猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。



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 どう見ても寝不足と分かるような顔色で若者は馬を駆っていた。その後ろを、勘解由を乗せた荒駒が進む。荒駒よりも数段遅い若者の馬は、それでも限界に近い速さで走っていた。
 夜明け前に出発したにも関わらず、山道の行程ではどうしても到着は夕刻になってしまった。空が紅く染まり始めた頃、二人はやっと社の前に辿り着いていた。蹄の音を聞きつけた幻之介が社の扉を開けて待っていた。二人が中に入った後、その扉は閉ざされた。
 若者は女の傍に足早に近付いた。赤子を抱いたままの女の傍に膝をつくと、若者はいきなり女に向かった平手打ちを出したのだった。
乾いた音が社の中に響いた。
 女の腕の中の赤子は、驚いて泣き始めた。じっと女は若者を見つめた。おもむろに若者は赤子もろとも女を抱きしめたのだった。
「この馬鹿者がっ。なぜ俺に言わぬっ。この……」
 それ以上は、若者も言葉を出せなかったようだ。
「松次郎殿……。私……」
 女は若者の腕の中で小さく呟いていた。
「許さぬっ。許さぬぞっ白菊。俺の子等を……、何故に……」
「……。すいませぬ、……すいませぬ」
 啜り泣く女の声が漏れた。
 それを見つめていた勘解由と幻之介は一応ほっとした表情を見せたのだった。
 奥座敷で車座になった四人。松次郎の胸元には赤子が抱かれていた。照れたような表情で、じっと赤子の顔に見入る松次郎。
 勘解由は、その様子を見ながら、松次郎に問いかけていた。
「で……、松次郎。答えは出たのか?」
 勘解由を幻之介が怪訝そうな表情で見た。
「俺は事実を告げて、こいつを連れて来ただけだぜ。幻之介……」
「そうなのですか……」
「答えを出すのは、この二人だ」
 名指しされた松次郎と白菊は互いの顔を見合わせた。
「叔父上……、もう一人は?」
「幻之介が抱いている……」
 幻之介から子狐を受け取ると、松次郎は大事そうに抱きあげた。子狐は白菊の顔を見ては怯えた表情を見せる。流石にこの姿には、松次郎も溜息しか出なかった。
「白菊似なのにな……」
 松次郎は愛しげに子狐を見た。
「この子は、もう白菊を受け入れないのだろうか?」
 松次郎の疑問に、誰も答える事は出来なかった。
「……時が、経てば…、あるいは……」
 ぼそりと言った幻之介の言葉に松次郎は溜息を吐いた。
「こ奴がまた、馬鹿な事を考えぬよう俺の手元に置きたいのだが……。幻之介殿は承知してくれようか?」
 松次郎の言葉に、今にも泣きだしてしまいそうな表情をした白菊であった。
「私は……。又、化生の子を産むやもしれないのです。それでは……、貴方様に……」
「そうなった時に考える。あくまでも可能性の問題だからな。必ずしも化生の子が産まれるとは決まっていないだろう」
 きっ、と睨む松次郎に、白菊は不安なのだと告げた。
「なれば……、化生として生まれた子等は、俺が面倒を見よう。それならば問題あるまい?こっちには幻之介も居る事だしな……」
「それでは、叔父上にご迷惑が……」
「なあに、構うこたねえさ。俺らの間にゃ子が授かるわけでもねえしな。親の真似事するのも良いもんだろうさ」
 いつの間にか松次郎の手をすり抜けた子狐が、幻之介の胸元に飛び込んできたのだった。
「何よりも、懐いちまってる……」
 勘解由の苦笑を受け、幻之介も困惑気な表情を見せた。
「お二人の前で……。出来ればこの子に名を付けてあげたいのですが……」
 遠慮がちに言う幻之介に、松次郎は笑顔で、何と?と聞いた。
「白妙――、と……」
 その言葉に、白菊の表情が驚愕に変わった。
「なっ…、その名を……」
「構わぬであろう?白菊。この子の周りには不思議とヒトが集まるようだし……。婆様の名を継がせてやりたい。あの方のように、心根の優しいものに育てば……」
 ふと細められた幻之介の瞳。
 悲しいまでの生涯を終え、最後の最後で最愛の者とめぐり会う事の叶った老婆。あえてその名を継がせようと言うのであった。
「あの方の分まで、この子に幸せが訪れれば良いかと思って……」
 何かを訴える様に、幻之介の瞳が勘解由を見ていた。
「白妙――か。良き名を貰ったな……」
 松次郎は幻之介の胸元から顔を出した子狐を優しく撫でた。
「叔父上、こちらの子にも名を付けては頂けぬでしょうか?」
 急に振られた勘解由は、口に含んでいた御神酒を吹き出しそうになり、咽込んだ。
「…って、お前なあ。そんなンはお前ら二人で考えろやっ」
「冷たいですね、叔父上は。かわいいムスコの頼みぐらい聞いてくれても良いんじゃないですか?」
 勘解由に詰め寄る松次郎の袖を、白菊がそっと引っ張った。
「あの…、息子って?」
「ああ、俺の事。叔父上に嵌められて、義理の親子にされちまったのさ。で、今じゃこちらは御隠居さんね。だから、嫁として入ってもらうのはあの屋敷さ。問題無いでしょ」
 目を白黒させて驚いた白菊に、勘解由は微笑んだだけだった。
「幻之丞様も、御存じだったのですか?」
「ええ…、まあ……」
「俺らは、あっちの方で暮らしてるしな……。白妙にもその方が良いだろう」
 勘解由は幻之介の肩を引き寄せて言った。
「だから、お前には断る理由もねえだろ。まあ、安心して松次郎に嫁せば良い。何かあったら、こっちに逃げ込んでくりゃあ良いだけだしな」
 未だはっきりとした返事を受け取っていない松次郎は、じっと白菊を見つめていた。
「見捨てたら、化けて出ますぞ、松次郎殿……」
「望むところだっ、白菊」
 ひしっと抱きあう若夫婦を勘解由と幻之介は嬉しそうに眺めていた。
 互いの相手を抱きあうように休んだ二組だった。
 早朝、若夫婦は喧嘩腰のまま二人乗りで山村を後にしたのだった。
「何だかんだ言っても、似たもの同士ってことか?あいつ等は……」
 ぼそりと呟いた勘解由の声を、幻之介は笑いを堪えながら聞いていた。

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プロフィール
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性別:
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職業:
地獄の使い
趣味:
妄想
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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