夜が明けても、伊達の城内にいつもの活気は戻らなかった。が、いつもと同じ様に声を荒げて激を飛ばす若者。伊達成実だけは、いつもと変わらぬ姿勢を貫いていた。
「ったく、おめえだけはいつもと同じだな…」
成実にそう声をかけたのは、小十郎の部屋から出てきたばかりの宗実。さしもの小十郎も輝宗の死は相当堪えたらしく、宗実が強制的に眠りに付けさせなければならぬ程であった。
「なんだよ、宗実かよ…」
「なんだとは失礼な奴だな…」
「はんっ。小十郎の部屋の方から出てきて何言ってやがる…。この状況下でよくもまあ…」
「この状況下だからだろう。一人でも多くの手だれは欲しいからなあ。で、そっちの方はどうなんで…」
「何の事でえ…」
「おめえの梵はどうかって、聞いてんだよ」
「…ああ、分かんねえや…」
急に大人しくなった成実。
「なんでえ、時宗丸は…。折角梵と二人っきりになれる好機だったろうに」
「なっ…、何バカ言ってんだよ。こんな時にっ」
「こんな時こそって云うんだよ。で、梵の様子は見て来たのかよ」
宗実の言葉に、成実は頭を振った。
それを見て、宗実はただ溜め息を零しただけ。
「何を言っていいもんか、分かんねえから…」
「餓鬼だねえ…。そんな時は言葉なんかいるもんかよ。ただ抱き締めて泣かせてやればいいだけだろうが、胸の中でさ」
云いながら、宗実は成実の胸元をつついた。
「餓鬼で悪かったなっ」
膨れっ面を見せる成実を、笑い飛ばしながら宗実は自分の部屋へと向かった。
残された成実は、貰った助言もどこかに吹き飛ばす勢いで、配下の者を呼びつけた。
「俺が梵にしてやれる事って云ったらこれしかねえもんな…」
独り言をつぶやきながら、それでも配下への指示は容赦なく飛ぶ。水面下での戦支度を整えるために。
「梵。俺は基信のようにはならねえ。…おめえの為ならこの命捨ててやるから」
政宗の部屋の方に向かって、成実はそう呟いた。
翌日の午後。やっと政宗は公の場に顔を見せた。面やつれたその姿は、家臣たちの同情を買うに十分すぎた。言い下された指令を、その場にいた全員が嬉々として応じて見せた程。輝宗の弔い合戦が下知されたのだった。その場にいなかった者は、小十郎と、基信配下の数名の武将のみ。が、それに気がついたのはほんの僅かの者達だけだった。
戦支度の大半は成実が手配済みであった。それを知った政宗は、引き続き成実にそれを任せた。後は出立の日取りを決めるのみ。ただ、その場ではその事は決定されなかった。
「いつでも出れるようにしてくれ、成実」
政宗のその言葉に、成実は胸を叩いて応じた。
が、ここで左月が口を挟んだ。老将である彼はいつも通り城詰め担当になるはずだったからである。
「若…。此度の戦、この老人もお連れ下さい」
「って、左月。何言ってやがる。おめえは城詰めに決まってんだろうが」
そう返した政宗に尚も左月は食い下がった。
「御館様の弔い合戦とあらば、この左月。老体に鞭打ってでも参戦仕る」
「でも、おめえ鎧付けれんのか…」
口を挟んだのは成実。
「鎧など無用の長物。そのような物、腕に自信がない者が使えば宜しい。若、何卒この老い先短い老人の願い聞き入れてはくれまいか…」
「駄目だ…って云ったらどうする」
意地の悪い問いかけを投げる政宗に、左月は笑顔で答えた。
「なれば、この地で御館様の後を追いかけるだけ…。若が老人を蔑ろにしたとお伝え申す」
正面からの左月の言葉に、さしもの政宗も頭を抱えた。
「じゃあ、誰が変わりに城詰めするんだ。ここを空にしちまったら意味がねえ…」
「それなれば、私目が…」
そう、口を挟んだのは息子の綱元であった。
「先日同様、私目がその役果たさせて頂きたく…」
まるで示し合わせたようなこの親子に、政宗はただ頭を掻いた。
「解った…。なら、左月は俺の傍詰めなっ。成実、そう手配してくれ」
云われた成実は諾の返事を返した。
「いや、出来れば先陣を…」
云う左月を政宗は苦笑を浮かべて見つめ返した。
「従えなければ、城に置いて行くが…」
「いやいや…、解り申した」
政宗の言葉に左月は一応の従いを見せた。
「ならば、何時でも動けるように各自準備を整えてくれ」
その政宗の言葉に一同は解散となった。
広間を後にした政宗が向かった場所は小十郎の部屋。予め人払いを申しつけてあったその場所からは誰の気配も感じられなかった。そっと戸を開けて中を伺い見れば布団の上に膝を抱えて座っている小十郎の姿。その膝に顔を埋めた体勢で微動だにしていなかった。
政宗は後ろ手で戸を閉めると、ゆっくりと小十郎の傍へと近づいた。
その肩に触れても小十郎は一向に反応を返さなかった。政宗はその傍に膝を付くと、両手で小十郎の顔を上げさせた。
泣き腫らし紅く染まった小十郎の瞳は焦点を結んでいなかった。その顔に、政宗の顔がゆっくりと近付けられていった。丹念にしつこいほど繰り返される政宗の口合わせに徐々に小十郎の瞳に光が宿って来た。
「政宗…さ…ま…」
その問いかけに政宗は小十郎の体を抱き崩した。
言葉を返すことなく、小十郎の肌に舌先を走らせる政宗。徐々に小十郎の吐き出す吐息も乱れ始めた。
「政宗様…、なにを…、ふっ」
「この状況で何無粋な事いってんだ、小十郎」
「ですが…、ふあっ…、んんんん」
小十郎の下半身を捉えた政宗の指先が容赦なく責め立てた。
「忘れてんじゃあねえか、小十郎。おめえは誰の家臣だよ。…それとも、おめえまで親父に引き摺られるっていうのかっ」
「っつう…、なん…の事…を…」
「親父の事、忘れろっては云わねえ…。が、おめえは俺を見ろよ。これからは俺だけを…、小十郎…」
乱暴に潜り込んでくる政宗の指根。輝宗の愛撫に慣らされた体も、その性急さには付いて行けずに悲鳴をあげた。それでも、政宗の指根は容赦なく責め立てる。
「痛っ…、政…宗…様…」
小十郎の訴えに耳もかさず、ただ政宗はその狭道を無理やり広げていく。
その性急過ぎる政宗に何かを感じた小十郎。苦痛を堪えながらも、己の両手で圧し掛かる男の背を抱き締めた。
「政宗様…。今しばし…、くううっ…」
初めて受ける政宗の手管に、小十郎は苦痛の表情を浮かべただけ。先の愛撫で緩く立ち上がりかけたそれすらもうなだれる程に。
「今少し…、加減を…」
切れ切れの小十郎の言葉に、政宗はやっと組み敷く男の顔を見た。苦痛の脂汗を流すその姿に愛撫の手が止まった。
「…小十郎」
「構いませぬ…。ただ、少しばかり…」
視線を合わせた政宗に対して小十郎は微笑んで見せた。再び合わせられる唇。小十郎は政宗の全てを受け止めた。
乱れる吐息を隠そうともせず、政宗の手管に身を任せる小十郎。先の行為に痛む部分で、若き当主を迎え入れた。
「…忘れさせてくれるのでしょう、政宗様が…」
折り込まれる様な窮屈な姿勢にも関わらず、小十郎は政宗に抱きついて見せた。
「俺の事だけしか見えねえようにしてやるよ、小十郎…」
「これ以上…、貴方の事だけを考える事などできませんでしょうに…」
「ああ、…そうだよな」
「それに、御館様の遺言に逆らう程、小十郎は忘恩の徒ではありませぬ故…」
「小十…」
その後の若さに任せた政宗の行為に、さしもの小十郎も泣きを見る羽目になった。流石に二夜連続ときては、体力的にも限界を迎えるのが早かった。その行為の激しさに、小十郎は政宗を銜えたまま意識を飛ばしてしまったのだった。
>4
- HOME -


