猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。


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 朝方の冷え込みから赤子らを守るかの様な姿勢で眠る幻之介。勘解由は奥座敷から持ち出した着物を、そっとその上にかけてやった。
 布団の上で横たわる女の傍に近付くと、そのまま勘解由は腰を下ろした。
 女はその気配にゆっくりと瞼を開けた。
「体は痛まねえか?」
 勘解由の問いかけに女は無言で頭を振った。
「もう馬鹿な真似はするな……」
 女は返事もしなかった。
 目が覚めたのか、ちょこちょこと子狐が勘解由の傍へと歩いてきた。胡坐をかいた勘解由の膝元に這い上がると、甘える様に喉を鳴らし始めたのだった。喉先を指で撫ででやれば、子狐はその指に頭を摺り寄せてきた。女は無言のままで、それを見ていた。
 言葉もない二人。その静寂を赤子の泣き声が破った。その声に飛び起きた幻之介は、粗末な布にくるまっただけの赤子を抱き上げて、おろおろするばかり。あやしても泣き声は一向にやむ気配がないのだ。
「幻之介、連れてこいや……」
 勘解由は背中越しに声をかけていた。
 おろおろしながらも、幻之介は赤子を勘解由の傍まで運んできた。ゆっくりと起き上がる女。その両手がゆっくりと幻之介に差しだされた。
「渡してやれ……。それも腹が減っているだろう」
 女は幻之介から赤子を受け取ると、乳を与え始めた。元気いっぱいに吸いつく赤子。その姿を見る女の表情は涙に濡れていた。
「……名をつけてやらねばな」
 ぼそりと言った勘解由の傍に、幻之介も腰をおろしたのだった。心配そうな面持ちで女を見つめる幻之介を勘解由はそっと抱き寄せた。
 勘解由の膝の上で蹲っている子狐が勘解由の指先をしゃぶり始めた。
「この子も、お腹がすいているようですね……」
 ぼそりと呟いた幻之介。
 いつしか女の胸元の赤子は満足そうに寝息を立てていた。
 女はもう一方の我が子へ向かって手を差し伸ばした。勘解由もそれを見て、子狐を渡そうとした時だった。突然子狐が女に向かって威嚇の唸り声を上げたかと思うと、勘解由の手をすりぬけ幻之介の後ろへと隠れてしまったのだ。
「……どう…し…て」
 困惑気な女の表情。幻之介の表情も暗く歪んだ。
「覚えているのですよ、白菊。お前がこの子に対してした事を――」
 床に広がって落ちる幻之介の袖口から入り込み、子狐はその中で震えていたのだった。
「お前にも母の記憶は残っていよう……。それを想い出すが良い……」
 泣き崩れた女。その声の隙間を縫うように、社の扉をカリカリとひっかく様な音が聞こえたのだった。
 幻之介を残し、勘解由は太刀を抱えたままそっと扉に近付いていった。その音は扉の下の方から聞こえていた。
 扉に手をかけ、ゆっくりと押し開く勘解由。
『兄者の伝言は、間におうた様だな……』
 勘解由の頭に直接響く声。金色の瞳を持った山犬が一頭居ただけだった。
 勘解由はそれを無言で睨みつけた。
『どけっ人間。我が必要であろうや……』
 山犬は勘解由の傍をすり抜ける様に中へとはいって行った。真直ぐに幻之介の傍に行くと、その身体をどさりと横たえたのだった。
『狐の倭子よ――。その子を我に貸しておくれ……』
 幻之介は己の袖の中で震えている子狐を掴みだした。怯えたままの子狐をそっと山犬の傍へと置いた。幻之介の方を怯えた目付きで見上げる子狐。それを山犬がぺろりと舐めた。
『おいで……。腹が減ってるだろう』
 怯えながらもじりじりと山犬に近付く子狐。山犬はそのままじっとしているだけだった。
「助けを求めているってのは、こいつの事だったのか?」
『…今頃分かったのか?』
 すっと細められる山犬の瞳。子狐は夢中になってその乳に吸いついていた。
『この子…、我らに預ける気は無いか?』
 幻之介に向けられた山犬の瞳。幻之介は無言のままに頭を振っていた。
『我らの方が、この子を旨く育てられよう……』
「それでも……、その子は渡せませぬ」
 静かに幻之介が答えていた。
『母親に見捨てられた子ぞ…』
「だからこそ、手放せませぬ」
『……兄者の言う通りか。なれば、この子が乳離れするまで、我が行動を共にするのは認めてくれような』
「……何故に、そこまで気をかける?」
『我らには狐の婆に恩がある。形は違えど、少しでも返しておきたいゆえな……』
「ならば、承知いたそう」
 ゆっくりと閉じられた幻之介の瞳。
 子狐が満足げに乳を放すと、山犬はその口元を優しく舐め取っていた。
『又、会おうぞ』
 山犬は、すくっと立ち上がり、外へと飛び出していった。あっと言う間の出来事。勘解由はまだ、扉の前に立ち尽くしていた。

 
 赤子を抱いた女と向き合う二人。重い空気が立ち込めていた。
「どうすれば……。これから先……」
 ぼそりと呟いた幻之介が勘解由を見つめていた。
「どうするも何も……。白菊次第じゃあねえのか?」
 名前を呼ばれて、女はびくりと体を揺らした。
「女手一つで我が子を育て上げるか。…それとも男の元へ嫁するかだろ?」
 投げやりな口調で言った勘解由を女は睨んだ。
「あの方の元へ行って……、又、子が出来たならばなんとします?…あの方にご迷惑がかかるだけではありませんかっ」
 女は赤子を抱いたまま咽び泣いた。
「確かに……。今後も化生の子が産まれぬという保証はありませんから」
 子狐を抱きとめたままの幻之介が言った。
 白菊の子等はそれぞれの腕の中で、安らかな吐息を立てていた。
「迷惑かどうかは、当人の決める事だろ。推測だけで物事を考えても埒があかねえっ」
 言いながら、勘解由は立ち上がった。
「勘解由様?」
「幻之介はここに居ろ。……その当人を連れてくる」
「でも……」
 急におろおろとしだした二人。
「幻之介は白菊の見張りなっ。又、馬鹿な事でも仕出かされたら困るからな。明日の夕刻までには戻れようか。……まあ、遅くとも明後日までにはここに戻るさ。それまで、大人しくしてろ」
 苛立ちを隠さないまま、勘解由は足早に扉の方へと歩いていった。その後ろを慌てた様子の幻之介がついていく。
 黒馬の荷を手早く下ろすと、早速とばかりに勘解由は荒駒にまたがっていた。
「待って。……待って下さい、勘解由様」
 馬上からじっと幻之介を見下ろす勘解由。
「あの……、どうやって松次郎殿を……」
「事実を告げるまでの事。見たままの事をな……。それが、何か?」
「でも、それでは……」
 言い淀む幻之介を勘解由が険しい表情で見下ろしていた。
「見くびるなよっ、幻之介っ。俺の甥っ子だぞっ。多少の不思議に身を引く様な奴だと思ってかっ。興味本位だけで相手を求める様な奴では無いっ」
 それだけを言うと、勘解由は荒駒を走らせたのだった。
 残された幻之介は、俯いたまま社の中へ入り、扉を固く閉ざしたのだった。

 

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プロフィール
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猫又女帝・垂氷
性別:
女性
職業:
地獄の使い
趣味:
妄想
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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