猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。


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伊織と求馬
 
「旦那さま。先生がお見えですが……」
 廊下から障子越しに下働きの女中が声をかけてよこした。
 忠相は、明日の評定調停の書類に目を通している最中だった。いつもならば、この奥座敷へは女主しか踏み込まない。が、今日彼女は実家の在る里へと戻っているのだ。
「ああ……、通してくれ」
 そう声をかけたと同時に、障子が開けられた。
「もう勝手に通ってるがな……」
 入って来た男は女中に一言二言伝えると、敷き勝手な場所へと腰を下ろしたのだった。
 それを横目で見ながら、忠相はまだ文机の上に広げたままの所管に視線を向けた。
「呼びつけて置いた挙句、仕事が終わっていないのか?」
 己の楽な姿勢でくつろぐ男が言った。
「済まない、伊織。お前も忙しいのにな……」
 そう言いながらも、視線を向ければうっすらと笑いを浮べた表情とぶつかった。
「まあ、こちらも準備が整わない事にはな……。家の者とは言えあまり踏み込まれたくはないのだろう、忠相」
 奥方の不在を暗に匂わせる男の言葉に、忠相は頬が熱くなるのを感じた。
 それを眺める男の舐める様な視線を感じ、そのまま動きが止まってしまうのだ。
「こっちは構わねえから……。仕事――、続けたらどうだ?」
「ああ……」
 生返事をしながら、忠相は手元の書簡に視線を戻した。
 その間も、男は何をすると言うわけでもなく、視線を向けるだけだった。
 しんと静まり返った部屋には、時々ぱらりぱらりと紙を捲る音だけが響いた。
「榊原先生――。いつものヤツ、準備できましたぜっ」
 外から下人の声がかかった。
 伊織は障子戸をあけると、下人の差し出すモノを受け取っていた。
「今日は随分と速かったじゃないか」
 下人に男が声をかける。
「いやあ、そろそろお見えになる頃じゃねえかと思いやして……。順にして置いたんでさあ」
 それは在り難い――、と下人に笑顔を向けて受け取るのだった。
 大きめの手桶に張られた熱めの湯。それを持ったまま、伊織は勝手知ったる足取りで奥の襖の手前にそれを置いた。その後を先程の女中がこそこそ入って来て、膳を並べていくのだ。
「何の真似だ?」
 命じてもいない酒膳の登場に、主の忠相は怪訝そうな表情を浮かべた。
「奥方様が、榊原先生がお見えになられたらこうしろ――、と……」
 ボソボソとした口調で言ってきた。
「誰かとは大違いだな、忠相。流石はあの妻女だ、良く気が利く」
 伊織は並べられた酒膳を前に、そう呟いていた。
「悪かったな、気が回らなくて……」
 そう忠相がぼやくと、苦笑をこらえながら伊織がまるで主のように下人達に命じていた。
「後はこちらで勝手にさせて貰う……。済まなかったななぁ」
 伊織の言葉に、下人達はまんざらでもない表情を浮かべて出ていった。
 遠ざかっていく足音。
 閉ざされた部屋の空気が一気に濃いものへと変化していった。
「まだ仕事を続ける気か? ――求馬」
 呼ばれる名前の変化。決して逆らう事の出来ない時間の到来。
「さっさと来い――」
 そう言いながら、伊織は奥の襖を開けた。
 そこには既にのべられた寝具。
 忠相はこれから起こる事に、体が僅かに震え出すのを感じるのであった。
 忠相は命じられるまま、襖の中に身を入れ、後手でそれを閉ざした。
「……いつまで、そうやっている気だ」
 伊織の声が飛ぶ。
 彼はすでに手荷物をほどき終え、寝具の上掛けを剥いでいたところだった。
「早くここへきて脱げ――。それとも最初の日の様にされたいのか?」
 意地の悪い口調で言われれば、忠相の脳裏にはその時の事が鮮明に蘇って来たのだった。そう、閉じる事も叶わないように下肢をきつく拘束された姿を――。
「早くしろ、求馬。……さっさと此処に這え」
 有無を言わせないその口調に、求馬と呼ばれた男は黙って従うしかなかった。
 
 普段、伊織は人目のある場所では「忠相」と呼びかける。それが二人きりになった途端、支配者のように昔名の「求馬」と呼ぶのであった。そう、完全にその力関係を知らせるために――。
 古い馴染み以上の付き合い。
 忠相の周りには、その昔名を知る者はごく僅かになっている。それでも、伊織は呼び続ける。そして忠相自身も、そう呼ばれる事に何時しか快楽を感じる程になっていた。
 
 

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プロフィール
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猫又女帝・垂氷
性別:
女性
職業:
地獄の使い
趣味:
妄想
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
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