猫又女帝の暗黒帝国(本館)
歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。


tera2.jpg
 出立の日数から言っても、そろそろ輝宗が戻っては来る頃なのだが、いくらなんでもこの夜半に帰城する事はあり得ない。ただ、それでも何をする事なく、無意味な時間を潰すぐらいなら、と罵声を浴びせられるのを覚悟で再度喜多の元に戻った。
「義姉上様…」
「何しにきた、お前はここに来るなと言ったであろうに」
「火急の用向きなれば、この小十郎が御館様の元にお知らせに参ります。何があったのかだけでも、教えては下さらぬのですか?」
「…義姫様不在の今、そうするより方法がないのかも知れませんね」
 襖の開く音に、景綱は身を正した。
 面やつれた喜多の表情。ためらいがちに、それでもハッキリとした口調で「他言無用」と言い放った。
 耳打ちされた内容に、景綱の表情は驚愕に変わった。
「他の、武将衆が出払っている今。これを頼めるのは、確かにお前しかいない。なるべく早く、気取られる事なく殿に伝えてくれようか?」
 心配そうに、景綱の顔を覗き込む喜多。
「小十郎、参る」
 気合いをかけるかの様に、喜多に向ってそう告げると、景綱は急ぎ厩へと向かった。
 闇夜に乗じての、戦場への早掛け。敵に知られる事なく主の元に情報を届ける役目。しかも、この場合、敵は内部にも存在していた。
 喜多の存在を良くは思っていない義姫側の武将達である。ただでさえ、一つ違いの弟君を溺愛している義姫側にこの事態を知られれば、後々面倒な事になって来るのは目に見えている。
 そんな考えを走らせながらも、小十郎は足の速い軍馬に跨った。
 ある意味で、今回の戦に参戦できなかった事は不幸中の幸いとも言えたのかも知れない。なぜか、今回ばかりは城の留守居役と命ぜられ、他の武将の前で、不服申し立てをしていたのであった。それでも、輝宗は、「今回ばかりは連れては行けぬ」と、苦笑いを浮かべていたのだ。輝宗との閨の中ですら、同じように食い下がった景綱。「今回は、大した戦でもない。たまには、義姉上にでも、甘えるが良い」そう言った輝宗の顔が浮かんできた。
 思い出に浸っている場合ではないと、景綱は馬に鞭をあてる。降り落とさんばかりの勢いで駆け抜ける駿馬。半ばしがみ付くような体勢で、風圧から身を守る。暫く走ると、見覚えのある陣幕が迫って来た。
ただならぬ気配を感じた、武将達が蹄の音のする方へと終結しはじめる。
(このままでは、拙い)
 咄嗟に、景綱は手綱を引き、馬の歩速を緩めていった。
「こんな時分に何事か?」
 景綱の前に飛び出して来たのは宗実。
 馬から飛び降り、ひれ伏す景綱。
 しかし、その景綱の顔を見るや
「御館様の言い付けを破ってまで、この場に参じるとは!」
 容赦のない叱責。
「御館様に、急ぎお知らせしたい事あれば…、どうかお取り次を…」
 ただならぬ光景に、他の武将たちも集まり始めた。見渡せば、いずれも鍛錬場での見知った顔。ただ、その中にも警戒しなければならない相手も確かにあった。
「この様な時分に、何の要件じゃ。…取り次いでやらぬこともないが…。」
 老将の言葉におもわず景綱は顔を見上げた。
 言えば、全ての者に晒されてしまう事を危惧してか、
「内密の義あれば…」
 と、景綱の言葉切れが悪くなった。
 要領を得ない景綱の言葉に苛立ったか、宗実。
「御館様の言い付けを守れぬ者が、何の用だ。親恋しいばかりに、その使命を投げだすような奴とは思わなんだ」
「…」
「その様な腑抜けに我が後を任せるわけにはいかん。…今ここで成敗してくれる」
 いまにも帯剣を抜かん勢いで、景綱に詰め寄った。
「まあまあ、白石の…。殿恋しさとはいえ、この駿馬、乗りこなして来た度量は認めてやらんか。…さあ、小十郎。殿はあすこの陣幕におわす。一目まみえれば、すぐにでも帰ろう?……さあ、白石の、案内してやらんか」
 這いつくばっている景綱を抱き起こしながら、老将鬼庭が言った。渋々の体で宗実は幕屋に景綱を引き摺るようにしていった。その間も、悪態をつく事を止めずにである。
「御館様、お情け欲しさに虚け者が参っております。いかがいたしましょうや…」
 流石の景綱も、この物言いには頬を赤く染めた。
 輝宗を取り囲んでいた武将も、思わずの失笑を隠そうともしない。
 謂れもない恥かしめを受けた事に、景綱の握りしめた拳が震え出した。
「先の騒ぎはお前か、景綱。…まあ、仕方なし。皆は戻って休め。」
 輝宗の言葉に、次々と幕屋を後にする武将達。その甲冑の音が遠ざかっても、景綱は身動きする事が出来なかった。
「馬鹿者、何をしておる。とっとと御館様の傍に行かんか。…人払いしたかったんだろうが」
 宗実が、景綱の背後を後押しした。去り際の宗実の表情からは、先程の厳しさは消えていた。
 二人残されても、尚、景綱は言葉を出す事が出来なかった。何を、どう説明すべきなのか、浮かんでこなかったのである。
「こい、景綱」
 優しい口調に引かれるように、ゆっくりと輝宗のもとに歩みを進めた。
 手を引かれ、輝宗の上に座らされたのである。
「何があった、申してみよ」
 輝宗の優しい抱擁に包まれながら、一つずつ言葉を重ねていく景綱。
 要領を得ないかも知れない。そう思いつつ、輝宗の陣羽織を握り締める手の震えを止める事は出来なかった。
 

拍手[0回]

- HOME -
Powered by  忍者ブログ | [PR]携帯 結婚指輪
カレンダー
09 2009/10 11
S M T W T F S
5 9
14
30 31
アンケート

プロフィール
HN:
猫又女帝・垂氷
性別:
女性
職業:
地獄の使い
趣味:
妄想
自己紹介:
「歴女」かもしれません。「BLヲタ」かもしれません。
「ホラー・オカルトマニア」と言う話も聞こえます。
不思議な「生き物」である事は間違いようがないです。
猫好きのたぶんB型です。
ある意味、「ぬこ」そのものだという評価もありますがね。
下記のサイト様に参加させて頂いております。
一日一クリックのご協力お願いいたします。

駄文同盟.com

kagome_bns1.gif


オンライン小説ランキング・小説の匣
女性向け創作サイトリンク集B-LOVERs★LINK
創作検索ぴあすねっとNAVI

オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび

ブログランキング・にほんブログ村へ

ban4.gif







ブログ内検索
最新コメント
[06/21 しゃちこ]
[06/16 しゃちこ]
[05/06 しゃちこ]
[05/06 しゃちこ]
[05/05 しゃちこ]
忍者アド
忍者アド
バーコード