猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。


『月影 ~継承~』 につきましての 注意書き

今までの話より、時間的にだいぶ進みますのでここで補足的説明を…


時期は【大阪・夏の陣の後】です。
<この話に出てくる登場人物>
*片倉小十郎景綱(初代白石城主)
*左門(二代目片倉小十郎・景綱の息子)
*お梅(真田幸村の娘・左門の後妻)
*大八(真田幸村の息子・仙台真田家開祖)
*伊達政宗(仙台伊達藩開祖)
*伊達成実(亘理城主・伊達三傑の一人)

お梅・大八の他にも当時の片倉家には真田幸村の子供たちが匿われておりました。
大坂夏の陣・道明寺決戦で伊達藩と真田幸村の部隊が激突したわけですが、この時、伊達家の先陣を切ったのが左門こと、『二代目:片倉小十郎(別名:鬼小十郎)』だったそうです。そして、この戦時下で、真田幸村は娘のお梅を片倉家に落ち延びさせたと言われております。その後、兄弟たちが姉の元に身を寄せていったわけです。
このお話は、その後の出来事になります。
作品中には、一切こういった説明が載せていないので、これらの情報を踏まえまして読んで頂けると非常にうれしく思います。

作品は、<続き>から進んでください。


 



 

08-04-01_12-32.jpg
月影 ~継承~
 
 
 その使者が政宗の元を訪れてからすでに半刻が過ぎていた。
 受けた報告に返事を返す事もなく、政宗は無言のまま謁見の間を後にした。報告の内容に、同席の家臣たちは表情を亡くしたというのに、肝心の政宗自身はむしろ無表情のまま。
 家臣たちは、それでも主のいなくなった上座を見据え続けた。ただひとり、伊達成実を除いては…。
 厩へと続く回廊。ゆっくりとした重い足取りで進む政宗。肩を落とし、まるで敗残の将を思わせる様なその後ろ姿に、成実は深いため息をついた。わざとの足音でその姿を追い越しざま
「付き合うよ、梵。…行くんだろ」
 幼馴染ゆえか、従兄弟ゆえか、他の武将のいない、二人きりの場では、いつもそう成実は呼びかける。今も昔も変わらない風習。
 その言葉に、顔を向けた政宗からはいつもの覇気すら感じられない。残されている左目が、何かを探し求めるように中空を彷徨っていた。
「なに、うだうだ考えてんだよ。おめえの性分は、そんなもんじゃねえだろうが。」
 煮え切らない様子の政宗の胸元を締め上げるかのように詰め寄る成美を、無言のまま見つめ返していた。
「…そうだよなあ、成。そんで、突っ走ってよく奴に小言くらってたんだよなあ…」
 襟元を掴み上げる成実の手にそっと手を添えた。口元を僅かに歪ませただけの政宗の表情は、笑みとも泣き顔ともとれる。何か、懐かしい物でも見るかのように、左目がより一層細められる。
「俺だって…、相当、奴にはカリがあるからな」
 苦笑いを浮かべた成実。
 政宗は、その相手に何かを感じ取ったのであろう。一度、溜息と共に目を伏せると。わかってる…、そう呟きを漏らした。
「成…、遠掛けすんぞ。付き合えや」
 目を開けて、成実を見据える姿は、いつもの覇竜。
「良い歳して、城抜け出して遠掛けか?…誰かの、小言が聞こえるようで、ありがてえなあ…」
 昔を思い出すぜ、梵――。
 馬番の制止もなんのその。悪餓鬼に戻ったかの様な二人は、黒毛と赤毛のそれぞれの騎馬に跨り、風のように駈け出して行った。
 
 
 この数日、覚醒と混迷を繰り返していた小十郎であった。ただ、覚醒するといっても、目を開き夢現の様な表情のまま、周囲の声掛けにも僅かな声を発するのみであった。開けられたその瞳には何も映らないかの様に、愛し子や、孫達の声にもなかなか反応を示さなくなっていた。すでに、城内の者達にも、その命の灯が消えようとしているのは伝わっていた。
 それが、どうであろうか。
 重苦しい空気を蹴散らすかのような、荒々しい馬の嘶きと蹄の音。それが、城に近づくにつれ、徐々に見開かれた瞳には理性の色が浮かび上がってきた。
 城内の者にも聞きなれた、荒々しい二人の声が、微かに部屋の中まで聞こえてくる。
「あのお方は…、全く使用の無い…」
 力こそないが、はっきりしたその言葉に、傍詰めをしていたお梅と大八が振り返った。
「お梅、悪餓鬼二人、ここに連れて来い。…ついでに、左門もな…」
 言われたお梅は、一瞬何のことか理解できないまま、この城の主の姿を除きこんだ。
「今来た、あの馬鹿ども二人をだ…。」
 何かを悟っているかの様な穏やかな表情とは裏腹の言葉。己の仕える主を「悪餓鬼」呼ばわりできる立場に、深い主従関係をみたような気がするお梅であった。
「今、お連れします…、殿さま」
 静かに、小十郎の寝所を退いたあとで、いつものお梅とは思えぬほどに、小走りで来客の元へと向かった。
 
 案内された三人は、それぞれの思いのまま、横たわる城の主をただ見つめた。安らかな表情のまま、目を閉じている小十郎にかける言葉が見つからなかったからである。老いと病に蝕まれたその姿は、嘗ての勇ましさを思わせる部分は見当たらなかったのだ。
「何を、そのような処で突っ立っておられる」
 目を開けぬままの、小十郎の言葉に、一同は固唾をのんだ。覇気こそないものの、依然と変わらぬその口調に、一番驚いたのは嫡子・左門。この数日の容態からは、到底想像出来ぬ程のはっきりとした意思表示。
(親父殿は…、このお二方の前では己を取り戻すのか…。それほどに…)
「おめえの今の面見たら、気ぃ抜けちまったさ。積もり積もった、小言の仕返し…って思ってたけどなあ。この借り、手前の息子に負わせちまっても良いよなあ…」
 成実の言葉に、ゆっくりと小十郎の瞼が持ち上がった。
「好きにされるがよい、成実殿。…倅がそなたの相手務まるならば…、な」
「その言葉…、後で後悔するなよな」
 左門の首根っこを捕まえて、引きずるように成実は小十郎の寝所から出て行った。
 その姿を見つめる小十郎の表情は、やけに穏やかだった。
 お梅や大八の控える部屋に、無理やり引きずりこまれた左門は、成実に向かって不服を唱えた。
「何をされますか、成実殿。親父殿の呼びつけに応じる事なく、すぐに退室するとは…」
 抗議の間に、成実は左門から手を放し、どっかと床の上に腰をおろした。
「…いくら、息子のおめえでも、邪魔する権利はねえ。…最後の逢瀬ぐらい、ゆっくりとさせたれや…」
 成実の両膝の上で固く結ばれた拳が細かく震えていた。その上にポツリ、ポツリと雫が落ちる。
 お梅は、その姿に自分の父親の最後の時を見た。父に殉じようとした家臣たち。それが叶った者と、そうでない者…。後者がいたからこそ、今のお梅や大八が存在する。そしてその残された者達が垣間見せた涙と、同じ様なものを目の前の武将から感じ取ったのだ。
「御義父様は、本当に果報者で御座いますね。この様に、皆様に…」
 成実に向かって差し出された白湯の器に波紋が広がった。
「…済まぬ、お梅殿。…そなたの父上は」
「…いえ。…短くとも、御義父様が…」
 声を詰まらせた、お梅を、そっと左門が抱きしめた。
「済まん、お梅。…だから、な…」
 幼き大八は、おろおろしながらも、成実の元に歩み寄ってきた。
「成様…。成様が泣くと、大殿様が悲しむよ。…とう様も、悲しむから…、ね」
 成実の膝の上にちょこんと乗り上げて、幼い両手で頬を挟んできた。
「だからね…、成のおじ様…」
 成実の顔を覗き込む幼い子。そっと抱き締めた成実は、「そうだな…、そうだな…」と力なく繰り返し呟いた。
 
 言葉もなく、政宗は枕元に腰をおろした。
「…夢を、…見ておりました、政宗様」
「…ああ」
「…御館様と、貴方様の事を…」
「…」
「あの時…、御館様に殉じる事を禁じられ、こうして今まで貴方様の影となって過ごしてきた事を…」
「小十郎…、おめえ…」
「後悔など…、ただ…、もう一度あの頃に戻れるものならば…」
 深い呼吸で言葉を止めた小十郎の顔を、じっと政宗は見詰めた。その、何もかも悟りきった表情に、不覚にも涙をこぼしてしまったのである。細く、衰えた小十郎の指先がその雫をすくい上げるまで、其の事にすら気がついてはいなかった。
「政宗様、…景綱は、もう一度あの頃に帰りたい…。ただの守り役であった、あの頃に…。だから、せめて夢の中だけでも…」
 その言葉を遮るかの様に、政宗は小十郎の体に覆いかぶさった。乾燥した小十郎の唇の上に己を重ねて、言葉を止めた。
「おめえは…、俺を置いて、一人で逝くっていうのかよ…。小十郎…、いつも一緒にいるっていった、あん時の言葉は嘘なのかよ…」
 政宗も元服したての頃を思い起こしてか、子供さながらに小十郎に抱きついた。零れ落ちる涙で、小十郎の顔を濡らしてしまっても構わぬ程であった。
「ご無理を申されるな…、政宗様。何時か人は逝く場所でございましょう。…約束違えは致しませんよ。この景綱には、もはや出来ぬ事でも、貴方の御傍には…。『小十郎』が付き従いましょうや。」
 小十郎の促すかの様な視線に、政宗はその示す先を振り返った。
「…倅がおりまする、政宗様。これよりは、貴方様がアヤツをお導き下さい。…藩主として、あれが主として…。…それと、…」
 徐々に小さく、聞き取りにくくなる小十郎の言葉を、必死の思いで政宗は受け止めた。自分の吐息すら詰めるように、一字一句聞き逃すことのないように…。
「…御館様のもとで、…この景綱、いつまでも…、貴方様を見守り申しあげまする…」
 その言葉を最後に、二度と小十郎の瞳は開かれることはなかった。弱々しい吐息しか吐き出さなくなったその体を、愛おしく横たえてやる政宗。しばらくの間、押し殺した政宗の咽び泣きだけが小さく聞こえていた。
 
 
 数日後、本城の自室の中で、政宗はその知らせを受けた。
 ――白石城主・片倉小十郎景綱の訃報。そして、その死に殉じた六名の武将の名を…。
 使者を、無言のまま退室させると、政宗は文箱の中に残っていた書き存じの通達書に目を走らせた。手にした書簡が小刻みに震えた。
「小十郎…、また、いつの日か…」
 小さな、その呟きを聞いた者はいなかった。
『小十郎景綱の死後、嫡子・小十郎重綱を白石城主に任命する』
 墨書きの所々が滲んでしまっているそれを、胸に抱きかかえたまま、政宗は部屋の中央から動く事はなかった。


 了

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無題
この後3日3晩食事しないんですよね、たしか、、、 ;-;
しゃちこ URL 2009年12月15日(火)08時56分 編集
Re:無題
ははは・・・・

そして、ぶっ倒れました^^
2009年12月15日(火) 19時57分
無題
そうそう ^^
しゃちこ URL 2009年12月16日(水)09時32分 編集
Re:無題
現在次の作品を入力作業中です。
UPまではもうしばらくかかると思いますが・・・
(先に「別館」の方で、スタートを切る予定・・・)

ほんと、『伊達軍』関係者は、ネタの宝庫ですよ(^'^)
2009年12月17日(木) 21時57分
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職業:
地獄の使い
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妄想
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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