暗闇の中でのたうつ白い肌。真冬だというのに、その肌にはうっすらと汗が浮かんでいた。乱れる吐息そのままに震えを見せるその体。おなごとは違うその華奢な体を浅黒い皮膚の男が組み敷いていた。持ち上げられた細い足先が小刻みに揺れている。くぐもった声と湿った音の混じり合う室内。薄っすらと涙を浮かべる白蝋の顔。男の動きに合わせるかのように小さな悲鳴にも似た声が漏れ聞こえていた。
「…幻、おめえ…」
「くっ…、良…いの…。そ…まま…」
心配気に動きを止める男の顔を、苦痛に歪んだ白い顔が見上げた。白い細腕が、圧し掛かる男をさも愛おしげに掻き抱いた。
この夜の幻之介の体は全くと云って言い程、勘解由の愛撫に反応を示す事は無かったのだった。どんな勘解由の手管にも、幻之介自身は緩く立ち上がったままそれ以上にはならなかった。
そんな状態にも関わらず、幻之介は勘解由を求めた。涙を浮かべて懇願を繰り返したのだった。
苦痛の表情を浮かべその体を震わせながら、それでも幻之介は勘解由自身を受け入れた。身体は悲鳴を上げるのに、心は―――。
(…壊れてしまう、何もかも…)
勘解由を繋ぎとめておきたいという気持ちだけが、幻之介を突き動かしていた。それでも、徐々に激しさを増してくる勘解由の動きに幻之介の意識も薄れていく。
「…もういい。…これ以上は、な。幻…」
優しく言い聞かせながら勘解由がその身を引こうとした時、
「嫌ああ…、だ…め…。お…願い…」
巻き付くその細腕に力が込められたのだった。
「幻之…」
「もう…い…ない…の、必要…無…の…私……」
苦しげに喘ぎながらも涙を浮かべて勘解由を見上げた幻之介。何かに脅える様なその表情に、流石の勘解由も苦笑を浮かべる事も出来なかった。
全く動きを止めてしまった男を見上げるその瞳からは大粒の涙が溢れ出してきた。
「勘解由…様」
殊更にか細い声。震えだすその体を抱え込むように、勘解由は覆いかぶさっていった。
言葉もなく、ただ勘解由は唇を這わせた。流れ落ちる涙をその舌先ですくい上げるように。吐きだす様な吐息と一緒に勘解由は幻之介の耳元で囁いた。
「…声、押し殺すな…。辛えんだろう…」
その声にすら、震えながらも幻之介は頭を振ってきたのだった。
「声、我慢するんじゃあねえよ…。…力抜け、このままじゃあ、動けねえよ…」
耳朶を舐め上げてやると、喘ぎの様な吐息を漏らす幻之介。それを見計らうように、勘解由は最奥までつき入れたのだった。
仰け反る幻之介の体を勘解由は無言で抱きしめた。ゆっくりと腰を動かせば泣き声の様な悲鳴をあげて幻之介の体が震えだしてくる。それでも、彼の細い両腕は勘解由に纏わりついたままだった。
「これで、終わらせようから…」
勘解由の優し過ぎる声に幻之介の体は震えを増していく。徐々に激しくなっていく突き上げに、痙攣の様な震えを見せるだけの体。熱をもった結合部分はそれでも勘解由を離そうとせずに纏わりついていく。
勘解由自身は動きやすいように幻之介の体を抱え直すと、そのまま睦言もなく揺さぶり続けた。幻之介の中に叩きつける様に吐き出される迸り。
受け止めた幻之介の意識は暗い闇の中へと吸い込まれていった。
苦々しげな表情を浮かべて幻之介から己の物を引き抜いた勘解由。とろりと流れ出す濃厚な分泌物は仄かに朱に染まっていた。
「おめえは…」
言葉を返す事も出来ない状態の幻之介に向かって、勘解由は小さな呟きを洩らした。手早く後始末をすると、その愛しい存在を懐の中に納める様にその身を横たえていった。
まだ夜も明けきらぬ朝方、幻之介は愛しい男の胸の中で目が覚めた。規則正しく聞こえる鼓動。声も無く幻之介はただ涙を零した。身動きすることすらも辛いほど痛む場所。気持ちとは裏腹な反応を返す己の体に、幻之介はただ困惑した。
(…私は、どうすれば…)
その広い胸の中に顔をうずめて、ただ泣き声を押し殺していくのだけで精一杯であった。
(…このままでは、私は…)
広がっていく不安が、幻之介の胸を突き刺していく。痛みに震える体が蹲る事も阻んでいく。ただ、あるがまま―――。己の体を抱き込んでいる男の腕にその身を任せるしかない幻之介であった。
朝日の差し込む部屋の中で、勘解由はそっとその目を開いた。朝方の幻之介の啜り泣きにその目はとうに覚醒していたのだったが、起き出すことすらできなかったのだった。何がそこまで彼を追い詰めているのか…。今一つその原因が思い浮かばないまま、ただじっと勘解由はその泣き声を聞いていた。
その声も、今は規則正しい吐息へと変わっていた。泣きつかれて再び眠りの中に落ちたらしい愛しい存在。その顔をのぞき込めば、白蝋の美貌が僅かな陰りを見せていた。ただでさえ白いその肌は、初雪の様な白さを見せていた。まるで血の気の通わぬ様な程の白さ。勘解由自身幾多のおなごと肌を合わせようと、これ程に肌の白い者とは遭遇した事も無かった。
今ですら、その肌の白さが眩しく感じる程。最初にその肌を見た時の衝撃は未だに勘解由の中にあった。その肌を仄かに染め上げる様は、なんともいえない感覚を呼び覚ましていくのだった。それが、ここの処は全く見られないのだ。
勘解由の情欲を嗅ぎ取るかの様に、怯えを隠しながらその震える体を差し出してくる幻之介に理不尽な程の苛立ちを感じるのだった。
他の男達の前では絶対に見せる事の無いその怯え。ただ、勘解由自身と二人っきりになった時だけ垣間見せるその表情。隠し事―――、とは思いたくはないが…。
(俺には、言えねえ事なのか…。幻之介…)
愛しさが逆に恨めしさへと変わる瞬間。それを自覚したとたん勘解由はふと苦笑いを浮かべた。幻之介を取り巻くその存在達に対する醜い嫉妬。己一人だけの者にしておきたい存在。それも、今となっては不可能ごとに近い。何しろ、あの魔王が要らぬちょっかいを掛けてくるのは目に見えていた。遅かれ早かれ、再び相見える事になるだろう二人。勘解由の中にはそれに対する焦りもあった。
(まあ…、うだつの上がらねえ俺よりはなあ。天下人になろうって奴の方が良いだろうしな…)
今、幻之介は勘解由自身しか知らない筈。それが、他を知ったらどうなるのか…。その不安をぬぐい切れぬまま勘解由は幻之介を見つめていた。
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