猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。



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 あまり乗り気ではない幻之介に、真紅の神子衣装を着けさせて黒馬たちと共に山奥へと足を踏み入れた。幻之介の胸元には、彼の着物に包まれた婆の遺骨。婆の永眠する場所を求めて進んでいく勘解由達。暗闇の中進んだ方向感覚だけを頼りに、勘解由は馬を進めていった。
 ふと、目に入った社。しかも相当に古びた物だった。勘解由は直感的に“そこだ”と思った。そのまま馬を進めようとしたのだが、一向に黒馬は進もうとしなかった。
「……ったく」
 吐き出すように呟いた勘解由。が、ふと足元を見ればかなりの高さのある断崖の存在。様々な山の植物がその深い渓谷を隠していたのだった。目指す社は対岸の崖の上。一見すればそのまま続いているかの様にも見えるのだった。落ちれば、まず助かる事は無いであろう程の深さの渓谷。それは進むべき道を閉ざしていたのだった。
 周囲を注意深く見渡せば、木立の陰に隠れて二本の石柱が立っていた。勘解由は馬を下りると、その石柱の近くへと歩み寄っていた。
 明らかに自然のものとは思えない物体。そして、対岸にも同じような物が見えるのだった。吊橋か何かの支えだったのか――。まるで対のようになっている石柱であったが、その間には何も残ってはいなかったのだった。それこそ、朽ちた縄の残りすらも……。
 呟くように言った勘解由のそばに近づく足音。
「あの社なのですね――。婆様が本当にたどり着きたかった場所は……」
 すぐ傍に立った幻之介が言った。
「参りましょう、勘解由様」
 幻之介は一対の太刀の片方を勘解由へと差し出していた。 
「……そうは言ってもなあ」
 太刀を受け取りながらも、勘解由は足元を覗き込んだ。
「ここをどうやって渡るんだ?」
「私達ならば可能だと――。婆様が言っているのです」
 にっこりと笑って歩み出した幻之介。その腰にはもう片方の太刀が差し込まれていた。
 半信半疑のまま、勘解由もその後へと続いた。
(どうせ一緒に落ちるなら……、それでも構わねえか……)
 先に崖の上に出ようとした幻之介の肩を抱くようにして勘解由は隣に並んだ。
「お前と一緒ならば、どこへ行くんでも良いか」
 勘解由の言葉に幻之介は笑みを返した。
「それが奈落でも……、構いませんのか? 勘解由様」
 その言葉に、勘解由は引き攣りながらも微笑んで見せたのであった。
 ゆっくりと踏み出す二人。不思議と足元には何かの感触。深い谷の上を渡っているはずなのに、見えない物の上を渡っていくような感触なのだ。
 渡り終えた時、勘解由は大きなため息を吐いた。その顔を見た幻之介は微笑みを浮かべていた。
 朽ちかけた小さな社。そっとその扉に手をかければ、ギイッと軋む音が響いた。中からはカビ臭い空気が流れだしてくるのだった。薄暗く、中の様子も分からないその場所に二人は踏み込んだ。
 勘解由は、手近にあった燭台に手を伸ばした。当然、それに灯を入れるためにである。
「それを灯すのは勘弁してもらえぬか――」
 その声は突然聞こえた。
 奥の闇の集結した様なその場所からそれは聞こえたように思えた。二人は驚いて、その声の方を振り返った。つい、今しがたまで、全く人の気配などしなかったのである。
「扉も閉めてくれまいか……。外の明るさは私には強すぎるのでな……」
 再び聞こえた声。若いのか、年を取っているのか判別も付きにくい男の声だった。
 幻之介は勘解由の方をちらりと見ただけで、社の扉に手をかけた。大して力も入れていないというのに、それは音もなく閉まったのであった。
 明かり一つない真っ暗闇。
 安堵するような吐息が奥の方から聞こえた。
「すまないな……。体が、こうも不自由になってくると、全てにおいて面倒がかかる――」
 男の声が聞こえたかと思うと、青白い灯火が音もなく、ポツリ、ポツリと点き出した。
 少しずつ闇の薄れる中、二人は浮かび上がった男の顔に息をのんだ。
 まるで骸のようなその顔。骨と皮ばかりのような姿。とても生きている状態には見えないのだ。
「案ずることはない。間もなく我が命の灯も消える……。が、ここでそなた等に巡り会えたは、白妙の導きか……」
 微かに顎が動いたような……。その姿形の割には声だけがはっきりと聞こえてくるのだった。
「倭子の胸元に在るのは『白妙』であろう?」
 構わず話しかけてくる男。二人は顔を見合わせた。
 ゆっくりと差しのべられる骸の両腕。その指先はやはり骨のよう。
 幻之介はゆっくりと男のそばへと歩み寄ると、己の着物の塊をその腕の中へと差し出した。
 大事そうに受け取る骸の手。
 骸は腕の中にその塊をいとしそうに抱きとめた。しばらくそうしていたかと思うと、骸はすっと幻之介の胸元にあった『焔華』を引き抜いた。
「代わりにこれをやろう――」
 と、骸が手渡してきた笛。
 幻之介の胸元にあったモノと寸分たがわぬそれを手に握らせた。
「こちらは写し身――。それこそが本物の『焔華』だ」
 そう聞こえた途端、骸の手の中に残った笛は炎を上げて消滅した。
「白妙が与えた力――。うまく使いこなすが良い。いずれ、その力のありがたさが理解できよう……」
「ちょっと、聞きてえんだが……」
 勘解由の言葉に、骸はまるで微笑む様な表情を見せた。
「倭子に選ばれし男が、なにを問う? 己の生まれの事か? ……お前の母は、もう一つの総領家の血筋に連なるもの――。我の末だ……」
 まるで、勘解由の心を読んだかの様な言葉。
「大分血は薄まっていたはずだが……。我が末の妹の血に続く者だ。人との混血を繰り返した末のな……」
 だがそれを知って何になる?――、と続けられた骸の言葉。まるで禅問答のような問いかけ。
「……知りてえから、ってのは……」
「知ったところで、お前その物が変わるわけではあるまい?」
 そう言われて、勘解由は黙ってしまった。
 が、骸は続けた。
「倭子と、白妙をここまで導いてくれて礼はせねばならぬだろうな……。里の社の祭壇を調べるが良い。同族故、お主ならばあの封印は解けよう。だが、知る事で後悔するやもしれぬぞ……」
 答えは自分で――。そう言うと、骸はゆっくりと瞼を閉じた。次第に弱くなっていく灯。
 後ずさるように、後退してきた幻之介の肩を抱いて、勘解由はその古びた社を後にした。
 例の見えない吊り橋を渡りきった時――。微かな笑い声が二人の耳に届いた。
 声のする方を振り返った二人。
 炎に包まれた古びた社が目に飛び込んできたのだった。周囲の木々には一切火の粉が燃え移っていない不思議。その炎の中に、若返った二人の姿を見つけた。仲睦まじく寄り添う二人。炎の中で抱き合う姿。その二人が、勘解由の幻之介の方を優しく見つめ返したように思えた。微笑みを浮かべるようなその表情。それは、瞬く間に炎に飲み込まれていった。その時――、残された二人の耳には、確かに声が聞こえた。
『いずれ常世で会い見えようぞ……』
 音もさせずに崩れゆく古びた社を、二人はじっと見つめ続けていた。
 

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猫又女帝・垂氷
性別:
女性
職業:
内緒
趣味:
ヤバい事ゆえ、秘密
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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