猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。



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 勘解由を乗せた荒駒は、夕暮れ前には屋敷に辿り着いていた。飛び降りた勘解由は馬のそのままに、屋敷の中へと入っていった。
 馬の蹄の音に、慌てて飛び出してきた使用人たちも居たが、それには全く目もくれず、戸口を目指したのだった。
「全く……。何事ですかな、騒々しい…」
 中では喜平次の渋面が待ち構えていた。
「松は居るか?」
 険しい表情の勘解由を見て、何事かを感じ取った喜平次は、呼んでまいりましょう――、と奥へと消えていった。勝手知ったる屋敷の中。勘解由はかつて自分の部屋があった場所へと向かったのだった。中に入ってみれば、家具調度もそのままだった。在りし日の様に、勘解由はどっかりと部屋の中心に腰を下ろした。
 廊下をバタバタと近付いてくる足音が部屋の前で止まった。
「叔父上、やはりここにおられたか……」
 私の方にも話がありますっ、と半ば怒鳴り込みの様相で松次郎が入ってきたのだった。
「おめえの恨み事なら後で聞いてやる。だが、こっちの方が急用だ」
 いつにない真剣な表情の勘解由に、松次郎は襖を閉めると改まった姿勢で対峙したのだった。
「白菊の事だ……」
「彼女になんぞありましたか?」
 真摯に問いかけてくる松次郎を前に、勘解由は一瞬言葉を飲み込んだ。
「…本気で、あれを嫁にするつもりか?」
「何を今更……。とても叔父上の言葉とは思えませんが」
「あれは……、人ではないのだぞ」
「先刻承知の上。叔父上とてそれを承知で幻之介殿を手元に置くのでありましょうや?」
「それとこれとは話が違ってくる……。あれは化生の女なのだぞっ」
「それが何か?……私は構いませぬっ」
 言い切った松次郎を前に、勘解由は溜息を吐いた。
「まだるっこしいですぞ、叔父上。今更それが、何だと言うんですか?」
 笑顔を向ける松次郎とは裏腹に、勘解由は暗い表情であった。
「女とは子を産むのだぞ……」
 ぼそりと呟いた勘解由を松次郎は鼻先で笑い飛ばした。
「何を、当たり前の事を……。一体、何がおっしゃりたいのですか、叔父上は……」
 深呼吸を何度か繰り返した後、勘解由は低い声で告げた。
「あれは、子を産んだ……」
「はあ?」
「お前の子だ……」
「あの…、あれからまだ二カ月と経っておりませんが?」
「だから、言った筈だ。……あれは、化生の女だぞ…と……」
「で、その子は?」
 身を乗り出してきた松次郎をじっと勘解由は見詰めた。
「……子は三人。一人は人の姿。もう一人は化生のまま。そして……」
 松次郎が、無言のままに息を飲んだのが分かった。
「今一人は死んだ。……母親自らその息の根を止めさせた」
「なっ…ん、なぜっ」
「異形の姿で産まれ落ちたゆえ、…お前に迷惑がかかるとな。無論、他の子等にも手をかけようとしていた……」
 俯いた松次郎。膝の上では握り拳が二つ震えていた。
「……その上で、自らの命を断とうとしていた」
 拳の震えは、徐々に肩の方にまで及んでいた。
「だからこそ、あえて問う。松次郎――。お前はそのような女を嫁にとるのか?とな……」
 返答も出来ない様子の松次郎。
 勘解由は大きく息を吐き出した。
「返答は……、じっくり考えてからで良い。取りあえず、今のところは三人とも無事だからな……」
 すっと立ち上がった勘解由を松次郎が呼び止めていた。
「叔父上――、一体どうすれば……」
「……。それは、お前自身が考えて答えを出す事だ。俺には何も言ってやれん。…俺も、この二日中には戻らにゃならねえしな……。幻之介を待たせてある……」
「叔父上……」
「なんだ?」
「出立はいつ?」
「早ければ明日…」
 松次郎はゆっくりと立ち上がった。
「それまでは、どうか…、この部屋をお使いください。そのままにしてありますので……」
「松次郎……」
「今少しだけ……、時間を……」
 襖に手をかけ、よろめきながら出ていく後姿を無言のままで勘解由は見送った。
 外窓を開け放って、勘解由は夜空を見上げていた。
 その背後で、静かに襖の開かれる音。
「夕餉をお持ちいたしましたぞ、勘解由殿」
 にっこりとほほ笑む喜平次がそこに居た。
「またもや難問を松次郎に吹っ掛けたのではないでしょうなあ?」
「……。あれは、どうしている?」
「一人で部屋に引き籠ってしまわれましたよ。一体何事ですかな?」
「女からの伝言を持って来ただけだ。…後は、あれ自身が答えを出すか、否か……さ」
「おや、色好い返事は貰えませんのか?」
 とぼけた口調の喜平次に勘解由の表情も緩んだ。
「色好い返事にするかどうかは、松次郎次第だろうさ」
「そりゃあ、随分な難題ですなあ。まあ、そう言った悩みも若いうちだけの事でしょうから」
 カラカラと笑う老人につられて、勘解由も笑みを浮かべていた。

 
 陽が高くなっても松次郎は一向に部屋から出てくる気配は無かった。
(明日はどうあっても戻らねばな……。それまでに、心が決まれば良いが……)
 幻之介等の事を思うと、勘解由自身も不安で仕方がなかった。が、今はどうする事も出来ないのだ。手持無沙汰の勘解由は、小者達に交じって厩で荒駒の背を掻いていた。じっとしている事など出来なかったのだ。
 隠居を決め込んだはずの勘解由には実際仕事は無かった。はずなのだが……。午後には喜平次に呼び出しを受けていた。
「何でおれがこんな事しなきゃなんねんだよっ」
 不平たらたらの勘解由に、喜平次は人の良い笑顔を向けてくるだけだった。
「松次郎が部屋から出てきませんとな、仕事が堪る一方で……。まあ、その原因の一端はどうやら勘解由殿の持ち込んだという例の伝言なのではありませんかのお」
 カラカラと笑いを上げる老人に、未だ太刀打ちの叶わぬ勘解由であった。
「全く……。今日限りだからなっ。明日からは知らんぞっ」
「はいはい、構いませんよ。急ぎのモノだけでもあのように山積みになっておりますから」
 次々に手渡される書簡に目を通しては、筆を走らせる勘解由であった。急ぎだ――、と言うモノだけの処理でも深夜にまで及んだ。久しぶりの事務仕事の疲れを湯殿で流してきた勘解由は、昨夜と同じ部屋に戻ってきた。
 襖をあけると、若者が座っていた。
 その顔は憔悴しきっていた。
「答えは出たのか、松次郎」
「はい……、否、まだ、はっきりとは……」
「……そうか」
 短く答えた勘解由は、伸べられた布団の上へとどっかりと腰をおろしていた。
「で、どうする?俺は、明日は向こうに戻るぞ」
「……私もお連れください。……直に会ってみたい。……その子等に」
 ぼそりと呟いた松次郎に、勘解由は笑みを向けた。
「ならばすぐに休むか良い。その成りでは荒駒にはついてこれんぞ」
「では、明日……」
 若者はふらつきながら勘解由の部屋を後にしたのだった。
 

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プロフィール
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性別:
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職業:
地獄の使い
趣味:
妄想
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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