猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。



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 ゆっくりと糸を引きながら離された口。途端に幻之介は激しくむせ込んだ。それを然も可笑しげに笑い飛ばしながら、幻之介の背中をさすってやる男。 
 濡れた瞳を隠そうともせずに、幻之介は勘解由を見上げるのであった。言葉も無く、ただ涙を零すだけの若者。 
 勘解由は笑みを浮かべながら、その涙をすくい取っていた。
「誰かれ構わず、微笑みかけやがって……。俺の前だと、ほとんど泣き顔しか見せねえくせに……」
 言葉を繋げる勘解由はうすら笑いを浮かべていた。
「だって……、それは……」
「別に怒っている訳じゃねえ……。ただの悋気ってやつさ」
 優しく抱き留めようと伸ばされた勘解由の両腕。幻之介は、すいっとその間からすり抜けて、両手で顔を覆ってしまった。
「嫌なのか……。幻之介」
 幻之介の行動に勘解由は表情を曇らせていた。
 だが、幻之介はそのままの姿勢で頭を振っただけ……。
「勘解由様の方こそ……」
 小さな涙声での返答。
 嗚咽を噛み殺しながら、幻之介は言葉を続けたのだった。
「松次郎殿とは……」
「はあ?」
 突然出された思いもかけない人物の名前に勘解由は大きく聞き返していた。
「とても親しげに……。もしや、あの方とも……」
「おめえ、何言って……」
 問いかける勘解由の眉根が寄せられた。
「流石に血の繋がった方――。勘解由様とも」
 突然勘解由は幻之介に掴みかかった。
 激しく揺さぶられて、幻之介の両手は顔から外れた。涙に濡れた表情は、覗き込む勘解由の視線から逃れる様に逸らされたのだった。
「何を根拠にっ」
 思わず勘解由の問いかけがきつくなったのは、以前の相手を知られてしまった事への後ろめたさから。
 乱暴にその体を引き寄せれば、幻之介の悲しそうに微笑む顔が向けられたのだった。
「とても、親しげで……」
 そう言いながら、新たな雫が流れ落ちた。
 幻之介自ら、目の前の男の胸元に体を預けて来たのは、そのすぐ後の事。
「……苦しいの、勘解由様。私はどうすれば、貴方の一番になれるのですか?」
 ギュッと袷を掴む幻之介の手は震えていた。
「人ではない私が……。貴方様の……」
 それ以上、言葉もなくただ幻之介は涙を零すだけだった。
「すまねえ、幻之介。お前を不安がらせちまったようだな。籐五郎は兎も角、松次郎とは甥っ子ってだけで、それ以上の関係はねえ。あいつの好みは年下なんだからな……」
 震える幻之介の体を抱き留めながら、優しくその耳元に語りかけていた。
「それになぁ、今はお前だけだよ。幻之介」
 そう声をかければ、幻之介の顔がゆっくりと持ち上がっていった。上目使いに見上げるその表情。
「本当に……?」
 未だに不安を隠しきれない様子の幻之介に勘解由は優しく笑いかけた。
「こんな事で嘘を言っても仕方ねえだろう。……しかし、何だ――。お前も悋気たあなぁ」
 可笑しげに笑う勘解由。その言葉に幻之介の顔色は耳まで一気に染まったのだった。
 恥ずかしそうに、勘解由の胸元へ顔を押し付ける幻之介。
「お前にとって、俺は一番なのか?」
 真摯な声音の勘解由の言葉に、幻之介は小さいながらもはっきりと頷いて見せたのだった。
「……他の誰にも渡したくない程」
 震える声がそう告げて来た。
「ならば俺と一緒だ。他の奴に目移りするぐれえなら……」
 勘解由は耳元に「殺してやるっ」と囁いていた。
 幻之介は「私の方こそっ」と囁き返すと、男の唇に貪りついたのだった。
 火の爆ぜる音と湯の沸きたつ音。それに混じって、二つの喘ぎが聞こえていた。
 小鳥のさえずりの聞こえる中。幻之介は男の腕の中で目覚めた。体を動かすと内股をトロリと流れて来るモノの存在に、体が強張りを見せた。
「目覚めたか?」
 真上から見下ろす男の笑顔。
 幻之介の体越しに囲炉裏の火を熾していく男。その動きにさえ、幻之介の体は震えるのだった。
「今日は休め――」
 勘解由の言葉に幻之介は顔を上げた。
「でも……」
「松もアイツも今日は来ねえ。松には別の用事を頼んであるからな……」
 先手とばかりに勘解由が言った。
 それでも、まだ何かを言いたげな幻之介。
「俺がおめえとゆっくりしてえんだよ。それになあ、あっちで何かあったとしても、白菊残してあるんだしな……。何かの時には呼びに来るだろうよ」
「でも、白菊はこの場所を知らない筈……」
 と、言いかけた幻之介を勘解由の視線が促した。
 その視線の先――。入口付近の土間には明らかに獣の仕留めた獲物の姿。喉笛一噛みで絶命させられたのであろう兎が、土間の藁の上に乗せられていたのだった。
「あんな事やっていくのは、白菊しかいねえだろう。大体、普通の獣の仕業なら自分の腹に収めていくだろうしな。わざわざ人の居る小屋になんか近寄らねえさ」
 言いながらも、幻之介を抱き上げた勘解由。昨夜の致したままの姿を、そっと湯殿の方へと運んで行くのだった。
 朝日の中での淫猥な行為。嫌がる幻之介を体から先に籠絡していく勘解由の手管。嫌がるとは言っても、幻之介の場合、本心からの事ではないと確信しているか故の事。確かに、明るい中での行為を恥ずかしがっての事なのだ。
 昨夜の残滓を洗い流したその後に、悪戯を始めた勘解由。
「嫌っ……だ……めぇ、ふっ……ううっ」
 言葉では拒絶しておきながらも、押し込まれた勘解由の指根を締め上げる幻之介の体。
 いつしか「嫌」と言う代わりに、「良いようっ……」と啼き出してくるのだった。
 そうなってしまえば、後は勘解由の思うがまま。勘解由が満足げにその体を引いた時には、幻之介の意識は半ば眠りの中に囚われようとしていた。
 血色良く上気した体を、再び湯の中で暖めなおしてやる。無防備な寝顔のまま、体を預けている幻之介を見るたびに、顔を綻んでくるのが分かるほどであった。
 囲炉裏端の仮の褥の上へ幻之介を横たえると、白菊の差し入れの始末にかかった勘解由であった。
 香ばしく肉の焼ける匂いに触発されるように、ゆっくりと幻之介の瞼が持ち上がった。ゆっくりと身を起こせば、いつの間にか着物を纏っていた体。その時、微かな物音が小屋の外から聞こえたのだった。
 幻之介はその音に向かって進んだ。不安な気持ちのまま、それを埋めてくれる男の存在を求めて……。
 その物音が戸口の前でふと止まった。
 幻之介は、矢も楯も溜まらず、その入口の戸を勢いよく開け放った。
「吃驚するじゃあねえか……」
 両手に焚き付けを抱えた勘解由が立っていたのだった。
 幻之介は無言のままその体に抱きついた。
「なんだ? どうしたって言うんだ?」
 そのままの姿勢で勘解由は呟いた。
「居なかったから……。だから……」
「お前が目覚める前に戻って来る筈だったんだがな……。心配かけたな」
 男の促しに幻之介は素直に小屋の中に戻っていった。
 二人きりの一時。
 差し入れの肉を口に入れながら、他愛もない会話だけで時を過ごしていた。ひょんな事から話が弾み、いつしか笛を奏でる勘解由の膝枕で幻之介は心地良さに酔っていた。
 静かに日の落ちる山間。薄暗い小屋の中で、二人はただ寄り添っていた。時に笑いかけ、時に口付けを交わしながら、束の間の二人の時間を過ごしていたのだった。
 
 
> 9 覚醒

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内緒
趣味:
ヤバい事ゆえ、秘密
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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