所在無げにその場に立ち尽くす幻之介。勘解由の視線を痛いほど感じながらも、あと数歩が歩み出せないでいた。いつもとは明らかに違う勘解由の視線。気恥かしさのあまり、顔を上げる事も出来なかったのだ。
襖一枚外に人の気配を感じるせいもあったのだが……。あまりの緊張感にか、指先までが小刻みに震えだしたのだった。
「幻之介……」
優しい声音が呼んでいた。だが、それも返事を返す事も出来ずただ立ち尽くしたまま。声を出そうにも喉の奥が張り付いた様になって、それも叶わなかったのだった。無様に震える両手をギュッと幻之介は握りしめた。
衣ずれの音をさせながら男がすぐ傍に近づいて来たのも解らなかった。顎を取られ、その顔を持ち上げられるまで幻之介は全く気が付かなかったのだ。
顔にかかる酒精を帯びた吐息が余計にいつもとの違いを感じさせていた。見降ろされる視線の熱さに、幻之介の視線はあちらこちらへ動き出した程。
「何をそんなに震えている……。寒いのか……」
うっすらと笑みを浮かべながらの勘解由の言葉。
返事も返せぬ状態では、ただ頭を振って見せるしかなかった。その合間に勘解由は羽織っていた綿入れを脱ぎ落とさせていた。
ただ無言のままに手を取られ、そのまま褥の上へと誘われた。どっかりと胡坐をかいた勘解由の上に座らされた幻之介の体は、益々小刻みな震えを見せたのだった。
「そんなに身を硬くして……。あの、婆ぁになんか言われたか」
優しく問いかける勘解由の手は、幻之介の体を静かに撫でていた。
「堂々として居れと……。でなくば……、他の方に……、貴方様を……」
掠れ声のまま、幻之介はたどたどしく言葉を吐きだしたのだった。
「……本当に、それだけの事か」
勘解由の問いかけに、幻之介は小さな頷きを返しただけ。
「でも、この様な姿で……」
云い淀む幻之介――。
勘解由は、その姿をただじっと見つめていた。
視線は幻之介に向けたまま、勘解由は酒膳を手探りで引き寄せていた。そっと幻之介の前に差し出された杯。幻之介はそれをそっと両手で受け取った。注がれる液体が小刻みな震えを伝えていた。
「飲み干せ…」
勘解由に言われるままに幻之介はその盃に口をつけた。鼻先を刺激する酒精の香り。目を閉じ一気に口の中へと流し込んだ。喉の奥を刺激する灼熱の感覚。揮発性の高い酒精の刺激に途端に幻之介はむせ込んだのだった。
心配そうに、それでも笑顔のままで背中を擦る勘解由の大きな手。咳こんだ刺激で幻之介の眦には涙が浮かんでいた程。その顔のまま勘解由の方を見つめ返せば満面の笑みが返ってきた。
幻之介の肌は一気に朱に染まってきた。
幻之介の手の中から盃を奪い取ると、勘解由は再び酒を並々と注ぐ。やおらそれを口に含むと、幻之介の顔へと覆いかぶさっていた。
少しずつ流れ込む酒。幻之介は身を震わせながらそれをゆっくりと飲み下していった。時折口内を擽る様な動きをする勘解由の舌先。口を離された時には幻之介の吐息は熱く変わっていった程。一気に酒精が幻之介の体を駆け巡っていく。
「…もう、いらな…」
幻之介の言葉を塞ぐように再び会わされる唇。流れ込む液体を飲み下した時、幻之介はぐったりと勘解由の胸元に寄り掛かっていた。酒精に犯された肌は上気して赤く染め上がっていた。それでも幻之介の体の緊張は取れなかった。
「幻……。嫌ならば、無理する事はねえ……。俺はこのままでも十分だから……」
「違…うの……、あの……」
ちらりと視線を流した幻之介の表情。初めての日を思い出させるような恥じらいを含んだその表情に勘解由の目は優しく歪んでいった。
「俺の知るどんなおなごよりも……。綺麗だ、幻之介……」
耳朶を舐め上げんばかりの近さで囁かれた言葉に、幻之介は頬を熱くしながら身震いを返した。
「おめえとの、初めての日を思い出す……。あの時も今みてえに震えてたな……」
そっと抱き締める勘解由の腕に幻之介の手が寄り添って行った。
ぽたりと、幻之介の頬を伝い落ちる雫。そっとそれを勘解由は指ですくっていた。
「……なぜ泣く」
優しい問いかけにも幻之介は頭を振るだけ。まるで言葉を忘れてしまったかの様に――。
顔を向けさせれば、はらはらと涙を零し続けながらじっと勘解由の顔を見つめ返してきた。何かを伝えたいように震えだす唇を勘解由は己の物で塞いでしまった。差し込まれた勘解由の舌先に、微かに反応を返すだけの幻之介のもの。それでも構わず、勘解由はゆっくりと愛撫を続けていった。零れ落ちる涙もその舌先で舐めとっていく。小刻みに震える小柄な体をゆっくりと抱き崩しながら……。それこそ、ゆっくりと時間をかけ、幻之介の体の緊張が解れるまで――。
徐々に馴染みの揺れだしを見せる腰先。が、勘解由は殊更ゆっくりと愛撫を続けた。
あえて腰ひもの解かず、布の上からだけ愛撫を続けていった。乱れ行く単衣の裾。そこから覗く肌にも触れようとせずに続けられる愛撫に、幻之介の方が堪らず声を漏らした程。
「勘解由様、もう……」
「どうした……」
「……触って」
聞き逃しそうな程小さな幻之介の言葉。
「……触れていようが」
と、勘解由の言葉が続いた。
「……意地悪しないでえ」
「どこに触れて欲しいんだ」
酒精交じりの切なそうな吐息を吐く幻之介に、問いかける勘解由。
「おめえの体の事もあるしな……。無理させたと又、奴らにおめえを隠されないとも限らねえからなあ……。それになあ……」
「それ…に……?」
「せっかくの艶姿……。じっくりと眺めて居てえって気もある……」
云いながら、勘解由の舌先は幻之介の首筋を這いまわっている。
「……そんなの」
云う幻之介の腰先はもじもじと動きを強めていった。
「耐えきれねえなら、弄っても良いんだぜ」
耳元での勘解由の言葉に、幻之介の肌は一気に紅く染まった。そんな様子を見ながらも、勘解由は幻之介の手を下腹部へと誘導していた。
己のモノに触れた途端に幻之介の体はぴくりと反応した。切なそうに歪む表情を、勘解由はじっと見下ろしていた。
「こんなの……」
「嫌か、幻之介……。俺に見られんのは……」
先に言われてしまえば、逆に幻之介は否とは言えない。ぎゅっと目を閉じたまま、手毎揺さぶられる感覚に吐息を漏らしていた。
「……恥ずかしいよぅ」
目元を染めながらも、迫りくる快楽の波には勝てないのか、ゆっくりと自らの手を動かし始めたその姿。
勘解由は添えていた手を離すと、閉じようとする幻之介の両膝を割り開いた。
「こうやって、一人でした事あんのか……」
勘解由の視線を感じながらも、幻之介は小さく頷いた。
「いつもか……」
「違…う……。一度だけ……。勘解…由様が、戻って……った……から……もう……許…して」
喘ぎの中に幼子の様な泣き声が混じっていく。
幻之介の手の動きは勘解由の愛撫の軌跡をたどるのだった。
「ここは、しなかったのか……」
云いながら勘解由の指先は後ろの窄まりをつつき始めた。期待に収縮を繰り返す場所。
「してない……、そこは……」
トロトロと蜜を零しながらも最後を越えられない幻之介。勘解由はそっと、その白い指先に舌を這わせた。
びくりと仰け反る体。たっぷりと濡らされた物を後ろへとあてがわれた。
「や……なっ、駄目……、許し…て」
己の一番長い指を埋め込まされて幻之介は声を上げて身悶えた。己自身の物にもかかわらず、そこは奥へ誘うような収縮を繰り返していく。しかもその刺激で弾けようとする自身を幻之介は思わず塞き止めていた。
「解るか、幻……。おめえの此処はしっかりと奥に誘い込んで離さなくなるって事が。欲しがるともっとすげえんだが……」
「やっ……、こ…なの。私……欲し…いの…勘解…様だ……け…」
動きを止めてしまった幻之介。上からも下からも切ない涙を零しながら目の前の男に縋る様な視線を投げていたのだった。
この記事にコメントする
- HOME -


