猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。



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 いつも誰かの声がするのだった。今までの様に風の音だけが響く静けさは失われていた。どこかで何かの物音がする。人々の生活の気配が伝わってくるのであった。それに気を取られ、幻之介は意識を遠く飛ばす暇も無いほどであった。
 いつの間にか集落は大きくなっていた。自給自足の貧しい生活にも関わらず、いつの間にやら人が集まり始めたのだった。中には遠く離れた土地からやってきた者達もいた。誰もが、幻之介と白妙に頬笑みを向けるのだった。
「幻之介殿、少し布を分けて下さらんかのお。着物が破れてしもうてな……」
 春先に転がり込んだ老人が縁側で糸を紡ぐ幻之介に声をかけた。
「ほれっ、脱いでよこしっ」
 その背後から現れた藤乃が手を差し出していた。
「ばあ様、済まねえなあ……」
 降り気に腰をおろしていた白妙が、その奥へと消え、手に布切れを持って再び現れた。
 元気のある男達は畑へと出ていた。丁度綿花の収穫の時期なのだ。幻之介達の仕事場は勘解由の庵の西側へと増築されていた。大量に取れる様になった綿花を収納する場所も必要だったからだ。仕事場は庵の縁側と渡り廊下でつながっていた。
「ああ、そうじゃ。ほれっ」
 老人が幻之介に竹籠を差し出してきた。
「今朝の分じゃ……」
 十数個の卵を手に、幻之介は礼を述べていた。
 人も増えたが、家畜も増えていた。この老人の様に、足腰の弱った者たちにはそれなりの仕事が与えられるのだ。皆で生活を営む……、その姿勢がこの集落に住み付く者の条件であった。幻之介や白妙の見た目に近い若者のも加わる様になっていた。
「幻之介様ぁ、戻ってまいりましたよう」
 遠くの小道から、若い娘が手を振っていた。荷馬車にゆられながら、若い二人は幻之介に向かって手を振り続けていた。
「おやおや、あの顔付きじゃ……。余程に良い値で売れたらしいね……」
 縫物を終えた藤乃が老人に着物を手渡しながら言っていた。
 兄の方は無言のままであったが、妹の方は息もつかぬ勢いで話まくっていた。以前、町に売り物に言った男が、帰り道に拾ってきた二人なのだった。傷付き倒れていたのを助けられ、傷がいえた後、そのまま集落に住みついてしまったのだった。もう、誰もがそんな事に慣れていた。庭先では老人たちが、代わりに買い入れた荷を受け取っていた。次々と共同の集積小屋へと運び入れられる荷物。
「ほう、今回は随分と仕入れてきたねえ」
「幻之介様と白妙様の布を高く買ってくれたお大尽がいたんでねっ。もう一回二回くらいで冬越えの蓄えには充分なんじゃないかな……」
 娘の言葉を聞きながら、藤乃はちらりと荷車を見たのだった。
「で…、そちらの者は?」
 藤乃の言葉に、黒い塊が動いた。
「帰り道で拾ったの……。駄目だった?」
 白く濁った瞳は半開きのままで、藤乃の方を向き姿勢を正したのだった。
「駄目だった…って、犬猫を拾ってくるのとはわけが違うぞえっ」
 藤乃の苦言に娘はうなだれた。
「だって、行き先が無いって……。私たちと、一緒だったから……」
 しょんぼりした顔つきで、徐々に声の低くなっていく娘。
「良いではありませんか……」
 背後から、笑みを湛えた幻之介が近付いてきた。
「まあ、幻之介殿が良いと言われれば、誰も反対する者など居ないからなあ」
 幻之介の声の方に顔を向けた老婆は、それこそ何かを拝むかのような仕草を見せたのだった。
「ああ、貴方様こそ……。この見えぬ目でもはっきりと感じまする。貴方の神々しいまでの」
「ご老人っ」
 幻之介の呼びかけが、老婆の言葉を遮っていた。苦笑を浮かべた幻之介と藤乃は何かを感じ取っていた。
「取りあえず、湯あみを……。その後で私の処へ……。白妙、着替えを出してっ」
 白妙は間もなく、一式を持って現れた。それを受け取った幻之介は目の前の娘に手渡していた。
「手伝ってあげて……」
 幻之介の言葉に、娘は嬉しそうに頷いていた。兄の方は、ほっとしたような表情で幻之介に頭を下げていた。
「幻之介様、出来ればうちの庵で……」
 言いかけた娘に、幻之介は笑いを見せながら頷いていた。
「不用意な発言は止めて頂けようか?」
 湯上りの老婆を前に、幻之介の隣に座った藤乃が言い放った。ただ、幻之介はそれを黙って聞いているだけだった。
「それが倭子の……。いえ、御館様の命ならば従いましょう」
 恭しく頭を下げた老婆の言葉に、二人の顔付きが険しく歪んだ。
「何を言っておられるか?ご老人……」
「倭子――。幻之丞様。よもやこのような形で貴方様に逢えようとは……。これの先代様の、先見様の導きによるものでしょう……」
 盲の濁った瞳が潤んでいた。
「御館様のお傍に居た者は全て絶えました。私を残して……。後に残された者達も、散り散りに……。先見様は、皆を逃がそうと最後まで遅い来る人間共に立ち向かわれました……。我の力が足りなかったばかりに……。白妙の婆様が居れば、ここまで無念な結果には……」
 老婆は泣き崩れていた。
「一体、それは……、いつ……」
「三年前の初夏の事になりますれば……」
 老婆の言葉に幻之介の体はぐらりと傾いだ。慌ててそれを支えたのは藤乃であった。
「あの戦……。それが……、御館様の……」
「幻之介殿っ、しっかりいたせ。白妙っ、白妙っ」
 藤乃の慌てた声に、白妙が飛び込んできた。
「白妙っ、あの娘らを呼んでおくれっ」
 白妙が出ていくなり、藤乃は老婆を睨みつけていた。
「この事は他言無用ぞ。そなたも我が身が大事ならば、今後は“人”としてここで暮らすが良い。もし、それ以外を望むのならば、姿を消せっ。ここはひっそりと隠れ住む為の場所だ……」
「……。御館様の共に在れるのであれば」
 ついと上げられたその顔。丁度そこへ、若者二人を連れた白妙が戻って来ただった。
「なにか在りましたんか?」
 娘が心配そうに聞いてきた。
「いや、何。話の途中で幻之介殿が眩暈をおこされてな……。たぶん、疲れが出たのだと思うが……」
「大変だわっ、私、勘解由様を呼んできますわねっ。兄さんはその婆さんを家に連れて行ってね」
 娘は藤乃が呼び止めるのも聞かず、飛び出していったのだった。
「全く、あの娘と来ては……」
 藤乃はあきれた表情で言っていた。
「済まない――、と言っておられますが……」
 ぼそりと言った老婆の言葉に、藤乃は怪訝そうな顔をしたのだった。
「いえ、この若者がですよ……。早合点な娘で済まぬと……」
「お主、この若者の考えが解るのか?」
 老婆は小さく頷いていた。若者は全く口を聞けなかったのだった。耳は聞こえているようだが、声を出す事が出来ない様子だった。
「この二人は兄妹では無いと……。戦火を逃れる際に出会っただけなのだとも……」
「そうか……。なればそこにお前が加わっても、さほども変らんだろうな。行け……。行って二人の橋渡しをしてやるが良い」
 立ち去る二人を見送った藤乃。その腕の中では青白い顔をしたまま幻之介が震えていたのだった。

 
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プロフィール
HN:
猫又女帝・垂氷
性別:
女性
職業:
地獄の使い
趣味:
妄想
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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