩秋の明け方、薄物単衣での強行の付けとばかりに、風邪をひき込んでしまったらしい。己の吐息がやけに熱く感じられる。其のくせ、体は震えが来るほどの悪寒に苛まれているのであった。ここに運んでくれた男達も、とうに部屋から出て行ってしまった。一人取り残された心細さに、幻之介は小さな溜息を零した。額にのせられている濡れ手拭いも、己の熱でしっかりと温まってきている。
「体…、辛えのか…」
手拭いの取り払われる感触に、思わず瞼を開けてみれば、いつの間にか傍についていた勘解由の顔。湧き上がる安堵感に、瞳が潤む。
「…どうした、どこか痛むのか」
心配そうに覗き込む勘解由に向かって、無言のまま首を振る。水音の聞こえた後、再び額に乗せられた濡れ手拭い。離れていくその袖をそっと握りしめた。
「…どうしたってんだ?」
問いかけれる声音は優しかった。
「…傍に、…居て」
小声でそう伝えるのがやっと。
(このまま離れて欲しく無い…)
そう思いながらも、それを口にのせる事は出来なかった。
「幻之介…」
「少しの間だけで良いから…」
伝える声が震える。悪寒ではないその震えを、勘解由はどう受け止めたのか…。
「寒いか?」
「…少しだけ」
「…しかたねえなあ。ちょっとだけ、待て…」
幻之介は、仕方なく手を離した。そっと勘解由の立ち上がる気配。…呆れられたのか。溜息一つ零して布団を目深に被った。
器の触れあうような音と共に、再び勘解由の近づいてくる気配。だが、幻之介は布団から顔を出す事が出来なかった。
すぐ傍から聞こえる微かな衣擦れの音。聞こえなくなったと思ったら、勢いよく布団をはぎ取られた。
まだ昼過ぎの日の差し込む部屋の中。寝間着姿の勘解由を目の前に、幻之介は戸惑った。
「体、辛えんだろうがなあ…」
急に抱き起こされた為か、目の回るような感覚が襲ってきた。ぐらりと傾ぐ体を力強い腕が支えていた。重ねられた唇から流し込まれる液体。喉が潤される心地よい感触に、幻之介は浸った。歯列をぬって潜り込む物の動きにも無意識のうちに答えていたらしい。離れては、またすぐに潤いの与えてくれるその感触に、溺れていったのだ。
「夕べの話…、まだ、有効か?」
口合わせの合間をぬう様に、勘解由が問うてきた。
「…そうすれば、…傍にいて下さいますか。…勘解由様」
「…無理にとは言わねえ、幻之介。おめえに、無理強いさせるつもりもねえ…。嫌なら、そう言ってくれ…」
「……嫌なのでは、…ただ」
「ただ…、なんだ」
「……」
抱きとめる男の体にその身を凭れかけさせたまま、その胸に顔をうずめた。発熱とは違う、頬の熱さ。
「…怖えのか?」
無言で、小さく頷いた。
「俺がか…」
「違います。ただ…、……どうすれば、良いのか…」
今更の様な問答に、幻之介は自分の顔が朱に染まっていくのを感じたのだった。
「そうか…」
呟くような勘解由の言葉が、胸元から響いてくる。急に頤を取られ、顔を上げさせられる。覗き込む視線がぶつかる。ますます頬に熱さを感じて、思わず幻之介は瞼を閉じた。
「朝まで、ずっと付いていてやるから…。良いか、幻之介」
その、優しさを纏った言葉に小さな頷きを返した。
何度も、何度も啄ばむように合わせられる唇の感触。知らず知らずの内に、幻之介の吐息も乱れていく。胸元に差し入れられた勘解由の指の冷たさに、体がびくりと震えだす。
「こういうの、初めてか……。…まだ、体熱いなあ」
胸元の突起に触れられた途端に、ずきりとした感覚が下半身を襲った。抓まれるように刺激を繰り返される。擦り潰される痛みと快感。次第に強まっていく射精感に思わず、幻之介は頭を振った。
「ひうっ…、あ…ん」
「ここが、良いか。」
「もう…、い…たい…」
途切れる言葉が、自分の物とは思えぬ程。揺れだす腰先を止める事も出来ず、ただ勘解由の胸元にすがった。
「痛いだけじゃないだろう。多少、熱ある時の方が良いらしいからな。…良いぞ幻之介、そのまま、感じてみろよ…」
口合わせも加わり、幻之介はなすすべもなく翻弄される。滑り落ちた勘解由の指先が己の物をとらえた時には、悦楽の涙を浮かべていた。
いつの間にか、抱き崩されていた事など気が付かない程であった。首筋を這う舌先の感触にも、身震いが起こるほどの感覚。徐々に下っていくその先…。胸元の突起を含まれた途端に、小さな声が思わずもれた。
「はあ…、ふっ。…あ…ああっ」
下半身に響く感覚。思わず、幻之介はその身を捩ろうとするが、熱に犯されている体ではそれすらもままならない。無意識のまま、揺れだす腰先。足の痛みも忘れさせるような快感が、更に腰の動きを誘発してしまう。もっと、ちゃんとした刺激が欲しくて、思わず勘解由に腰先を押し付けてしまう程であった。
「…ああ…ん…、もう…」
くうんと、鼻を鳴らす様な息づかいと共に、幻之介は男の手の内に放っていた。全身に浮いた汗の玉。それが流れ落ちる感覚にも、快楽の震えが走る。乱れた吐息は未だに整う事もない。かろうじて、引っかかっているだけの単衣すら、大量の汗を吸いこんで肌にじっとりと張り付いてくる。いつの間にか下帯を剥ぎ取られていた事さえ気が付いていなかった。
「辛いか…」
優しく問いかける、男の指先が滑りを伴って、後孔に潜り込んでくる。
「あうっ、ふ…ぅ…」
「…中、熱いな…まだ」
「く…う…っ、…そ…こっ。い…あ…ああ」
異物感の苦しさに身をよじれば、突然の電流の走るような感覚。一気に押し寄せる射精感に、思わず仰け反ってしまう。
「ここか…。おめえの良いトコロは…」
「やあ…、だ…め。…は…あん、やめ…な…」
強すぎる刺激に自然と両足が開いていく。自分がどんな淫らな格好をしているのかすらの意識も出来ない。止めて欲しいのか、続けて欲しいのか…、それすら自分では分からなくなっていく。ぐちゅぐちゅと聞こえる音も気にならなくなっていく。
「…も…う、…や…あぁ…」
鼻から抜ける声が、気持ちと裏腹な言葉を吐き出させる。
「良くねえのか、幻…」
「…だっ…めえ、…分か…んな…い…よぅ」
うっすらと額に汗を浮かべて己を組み敷く男の背中に両腕をまわす。揺さぶられる体と、気持ちがばらばらになってしまいそう。肝心の場所には一切触れていないと云うのに、もう少しの刺激で弾けそうになってしまっている。
「ま…た…、も…う……」
限界を伝えるように、勘解由にしがみついた。
「…何度でも。良いぞ…、幻…」
増やされた指根の刺激に、簡単に逐情してしまった。それでも、なおも指の動きは止まらない。
「…もうぉ、…終わら…せてぇ…。…許してぇ…よぉ。や…あ…あ…あん…、また…」
三度の立ち上がりに、呼吸も苦しくなっていく。そんな中で、激し過ぎる程の口合わせを受ける。すうっと出ていく指根の太さに、漏れた声は勘解由の口の中に吸い取られた。
「そのまま、力抜いていろよ…」
「えっ…、なっ…ん…」
体を折り込まれる辛さ。その後の衝撃に、言葉も出せたもんではなかった。
「ひいっ…、はっ…あ…あ…ああっ」
ゆっくりとこじ開けるように進んでくる、熱い塊。思った以上に、苦しい。逃れようと体をよじっても、力強く抱き締められてはそれも叶わない。奥を目指して進んでくる塊。激痛とも違い、鈍い痛みが押しあがってくるような感覚。無限とも思われるその長さ。その侵入が止まっても、その疼きは止まらない。担ぎあげられた両足が小刻みに震えるだけ。
「幻…、そんなに絞めんな。…力抜けよ」
動きを止めた男が優しく囁いてくる。が、自分が意識してやっている事ではない。ただ、相手にしがみ付く事しか考えられないのだ。
「…はう…う。…はあ…あん」
衝撃に縮んだものをやわやわと握られれば、自然と声が漏れてくる。ゆっくりと、抜き差しされれば、内臓ごと引きずり出される様な感覚が襲う。快楽と苦痛の狭間に、男の吐き出す官能の声を聞いたような…。真っ白になっていく感覚の中、徐々に激しさを増していく突き上げ。熱い疼きだけが後ろを支配していく。中に叩きつけられた熱い体液。後ろから溢れ出してくる感覚。その直後、幻之介は目の前に閃光が広がっていくような感覚に陥った。
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