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	<title>猫又女帝の暗黒帝国(本館)</title>
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	<modified>2009-08-30T10:33:41+09:00</modified>
	<author><name>猫又女帝・垂氷</name></author>
	<tagline>歴魔女の館へようこそ。入口の『注意書き』をよく読んでね。
</tagline>

	<entry>
		<title>泡沫の夢　14―2</title>
		<link rel="alternate" type="text/html" href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/220/" />
		<id>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/220/</id>
		<issued>2010-03-17T00:36:52+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-17T00:36:52+09:00</modified> 
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		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<br />
<img border="0" alt="musi_kago-s1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257220783/" />&nbsp;
<div>　いつも誰かの声がするのだった。今までの様に風の音だけが響く静けさは失われていた。どこかで何かの物音がする。人々の生活の気配が伝わってくるのであった。それに気を取られ、幻之介は意識を遠く飛ばす暇も無いほどであった。</div>
<div>　いつの間にか集落は大きくなっていた。自給自足の貧しい生活にも関わらず、いつの間にやら人が集まり始めたのだった。中には遠く離れた土地からやってきた者達もいた。誰もが、幻之介と白妙に頬笑みを向けるのだった。</div>
<div>「幻之介殿、少し布を分けて下さらんかのお。着物が破れてしもうてな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　春先に転がり込んだ老人が縁側で糸を紡ぐ幻之介に声をかけた。</div>
<div>「ほれっ、脱いでよこしっ」</div>
<div>　その背後から現れた藤乃が手を差し出していた。</div>
<div>「ばあ様、済まねえなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　降り気に腰をおろしていた白妙が、その奥へと消え、手に布切れを持って再び現れた。</div>
<div>　元気のある男達は畑へと出ていた。丁度綿花の収穫の時期なのだ。幻之介達の仕事場は勘解由の庵の西側へと増築されていた。大量に取れる様になった綿花を収納する場所も必要だったからだ。仕事場は庵の縁側と渡り廊下でつながっていた。</div>
<div>「ああ、そうじゃ。ほれっ」</div>
<div>　老人が幻之介に竹籠を差し出してきた。</div>
<div>「今朝の分じゃ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　十数個の卵を手に、幻之介は礼を述べていた。</div>
<div>　人も増えたが、家畜も増えていた。この老人の様に、足腰の弱った者たちにはそれなりの仕事が与えられるのだ。皆で生活を営む&hellip;&hellip;、その姿勢がこの集落に住み付く者の条件であった。幻之介や白妙の見た目に近い若者のも加わる様になっていた。</div>
<div>「幻之介様ぁ、戻ってまいりましたよう」</div>
<div>　遠くの小道から、若い娘が手を振っていた。荷馬車にゆられながら、若い二人は幻之介に向かって手を振り続けていた。</div>
<div>「おやおや、あの顔付きじゃ&hellip;&hellip;。余程に良い値で売れたらしいね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　縫物を終えた藤乃が老人に着物を手渡しながら言っていた。</div>
<div>　兄の方は無言のままであったが、妹の方は息もつかぬ勢いで話まくっていた。以前、町に売り物に言った男が、帰り道に拾ってきた二人なのだった。傷付き倒れていたのを助けられ、傷がいえた後、そのまま集落に住みついてしまったのだった。もう、誰もがそんな事に慣れていた。庭先では老人たちが、代わりに買い入れた荷を受け取っていた。次々と共同の集積小屋へと運び入れられる荷物。</div>
<div>「ほう、今回は随分と仕入れてきたねえ」</div>
<div>「幻之介様と白妙様の布を高く買ってくれたお大尽がいたんでねっ。もう一回二回くらいで冬越えの蓄えには充分なんじゃないかな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　娘の言葉を聞きながら、藤乃はちらりと荷車を見たのだった。</div>
<div>「で&hellip;、そちらの者は？」</div>
<div>　藤乃の言葉に、黒い塊が動いた。</div>
<div>「帰り道で拾ったの&hellip;&hellip;。駄目だった？」</div>
<div>　白く濁った瞳は半開きのままで、藤乃の方を向き姿勢を正したのだった。</div>
<div>「駄目だった&hellip;って、犬猫を拾ってくるのとはわけが違うぞえっ」</div>
<div>　藤乃の苦言に娘はうなだれた。</div>
<div>「だって、行き先が無いって&hellip;&hellip;。私たちと、一緒だったから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　しょんぼりした顔つきで、徐々に声の低くなっていく娘。</div>
<div>「良いではありませんか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　背後から、笑みを湛えた幻之介が近付いてきた。</div>
<div>「まあ、幻之介殿が良いと言われれば、誰も反対する者など居ないからなあ」</div>
<div>　幻之介の声の方に顔を向けた老婆は、それこそ何かを拝むかのような仕草を見せたのだった。</div>
<div>「ああ、貴方様こそ&hellip;&hellip;。この見えぬ目でもはっきりと感じまする。貴方の神々しいまでの」</div>
<div>「ご老人っ」</div>
<div>　幻之介の呼びかけが、老婆の言葉を遮っていた。苦笑を浮かべた幻之介と藤乃は何かを感じ取っていた。</div>
<div>「取りあえず、湯あみを&hellip;&hellip;。その後で私の処へ&hellip;&hellip;。白妙、着替えを出してっ」</div>
<div>　白妙は間もなく、一式を持って現れた。それを受け取った幻之介は目の前の娘に手渡していた。</div>
<div>「手伝ってあげて&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の言葉に、娘は嬉しそうに頷いていた。兄の方は、ほっとしたような表情で幻之介に頭を下げていた。</div>
<div>「幻之介様、出来ればうちの庵で&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言いかけた娘に、幻之介は笑いを見せながら頷いていた。</div>
<div>「不用意な発言は止めて頂けようか？」</div>
<div>　湯上りの老婆を前に、幻之介の隣に座った藤乃が言い放った。ただ、幻之介はそれを黙って聞いているだけだった。</div>
<div>「それが倭子の&hellip;&hellip;。いえ、御館様の命ならば従いましょう」</div>
<div>　恭しく頭を下げた老婆の言葉に、二人の顔付きが険しく歪んだ。</div>
<div>「何を言っておられるか？ご老人&hellip;&hellip;」</div>
<div>「倭子――。幻之丞様。よもやこのような形で貴方様に逢えようとは&hellip;&hellip;。これの先代様の、先見様の導きによるものでしょう&hellip;&hellip;」</div>
<div>　盲の濁った瞳が潤んでいた。</div>
<div>「御館様のお傍に居た者は全て絶えました。私を残して&hellip;&hellip;。後に残された者達も、散り散りに&hellip;&hellip;。先見様は、皆を逃がそうと最後まで遅い来る人間共に立ち向かわれました&hellip;&hellip;。我の力が足りなかったばかりに&hellip;&hellip;。白妙の婆様が居れば、ここまで無念な結果には&hellip;&hellip;」</div>
<div>　老婆は泣き崩れていた。</div>
<div>「一体、それは&hellip;&hellip;、いつ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「三年前の初夏の事になりますれば&hellip;&hellip;」</div>
<div>　老婆の言葉に幻之介の体はぐらりと傾いだ。慌ててそれを支えたのは藤乃であった。</div>
<div>「あの戦&hellip;&hellip;。それが&hellip;&hellip;、御館様の&hellip;&hellip;」</div>
<div>「幻之介殿っ、しっかりいたせ。白妙っ、白妙っ」</div>
<div>　藤乃の慌てた声に、白妙が飛び込んできた。</div>
<div>「白妙っ、あの娘らを呼んでおくれっ」</div>
<div>　白妙が出ていくなり、藤乃は老婆を睨みつけていた。</div>
<div>「この事は他言無用ぞ。そなたも我が身が大事ならば、今後は&ldquo;人&rdquo;としてここで暮らすが良い。もし、それ以外を望むのならば、姿を消せっ。ここはひっそりと隠れ住む為の場所だ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。御館様の共に在れるのであれば」</div>
<div>　ついと上げられたその顔。丁度そこへ、若者二人を連れた白妙が戻って来ただった。</div>
<div>「なにか在りましたんか？」</div>
<div>　娘が心配そうに聞いてきた。</div>
<div>「いや、何。話の途中で幻之介殿が眩暈をおこされてな&hellip;&hellip;。たぶん、疲れが出たのだと思うが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「大変だわっ、私、勘解由様を呼んできますわねっ。兄さんはその婆さんを家に連れて行ってね」</div>
<div>　娘は藤乃が呼び止めるのも聞かず、飛び出していったのだった。</div>
<div>「全く、あの娘と来ては&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃はあきれた表情で言っていた。</div>
<div>「済まない――、と言っておられますが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ぼそりと言った老婆の言葉に、藤乃は怪訝そうな顔をしたのだった。</div>
<div>「いえ、この若者がですよ&hellip;&hellip;。早合点な娘で済まぬと&hellip;&hellip;」</div>
<div>「お主、この若者の考えが解るのか？」</div>
<div>　老婆は小さく頷いていた。若者は全く口を聞けなかったのだった。耳は聞こえているようだが、声を出す事が出来ない様子だった。</div>
<div>「この二人は兄妹では無いと&hellip;&hellip;。戦火を逃れる際に出会っただけなのだとも&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そうか&hellip;&hellip;。なればそこにお前が加わっても、さほども変らんだろうな。行け&hellip;&hellip;。行って二人の橋渡しをしてやるが良い」</div>
<div>　立ち去る二人を見送った藤乃。その腕の中では青白い顔をしたまま幻之介が震えていたのだった。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
＞　14―3]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>泡沫の夢　14―1</title>
		<link rel="alternate" type="text/html" href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/219/" />
		<id>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/219/</id>
		<issued>2010-03-16T22:35:24+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-16T22:35:24+09:00</modified> 
		<created>2010-03-16T22:35:24+09:00</created> 
		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/sidaresakura-oogi.jpg"><img border="0" alt="sidaresakura-oogi.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221059/" /></a>&nbsp;
<div><font color="#ff6600"><strong><font size="4">１４・運命の時</font></strong></font></div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　動かぬ体を押して、幻之介は見送りたいと言った。</div>
<div>　勘解由は苦笑を浮かべながらも、その要求に応じた。輿に横たえられたまま、表屋敷を目指す一行を、庵の住人たちと藤乃が見送っていた。幻之介も勘解由に抱かれながらそれを見送っていたのだった。</div>
<div>「藤乃&hellip;&hellip;、何でお前がここに残る？」</div>
<div>「幻之介殿がこの有り様では、今しばらく人手が必要でございましょうや」</div>
<div>「婆の出る幕なんかここにゃねえやっ」</div>
<div>　言い切った勘解由に白妙が駆け寄っていた。</div>
<div>「ばあばも、帰っちゃうの？勘解由おじ様&hellip;&hellip;」</div>
<div>　淋しそうに見上げる白妙の瞳。</div>
<div>「いや&hellip;&hellip;、なんだ、その&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言い淀む勘解由に、藤乃と幻之介は笑いを堪えていた。</div>
<div>　あの日以来、幻之介は妙に塞ぎこむ事が多くなっていた。人前では努めて明るく振舞っている。だが、一人になると、その表情は暗く沈んでいるのだった。</div>
<div>　未だに戦も終わらず、時折表屋敷に出入りしている者達もちょくちょく顔を見せる様になっていた。</div>
<div>「またぞろ、この辺りもキナ臭くなってまいりましたなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　しっかりと居座りを決め込んだ様で、藤乃も体を動かしやすい服装へと改めていた。</div>
<div>　いつの間にやら、藤乃と白妙は与太郎が使っていた庵へと移り住むようになっていた。それを幻之介が複雑な想いで見ていたのだった。</div>
<div>　数か月経ったある日。数人の男達を連れて、松次郎夫婦が勘解由の庵を訪ねていた。間もなく開きも深まろうと言うこの時期に&hellip;&hellip;。</div>
<div>　元あった集落を取り囲むように、新しい庵が立てられていった。勘解由の庵の外に在る露天風呂に続く源泉からは、新たに別の水路も引かれ共同の浴場も誕生していた。</div>
<div>　何事かを言いかけた勘解由を松次郎が睨みつけていた。</div>
<div>「全ては、義父上が悪いんですからねっ」</div>
<div>「何で俺がっ？」</div>
<div>　二人の言い争いの間も、次々に物資は運びこまれていった。それをわくわくとした表情で見つめる白妙だった。</div>
<div>「ねえ、何が出来るの？松父様――」</div>
<div>　広がっていく集落。元々の建物とはある程度の距離を保って立てられていく庵。</div>
<div>「無様な負け戦をする主には、愛想が尽きたらしいです」</div>
<div>　苦虫を噛み潰すように言う松次郎を、白菊が窘めていた。</div>
<div>「先の戦で家族を失った者達です。勘解由様の傍で、余生を送りたいと&hellip;&hellip;」</div>
<div>「違うだろ、白菊」</div>
<div>　ちらりと勘解由は視線を流していた。</div>
<div>　日当たりの良い縁側で、無心に糸車を回している幻之介の姿を見たのだった。</div>
<div>「あれを&hellip;&hellip;、あれの楯となった者たちの家族か？」</div>
<div>「望んでいった者達ですよ、勘解由殿。気になさらずに&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃の言葉に勘解由はピクリと目尻を動かしただけ。</div>
<div>「そのような言葉、あれには通じんぞ&hellip;&hellip;。気にかけぬわけがなかろうに&hellip;&hellip;」</div>
<div>「いずれ慣れましょうや&hellip;&hellip;」</div>
<div>　さらりと言い切った藤乃に流石の白菊も顔色を変えたのだった。</div>
<div>「藤乃、お前何を知っている？」</div>
<div>「白妙が――。婆が言っておりました。あれは全てを焼き尽すモノだ&hellip;、と。これから先、幻之介殿の前には炎に焼かれる屍が転がるのみ&hellip;&hellip;。承知で焼かれるか、あるいは――。それは修羅の王の前に出た者次第でしょうが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「藤乃、てめえっ」</div>
<div>　思わず勘解由は藤乃の胸倉を掴んでいた。</div>
<div>「この婆の口を封じた処で、何も変わりませんよ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　苦しげな表情を浮かべながら、藤乃は言った。この騒ぎの中でも、幻之介は微動だにしない。まるで己の周りに見えない壁でも張り巡らせたかのように、誰も傍に近づけさせないのであった。</div>
<div>「勘解由おじ様っ、止めて&hellip;&hellip;。ばあばを放して&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由の腕に、白妙が張り付き泣きじゃくっていた。流石の勘解由も、その姿を見て手を放した。途端に藤乃は咳き込んだ。その背中を心配そうに白菊が擦っていた。</div>
<div>「わかるか？勘解由殿&hellip;&hellip;。今の己の中に在る感情が何か&hellip;&hellip;。あの若者が、その力をお前様と同じようにして使ったのならば&hellip;&hellip;、どうなる？」</div>
<div>　手をついて息を乱しながらも、藤乃は続けていた。</div>
<div>「一族の者全てが知る事実ぞっ。家族を持てる年頃になれば、親がそれを伝えていくのだ&hellip;&hellip;。滅ぼす者か、救う者か――。その心根一つで、全てを焼き尽す鬼神の存在をな――。それを知らなかった者は、勘解由殿&hellip;&hellip;。そなたと、あの若者だけだ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「なん&hellip;で&hellip;&hellip;」</div>
<div>「我等は亜種。そなたの母御を世話する為に集められたモノ。白菊殿や幻之介殿とは別のもう一つの闇の一族の末&hellip;&hellip;」</div>
<div>　きらりと光った藤乃の目。赤みを帯びた瞳は、じっと勘解由を見ていた。</div>
<div>「まさ&hellip;か&hellip;&hellip;」</div>
<div>　驚愕に変わった勘解由の表情を見て、藤乃は苦笑を浮かべた。</div>
<div>「&ldquo;人&rdquo;と呼ばれるモノになり済ますなど、雑作もない事。我が血筋のモノ以外もだいぶ雑多に入り混じっている生き物だからな&hellip;&hellip;。その血の謂れを知るか知らぬかと言う事だけであろう。時々化け物じみた&ldquo;力&rdquo;を出す者も多くいるであろうや？知らずに済めばそれだけ&ldquo;人の世&rdquo;に馴染みやすいからな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃は優しく微笑んでいた。</div>
<div>「松次郎とて、かなり血は薄くなって居るが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　松次郎はきょとんとした表情で己を指さした。</div>
<div>「やたらな者が嫁に来たのではな&hellip;&hellip;。白菊殿以上の苦しみを感じたであろうな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　困惑気な白菊。</div>
<div>「交わってはならぬとされた一族同士よ。お前等もな&hellip;&hellip;。この娘、白妙は産まれるべくして、産まれ落ちたのだ。親同士の血を糧に、親以上の力を持ってな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　黙る三人をよそに、白妙は藤乃へと摺り寄って来た。</div>
<div>「勘解由父様と幻之介お兄様――。二人の縁が繋がった以上、必ずどこかにもう一つのカギが産まれる。鬼神の本当の力を目覚めさせる者が&hellip;&hellip;。それが私&hellip;。私の役目――。皆が幻兄様の前に膝を折る。&hellip;&hellip;望んでその炎に焼かれていく&hellip;&hellip;。お兄様は常世の王の使者」</div>
<div>　藤乃の膝の上へ座りながら、やけに大人びた表情で語り出した白妙。</div>
<div>「私は唯一の鍵――。お兄様の&ldquo;力&rdquo;の扉を開くモノ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　艶然とした微笑み。その顔付きは最早少女のモノではなかった。</div>
<div>「お兄様っ、遊んでえ」</div>
<div>　藤乃の膝を降り、白妙は甘える様に幻之介に呼び掛けていた。その声にゆっくりと幻之介が振り返った。</div>
<div>「どうしたの？白妙&hellip;&hellip;。あっ、あの、いつの間に皆さん&hellip;&hellip;」</div>
<div>　まるで今気付いたというような幻之介の表情。慌てて挨拶をしようとした幻之介を勘解由が止めた。</div>
<div>「構わねえ、幻之介。白妙と遊んでやってくれ&hellip;&hellip;。どうせ、こいつ等は俺に用があるだけだしな」</div>
<div>　勘解由の言葉に表情を曇らせた幻之介であった。</div>
<div>「あっ&hellip;&hellip;、仕事の話っつうっ、その何だ、相談事をな&hellip;&hellip;。別にどこかに連れ出そうってわけじゃねえから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由に小突かれて言い出した松次郎であったが、その脇からは白菊が余計な事は言うなとばかりに見えない部分を抓っていたのだった。</div>
<div>「あの、でも&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ねえ、お兄様。黒ちゃんに乗せてえ」</div>
<div>　幻之介の腕にぶら下がる様にして白妙が言った。そして、ちらりと勘解由の方に視線を向けた。</div>
<div>「行ってこい。黒も退屈してるだろうからな&hellip;&hellip;。余り遠くまでは行くんじゃねえぞ」</div>
<div>　勘解由の後押しを受けて、白妙は幻之介を連れ出していた。</div>
<div>　蹄の音が遠ざかる頃、しっかりと重くなった口を開けたのは勘解由だった。</div>
<div>「藤乃、お前の思惑は何だ？」</div>
<div>「出来うる限り、幻之介殿にはその&ldquo;力&rdquo;を制御して貰いたいだけじゃ。意思もなく&ldquo;力&rdquo;に取り込まれるよりはいくらかでもマシであろう。ここに集まった者全てはその為の贄じゃ&hellip;&hellip;。私も含めてな&hellip;&hellip;」</div>
<div>「俺もか？」</div>
<div>「そなたには別の役目があろう&hellip;&hellip;」</div>
<div>　殊更静かに藤乃は言った。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/220/">14―2</a>]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>泡沫の夢　13―11</title>
		<link rel="alternate" type="text/html" href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/218/" />
		<id>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/218/</id>
		<issued>2010-03-15T00:03:51+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-15T00:03:51+09:00</modified> 
		<created>2010-03-15T00:03:51+09:00</created> 
		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/suiren-1.jpg"><img border="0" alt="suiren-1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221060/" /></a>&nbsp;
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「おおっ、目を開けられましたぞっ」</div>
<div>　勘解由が瞼を開けた途端に、心配そうな藤乃の顔が飛びこんで来たのだった。</div>
<div>「&hellip;&hellip;幻之介は？」</div>
<div>「それ、そこに居るであろうが」</div>
<div>　藤乃が示した先――。己の胸元に、やつれた幻之介の顔を見つけたのだった。</div>
<div>「長い夢でも、見ていたような&hellip;」</div>
<div>「五日も目を覚まさねば、当り前であろうっ」</div>
<div>　ぼそりと言った勘解由に喜平次が声をかけたのだった。</div>
<div>「そういや、何でお前等が&hellip;&hellip;」</div>
<div>「後でいくらでも&hellip;&hellip;。ともかく、これを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃が差し出してきた白湯を含んだ。どう辺りを見回してみても、あの庵の寝所なのだ。勘解由は納得のいかぬ表情のままだった。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　突然姿を現した幻之介達に、庵は一時騒然となった。暗闇の中で、炎を纏った幻之介が突然庭先に立っていたのだと言う。夜明けとは違った明るさに、まず藤乃が気付いた。言葉もなく紅い瞳のまま立ち尽くす幻之介の背後には黒馬が二頭寄り添っていた。その背の上にはぐったりとしたままの勘解由と松次郎の姿。思わず藤乃は大声を上げた。それに吃驚して飛び起きた男達が庵へと集って来たのだった。その時、幻之介の指がある方向を指していた。その指先から放たれた火の玉は暗闇の中へと吸い込まれていった。</div>
<div>「母様にも知らせるの？&hellip;&hellip;お兄様」</div>
<div>　いつの間にか起きだしていた白妙が幻之介のすぐ傍に居た。無表情のまま幻之介を見上げる白妙。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。そうだよね、仕方ない&hellip;&hellip;ね」</div>
<div>　ついっと視線をそらした白妙は、途端に大人びた口調で男達に次々と指示を飛ばしていた。勘解由の庵の中へと運び入れられた二人。白妙の的確な指示で手当てが施されていった。明け方近く、無数の馬の蹄の音が集落に響いた。物資と共に、白菊と喜平次も姿を見せたのだった。</div>
<div>　それに白妙の眉根が寄せられた。</div>
<div>「源三郎兄上の事は、宜しいのですか？」</div>
<div>　大人びた口調で、白妙は白菊に問いかけていた。いまなお、母とは呼ばぬ白妙に白菊も苦笑を見せるしかなかった。</div>
<div>「他の者が見ている。今は、そのような事を行っている場合ではないのでな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　横たわる勘解由の傍で、表情も変えぬまま座り続けている幻之介の傍へと白菊は近付いた。</div>
<div>　カタリ――、と、音を立てて何かが白菊の方へと転がり出たのだった。幻之介自身は身動き一つしていない。</div>
<div>　白菊の足元に転がり出たのは見覚えのある小さな器。かつて、幻之介がかの村で造り過ぎてしまった薬。白菊はそれを拾い上げると、松次郎の傍へと駆け寄った。一度は手入れされた松次郎の傷を開け、その薬を丁寧に塗り込んでいくのだった。</div>
<div>「松次郎殿&hellip;&hellip;。今度は、私が貴方を&hellip;&hellip;」</div>
<div>　そう呟きながら、意識のない松次郎の傷の手当てをする白菊の姿を、白妙は無言で見つめていた。</div>
<div>　小さな勘解由の庵は。今や人で溢れかえっていた。意識の戻らぬ主人の為に出入りする使用人たち。先の庵の住人達は、白んだ顔でそれを見ながらも幻之介の傍へついていた。何も口にせず、ただじっと表情もなく勘解由を見下ろすだけの姿。だが、その瞳の色が徐々にいつもの色に戻り始めた時、その身体がぐらりと傾いだ。途端に深い眠りへと落ちたようだった。げっそりとやつれたその顔。庵の男達は、勘解由の隣へと横たえてやったのだった。</div>
<div>　丁度時を同じくして、松次郎の幼体も安定を見せ始めた。ほっとする人々。後二日三日で何とか動かせるようになるだろうと話し合っていた。献身的に看病した白菊のおかげだと口々に乗せていた。</div>
<div>「何さっ、何も知らない癖にっ。お兄様が松次郎父様の魂を繋ぎ止めたって言うのにさっ」</div>
<div>　藤乃の膝の上で、白妙はふてくされる様にいったのだった。</div>
<div>「白妙、お前――」</div>
<div>「どうして？あんなにはっきりと見えていたじゃないっ。それなのに&hellip;&hellip;、あの人は&hellip;&hellip;。何もしてない癖に&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そう私は何もできない&hellip;&hellip;」</div>
<div>　悲しげに呟く声。</div>
<div>「ほんの少しだけ&hellip;&hellip;。幻之丞様の手助けをしただけ&hellip;&hellip;。そのような事は、重々承知の上。今の私には、なんの力も残っていないのだから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白菊が、藤乃の傍に膝をついていた。</div>
<div>「今も、昔も変わらぬ&hellip;&hellip;。思う事しか許されぬ方。その定めを知ってなお、傍に居続けたいと思った。が、今はそれも許されぬ身。&hellip;&hellip;ついに、&ldquo;力&rdquo;が目覚めてしまわれたのですね。私は&hellip;&hellip;、最後まで&hellip;&hellip;。貴方様の傍に在りたかったのに&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白菊は嗚咽を噛みしめていた。</div>
<div>「あの話――、知っておれば&hellip;&hellip;。松次郎殿と情を交わす事などなかったものを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　泣き崩れる白菊の姿を白妙は無言で見るだけだった。</div>
<div>「それでも、お前に生き延びて欲しかったのであろう。幻之介殿はな&hellip;&hellip;。廻り始めた糸車は最早誰にも止められぬ。だからこその運命――。だが、必ずしも伝承通りに事が運ぶとは限らぬ。違うか？白菊」</div>
<div>　藤乃は、言い聞かせる様に話していた。</div>
<div>「末を見届ける役目を、お前に与えたのやもしれぬな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　二人の横たわる褥に視線を向けながら、藤乃は独り言のように呟くのだった。</div>
<div>　流石と言うべきは勘解由の基礎体力であろう。一日遅れで目を開けた幻之介は未だ床の上から動けずにいる。表屋敷から来ていた使用人たちもその数を減らしていた。だが、松次郎の意識は未だ戻らぬままであった。幻之介は今なお話をするのも辛いようだった。囲炉裏端に横たえられた松次郎の傍には常に白菊がついていた。時々勘解由もそれを心配そうに見つめていた。</div>
<div>「後二日もすれば目を開けるよ、母様――」</div>
<div>　白菊の脇をすり抜けざまに、白妙が小声で囁いていた。</div>
<div>　白菊が驚いた表情で白妙を見つめたのだった。</div>
<div>「ばあばに聞いた――。私が&ldquo;鍵&rdquo;なんだって&hellip;&hellip;。お兄様の本当の力を目覚めさせる為の&hellip;&hellip;。だから、私を&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介のいる部屋へと続く襖の前で背を向けたまま白妙が言った。</div>
<div>「おいで、白妙&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白菊の言葉に、少女は振りむいた。</div>
<div>「一度きりで良い&hellip;&hellip;。そなたを抱かせておくれ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　懇願するような白菊の言葉に、少女は怯えを見せながらも近付いて行った。目の前で立ち尽くした少女の体を白菊は優しく抱きしめていた。</div>
<div>「私がお前にした事は詫びて済む話ではない&hellip;&hellip;。恨んでくれて構わぬ。これから先も――」</div>
<div>「私、お兄様と一緒にいくよ。母様の代わりに&hellip;&hellip;、ずっと&hellip;&hellip;」</div>
<div>　されるがままで、少女は言った。</div>
<div>「お前にこれを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　少女の体を放した白菊は、胸元から白い簪を一本出した。それを少女の小さな手に握らせたのだった。</div>
<div>「幻丞様より頂いた物。母上の形見の骨笛に勘解由殿が細工を施したそうじゃ。この片割れは、今も幻丞様と共にある。元は一つの物じゃった&hellip;&hellip;。あの方とは共に歩めぬこの母の代わりに、お前が持つが良い&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白菊は優しく微笑んでいた。</div>
<div>「母様――」</div>
<div>「私は明日、松次郎殿と共にあちらへ戻る。息災でな&hellip;&hellip;白妙」</div>
<div>　再び抱き締めてきた白菊の体を、少女の小さな手が抱き返していた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/219/">運命の時</a><br />]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>泡沫の夢　13―10</title>
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		<issued>2010-03-14T23:39:48+09:00</issued> 
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		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/96bc6382.jpeg"><img border="0" alt="96bc6382.jpeg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1254238992/" /></a><br />
&nbsp;
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「こいつら、人間じゃ&hellip;&hellip;ねえ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　怯える野武士を見据えながら、幻之介は黒駒から降り立っていた。その足元には、あの男達の変わり果てた姿があった。焔を纏った太刀を幻之介は大地へ突き刺していた。無数の炎の蛇が男達を取り巻いていく。</div>
<div>『倭子っ、構わぬ。このまま焼き尽くせっ』</div>
<div>　山犬の言葉のまま、幻之介は太刀を大地から引き抜き天へ翳した。黒駒に括りつけられたもう一本の太刀からも大きな炎の蛇が飛び出した。野武士たちを取り巻いていた蛇も鎌首を持ち上げるかの様に立ち上がり、一斉に襲いかかった。無数の火柱が立ち上がり、野武士たちを包んだ。立ち上がる絶叫を表情を変えることなく幻之介は見つめていた。業火はたちまち野武士たちを灰と化していた。夜風に飛ばされていくモノ。それを眺める幻之介等を取り巻いていた炎も消えていった。</div>
<div>「&hellip;&hellip;うっ」</div>
<div>　微かな声。</div>
<div>　幻之介はその姿のまま、声の方へと近付いた。</div>
<div>　血溜の中で優しく微笑む男の姿。</div>
<div>「幻&hellip;&hellip;無事&hellip;か&hellip;&hellip;」</div>
<div>「しゃべっては、駄目&hellip;&hellip;」</div>
<div>　もう眼も見えぬのか、男の手が彷徨うように幻之介の方へと差し伸ばされてた。</div>
<div>「俺の&hellip;天女&hellip;&hellip;様。皆に&hellip;&hellip;役目&hellip;果た&hellip;し&hellip;&hellip;と&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は与太郎の体を抱き起していた。傷口から流れ落ちる血潮は徐々にその勢いを失っていく。</div>
<div>「幻は&hellip;あった&hellip;けえ&hellip;&hellip;な」</div>
<div>「与太郎&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は、血の気を失っていく与太郎の顔を見入った。</div>
<div>「俺を&hellip;あいつ&hellip;等と一緒に&hellip;&hellip;送って&hellip;&hellip;れ、お前の炎&hellip;で&hellip;&hellip;」</div>
<div>「何&hellip;を&hellip;&hellip;」</div>
<div>「俺も、奴らも&hellip;お前の楯に&hellip;&hellip;のを望ん&hellip;&hellip;で来たんだ&hellip;&hellip;。あの世なら&hellip;&hellip;、人も&hellip;&hellip;物も一緒に暮らせる&hellip;&hellip;だ&hellip;う。だから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　力なく落ちた与太郎の手。</div>
<div>「&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の流した涙が、与太郎の体の上に落ちた。そこから炎が立ち上がる。</div>
<div>　幻之介の腕の中で、与太郎の体は炎に包まれた。その表情は満足げな頬笑みを浮かべているようにも見えた。与太郎の体から飛んだ四つの火の玉があの男達の体の上に落ちた。それは徐々に激しさを増し、五本の火柱となった。まるで天に伸びあがる炎の龍の様に&hellip;&hellip;。その火柱は絡み合い、一本の巨大なものと変わった後、霧散した。</div>
<div>　幻之介の腕の中に残ったのは僅かな灰だけであった。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「ばあば、ばあば&hellip;」</div>
<div>　白妙が台所に立つ藤乃の元へと駆けこんで来た。</div>
<div>「これっ、白妙。女子がそんなはしたない事をするでないっ」</div>
<div>　窘める様に言う藤乃の腰元に白妙が縋りついた。「だって&hellip;&hellip;。今、与太郎おじさんが来たんだよっ」</div>
<div>　白妙の言葉に藤乃は振り返った。</div>
<div>「&hellip;&hellip;もうすぐ、お兄様も父様も帰るからって&hellip;&hellip;」</div>
<div>　嬉しそうに、白妙は言った。</div>
<div>「白妙、それで、その&hellip;&hellip;。与太郎殿は？」</div>
<div>「あのね、見た事のない人達と楽しそうに、又行っちゃった。これから五人で長旅に出るから、もう会えないかも&hellip;って」</div>
<div>　少し淋しげな表情を浮かべた少女だったが、すぐにそれは別の顔付きに変わっていった。</div>
<div>「又きっと、あっちの父様のご用事なんだわ。松次郎父様なんか嫌いっ。白妙の大好きな人、皆にご用事言いつけるんだから&hellip;&hellip;。ちっとも、一緒に居られない&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ふてくされる少女の視線に合わせるかのように、藤乃はしゃがみこんでいた。</div>
<div>「五人で&hellip;&hellip;、長旅に出る&hellip;と言ったのか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　少女は藤乃に抱きつきながら頷いていた。</div>
<div>「ばあばはどこにも行かないよね？お兄様や、父様が戻ってきても、ずっとここに居てくれるよね？」</div>
<div>　藤乃は少女を抱きしめながらも、それには答えずにいた。</div>
<div>「そうか&hellip;&hellip;、長旅、と&hellip;」</div>
<div>　藤乃の目からは、一滴の涙がこぼれていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>『倭子よ、まだ気を抜くな。残党が居るやもしれん&hellip;&hellip;』</div>
<div>　しゃがみこんだままの幻之介に山犬が声をかけた。</div>
<div>　ゆっくりとした歩みで近付く黒馬二頭が、甘えたように鼻を鳴らしていた。何かを振り切るかの様に幻之介は立ち上がった。</div>
<div>「荒駒、あの方は？」</div>
<div>　荒駒はくるりと背を向けた。</div>
<div>　荒駒と幻之介の間に黒駒が割り込んでいた。</div>
<div>『近いぞ、倭子よ』</div>
<div>　山犬の言葉に、幻之介は黒馬へと飛び乗った。それを確かめたかの様に、荒駒が走り出した。続く黒駒と数頭の山犬。月明かりも差し込まぬ深い森の中をその集団は疾走していた。</div>
<div>　すると&hellip;&hellip;。突然目の前に現れた大岩。すっと荒駒の姿が消えた。その後を黒駒が続く。着いてくるのは一頭の山犬だけ。</div>
<div>　急に進みの遅くなった集団。その大岩をぐるりと回り込むように進むと、ぽっかりと漆黒の闇が口を開けていた。立ち止まった黒馬から幻之介は飛び降りていた。その背中を荒駒が鼻先で押すのだった。</div>
<div>「この中&hellip;&hellip;」</div>
<div>　灯りも届かぬ穴の中。荒駒は黒駒に括りつけられた太刀を幻之介へと渡したのだった。幻之介がそれを手にした途端、それは淡い光を放った。微かな明りを頼りに幻之介はゆっくりと進む。その後ろを馬と犬が続いていた。</div>
<div>　微かに耳に届く誰かの息遣い。幻之介が歩みを進めるほどに、それは確かなものへと変わった。</div>
<div>『血の匂いがする&hellip;&hellip;』</div>
<div>　山犬の言葉が洞窟に響いた。</div>
<div>「俺も、いよいよ駄目らしいな&hellip;&hellip;。一番会いたい奴の顔が見えるなんざあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　弱々しい男の声。</div>
<div>「皆が&hellip;&hellip;、ここまで私を連れてきてくれたのです。勘解由様――」</div>
<div>　力の放出の余韻で、未だ幻之介の姿は戻っていなかった。</div>
<div>「鬼となって、俺を迎えにきたか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　淡い光の中に浮かび上がる男の表情は虚ろなまま。夢と現実の区別もつかぬようだった。</div>
<div>「鬼とならねば、ここまでは辿り着けなかった&hellip;&hellip;。与太郎が死にました。他の者達も&hellip;&hellip;。私の&hellip;&hellip;為に&hellip;&hellip;」</div>
<div>　鬼と変わり果てた姿のまま、幻之介は涙を溢していた。</div>
<div>「泣くな&hellip;&hellip;、幻之介&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ゆっくりと差し伸ばされた勘解由の手を、幻之介が握り返していた。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。本物&hellip;&hellip;なのか？」</div>
<div>『まだ、混乱しておるようじゃな&hellip;』</div>
<div>「山犬が&hellip;&hellip;しゃべったっ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　見開かれた男の目。少しずつ、正気の表情へと変わっていく。</div>
<div>「なぜ、お前がここに&hellip;&hellip;」</div>
<div>『うつけたものよ&hellip;&hellip;。倭子が、さっき話したであろうがっ』</div>
<div>　途端に洞窟の入り口の方から、山犬の遠吠えが聞こえてきた。</div>
<div>『邪魔が入るな&hellip;&hellip;。動けるか？』</div>
<div>　勘解由に問いかけられた言葉。だが、男は無言のまま頭を振った。</div>
<div>「これを置いてはいけぬ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　勘解由の足元に転がる若者。衰弱が酷く、とても動かせる状態ではなかった。</div>
<div>　再び催促するように遠吠えが聞こえた。</div>
<div>『飛ぶしかあるまいな&hellip;&hellip;。が、この人数で、出来るか否か&hellip;&hellip;』</div>
<div>　何か、蠢く気配が近付いてくる。</div>
<div>『ままよっ。&hellip;我が駆けだしたなら、その方向へ太刀を翳せ。立ち上がる炎の中に、お前らが辿り着きたい場所を強く念じるが良い。&hellip;&hellip;旨くいけば、そこへ飛べよう』</div>
<div>「なぜ、そのような事を？」</div>
<div>　幻之介は不思議そうに尋ねていた。</div>
<div>『我らにも伝えはある。業火を纏う化生の存在のな&hellip;&hellip;。倭子――、お前がそうならば可能であろう。本物ならば、再び会えようぞ。その時に、我らが一族に伝わる話を聞かせよう&hellip;&hellip;』</div>
<div>　それだけ言うと、山犬は入口の方へと駆け出していた。</div>
<div>　顔を見合わせた二人。</div>
<div>「旨く行かなければ、仲良く灼熱の地獄の中で死ぬだけ&hellip;&hellip;か」</div>
<div>　ぼそりと言いながら、勘解由は幻之介に向かって手を差し出していた。太刀を抱えたまま、幻之介は動こうとしなかった。</div>
<div>「お前等は松と一緒に少し後ろへ下がってろ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　黒馬二頭は松次郎の体を加え上げると、勘解由の真後ろへと移動していた。いぜん勘解由は座ったまま、じっと幻之介に手を差し伸べていた。</div>
<div>「来い、幻之介」</div>
<div>　勘解由の言葉に幻之介はゆっくりと進んだ。</div>
<div>　丁度、勘解由の正面に着た時、ざわざわと何かが近付いてくる気配がした。</div>
<div>　勘解由は幻之介を引っ張り、己の膝の上に座らせた。幻之介の手の中に在った太刀の柄をそのまま引いた。発行が僅かばかり強まった。それを見た幻之介の手が腰元の太刀へと伸びた。柄を握った幻之介の手ごと勘解由は太刀を引き抜いていた。</div>
<div>「お前と一緒なら、何処へでも構わねえぜ、幻之介」</div>
<div>　二つの太刀の刃先が触れ合った。途端に前方目掛けて炎の帯が躍り出た。その先で、獣とも人間とも思える絶叫が聞こえていた。目の前には炎の壁が揺らめいていた。太刀の光は失われていた。入口から吹きこむ風が熱波を孕む。二人は太刀から手を離していた。それでなお、炎の壁は消えない。</div>
<div>　勘解由は幻之介の腰を背後から抱いていた。</div>
<div>「あのときは山霧だったが、今度は&ldquo;火&rdquo;か&hellip;&hellip;。おめえの笛が聞きてえ」</div>
<div>　幻之介は勘解由の言葉のままに焔華を取り出し、息を吹きいれていた。徐々に強まっていく灼熱感にも関わらず、幻之介はそのまま音を出し続けた。焔も少しずつ強さを増していく。赤から黄金色へと変化していく炎。そして――、全ては真っ白な光の中に飲み込まれていった。</div>
<div>　炎が消えさった後には、焼けただれた岩肌しか残されていなかった。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<br />
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/218/">13―11</a>]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>泡沫の夢　13―9</title>
		<link rel="alternate" type="text/html" href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/216/" />
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		<issued>2010-03-13T20:41:52+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-13T20:41:52+09:00</modified> 
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			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/higan010000_t.jpg"><img border="0" alt="higan010000_t.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257218626/" /></a>
<div>　幻之介がゆっくりと瞼を開けると、心配そうに覗きこむ男の顔が見えた。そっとその男に手を伸ばすと、手を震わせながらその手を握り返していた。その手には僅かな火傷の痕があった。</div>
<div>「大丈夫か、幻之介」</div>
<div>　今にも泣き出してしまいそうな男の顔。</div>
<div>「無茶な事を&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の手を握り返しながらも、幻之介の顔は歪んでいた。</div>
<div>「人間は突然訳の分らん事を仕出かす&hellip;&hellip;」</div>
<div>　眠そうにその背後から、男があくびを噛み殺しながら言って来た。</div>
<div>「うるせえっ。お前らだって、見てくれ一緒だろうがっ。って&hellip;、随分眠そうだな&hellip;&hellip;、大丈夫か？」</div>
<div>　与太郎は男の顔を見上げていた。</div>
<div>「貴様の高鼾のせいで、眠れんかったわっ」</div>
<div>　別の男が与太郎を怒鳴りつけていた。</div>
<div>「ははははっ、そりゃあ、済まなかったなあ」</div>
<div>　口先だけの謝罪と明らかに解る言葉。</div>
<div>「見かけは一緒とて、別の生き物。散々お前ら人間からは『化け物』呼ばわりされておる&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与太郎は、それ以上男達に掛ける言葉が見つからなかった。</div>
<div>　幻之介の傍に居た筈の山犬もその姿を消していた。まあいいや――、と与太郎はそのままごろりと横になっていた。</div>
<div>　夕暮れ――。徐々に夜の帳が訪れようとしていた頃。再び山犬は姿を現した。十数頭に及ぶ群れ。その姿を見て幻之介は黒馬に跨った。男達もそれに倣う。与太郎もその辺の松明を片手に馬にまたがろうとした時だった。</div>
<div>「与太郎、それは置いていく&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は優しく微笑んでいた。</div>
<div>「人間、この闇に乗じての行動だ。そんな的になる物は捨てよ」</div>
<div>　男の言葉に幻之介も頷いていた。</div>
<div>　与太郎は渋々松明を放り投げていた。</div>
<div>「与太郎は私のすぐ後ろへ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の言葉で隊列が決まった。</div>
<div>　走り出した山犬の群れを先頭に、幻之介の駆る黒駒が続く。すぐ後ろを走る与太郎の耳元で、なぜか幻之介の声が聞こえた。</div>
<div>「もっと体勢を低く&hellip;&hellip;。馬に伏せる様に&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与太郎は、その言葉に従っていた。その姿勢では前は全く見えなくなる。それでも、なぜか与太郎に不安は起こらなかった。</div>
<div>　闇に包まれた森の中に、馬の蹄の音と獣の息遣いが響いていた。男達は無言のままに幻之介の馬を追いかけていく。すぐ真後ろを走り抜ける与太郎の頭上をかすめる様に木の葉がかすめていく。</div>
<div>（そういう事であったか&hellip;&hellip;）</div>
<div>　山犬の先頭が黒駒の通れそうな進路を選ぶ。その後を他の馬達が進んでいくのだ。</div>
<div>『倭子――、この先に開けた場所が』</div>
<div>　山犬が幻之介に向かって言いかけた時、先頭を走る山犬の叫びが聞こえた。暗闇の中から、風を切るような音が聞こえた。</div>
<div>『ここを抜けるしかないのだが&hellip;&hellip;』</div>
<div>　唸る山犬。止まろうにも勢いの付いた馬の足では無理な事。森を抜けようとした幻之介の目の前に、急に方向を変えた山犬が飛び出してきたのだった。</div>
<div>「ギャンっ」</div>
<div>　幻之介の目の前で一頭の山犬がもんどり打った。何かを感じた男達が速度の落ちた黒駒の脇をすり抜け幻之介の前へと躍り出た。</div>
<div>　上空からは月明かりが降り注ぎ、幻之介等の体を浮かび上がらせていた。</div>
<div>　馬上で其々の武器を構える男達。前方の暗闇の中から、再び風を切り裂く音が聞こえた。同時に男達は幻之介との距離を保ちながら武器を振り回していた。何かのぶつかりあう音が聞こえる。男達の足元には無数の矢が落ちていた。</div>
<div>『野武士崩れか&hellip;』</div>
<div>　馬達の周りを山犬が取り囲んでいた。中には矢傷を受け、血を流しているモノもいた。</div>
<div>　暗闇から卑下た無数の笑い声が聞こえてきた。</div>
<div>「どんだけの輩が来たかと思えば&hellip;&hellip;。別嬪さんと、後は雑魚&hellip;。多少夜目は利く様だが、俺たちの敵じゃねえなあ」</div>
<div>　闇の中から姿を現したのは、武装した集団。</div>
<div>「次期様、ここは我らが&hellip;&hellip;。先を」</div>
<div>　男の一人が幻之介に言い放った。</div>
<div>「そんな事が、出来るのかねえ&hellip;&hellip;。若様よう」</div>
<div>　武装集団の一人が舌舐めずりをしながら言った。じりじりと距離を詰めていく野武士たち。山犬もその数に圧倒され後退し始めた。</div>
<div>「たっぷりと、可愛がってやろうかねえ&hellip;&hellip;。雑魚は殺っちまいなっ」</div>
<div>　一人の無法者の言葉を合図に、一斉に武装集団が襲いかかる。　</div>
<div>　多少腕が立つところで数に圧倒されるのには変わりがない男達の間を抜けて幻之介の目の前にも野武士が襲いかかる。</div>
<div>「下がれっ、黒」</div>
<div>　幻之介と野武士の間に与太郎が割り込んだ。</div>
<div>　あちらこちらで叫び声が上がる。その多くは野武士たちから発せられるもの。男達が次々に遅い来る野武士を的確に屠っていくのだった。それでも数に勝る相手。ある者は傷付き、ある者は馬を失いながらも幻之介に向かい来る輩を叩き伏せるのだった。</div>
<div>『倭子っ、太刀を抜けっ』</div>
<div>　目の前で繰り広げられる光景に、ただ幻之介は竦んでいた。次々に、山犬達も倒れていく。</div>
<div>『早くっ、倭子っ』</div>
<div>　白んでいく幻之介の頭の中。山犬の叫びがどこか遠くで聞えている様な錯覚に囚われた。その時――。</div>
<div>　ドスン、と背後に衝撃を感じたのだった。</div>
<div>「幻&hellip;&hellip;、気を&hellip;抜くんじゃ&hellip;&hellip;ねえ。旦那が、待っ&hellip;てる&hellip;&hellip;だ&hellip;ぜ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ゆっくりと振り向けは与太郎が幻之介を庇うようにして血を流していた。</div>
<div>「与&hellip;太郎&hellip;&hellip;」</div>
<div>　襲った相手が力任せに与太郎の体を持ち上げた。鈍い音と共に、与太郎を貫いていた物がその背中へ突き出た。与太郎の振り回した長柄は相手の物を立ち切っただけで止まった。ドサリ、と地面に叩きつけられた体。</div>
<div>　幻之介の体からは大きな炎が噴きあがった。真紅に染まった瞳。口元には一対の牙。無表情のまま、幻之介の手が太刀に伸びた。目の前の男に向けて抜き放たれた太刀先からは炎の刃が飛んだ。与太郎を刺し貫いた者の首が舞う。</div>
<div>『薙ぎ払えっ、倭子っ』</div>
<div>　山犬の言葉のままに、振り向きざまに太刀をふるった幻之介。炎の刃が四散した。悲鳴を上げる間もなく野武士たちの首が舞う。直撃を免れた者も火達磨になりながら蠢き、やがては止まった。</div>
<div>「このっ、化け物がっ」</div>
<div>　残った野武士たちが、恐怖をはり付かせながら叫んでいた。幻之介を取り巻く炎は黒駒までをも飲み込んでいた。</div>
<div>「ひっ、鬼っ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　腰を抜かしながら木陰に隠れようとした野武士を別のモノが踏み砕いていた。焔を纏ったもう一頭の黒馬が姿を現したのだった。残った野武士以外に動くのは、鬼と化した幻之介と焔を纏った二頭の馬。そして僅か数匹となった山犬だけであった。</div>
<div>&nbsp;</div>
<div>&nbsp;</div>
<div>　勘解由がその穴蔵に隠れてどの位の時間が経ったのだろうか。たぶん戦場は移動したかと思われた。時折遠くで獣の声がするのを感じるだけだった。すでに食糧も水も無くなってだいぶ経つ。勘解由一人ならばどうにかする事も可能であっただろう。が、その腕の中には弱々しい息遣いの若者が横たわっていたのだった。</div>
<div>　一揆制圧に向かう途中、勘解由の隊は野武士の集団に急襲されたのだった。一揆衆の別働隊なのか、それとも&hellip;&hellip;。浮足立った兵達を纏めるのに、それ以上考える余裕もなかった。兵達を本体の方に逃がす事だけで精一杯だったのだ。隊を引く時、勘解由は常に殿を務めていた。先に逃がそうと思っていた松次郎もその間に居たのだった。</div>
<div>　怒鳴りつけても、松次郎は言う事を聞かず、勘解由の傍に居たのだった。</div>
<div>「常に傍に在れと言ったは、義父上ではありませんかっ」</div>
<div>　乱戦ともなれば、別の話であった。その結果が――。</div>
<div>　馬を射られ、落馬した松次郎を野武士が襲ったのだった。荒駒の見事な体捌きのまま野武士を払いのけると、勘解由な松次郎を抱えて戦線を離脱していた。そこから先――、何処をどう走ったのかすら覚えていない。応急の血止めも、松次郎の衰弱を僅かばかり遅らせるだけにしかならない。若者の片腕はあらぬ方向を向いていた。荒駒が足を止めた先に洞穴が見えた。かなりの深さを持つ様だった。取りあえず、その場に身を隠すように潜んだ。敵が近くに居るかもしれぬ中では炎を熾す事も出来なかった。</div>
<div>　流れ出る血潮の為か、松次郎の体が寒そうに震えだすのだった。幻之介手製の内着の袖を引き裂いて、松次郎の傷口をきつく塞いでいく。脇差しを添え木代わりにして、折れた腕も固定した。時々苦痛に顔を歪めるが、松次郎の瞼は開かなかった。浮き上がる汗と震える体。勘解由は若者をただ抱き締めるだけだった。荒駒の蹄の音が時々洞窟内に響いてくる。が、その間隔も徐々に長くなり、聞えなくなって暫く経つのだった。</div>
<div>（いよいよ、荒駒にも見切り付けられちまったか&hellip;&hellip;。悪いな、幻之介&hellip;&hellip;。お前との約束&hellip;&hellip;、果たせそうにねえや&hellip;&hellip;）</div>
<div>　震えも徐々に弱っていく松次郎の肩口に、勘解由は顔を埋めていた。</div>
<div>&nbsp;</div>
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<br />
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/217/">13―10</a>]]> 
		</content>
	</entry>
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		<title>泡沫の夢　13―8</title>
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		<issued>2010-03-13T20:33:37+09:00</issued> 
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		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/tanabata-3.jpg"><img border="0" alt="tanabata-3.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221173/" /></a>
<div>&nbsp;</div>
<div>「うへっ、随分と立派な馬ですなあ」</div>
<div>　与太郎に貸し与えられた馬は既に支度を済ませてあった。</div>
<div>「お主に乗りこなせれば良いがな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ぼそりと言う男を、与太郎は睨みつけていたのだった。</div>
<div>「はんっ。黒達に比べりゃ、皆可愛いもんさっ」</div>
<div>　と、ひょいと飛び乗ったのだった。前足を高々と持ち上げ嘶く馬の手綱を引く与太郎。後は大人しく足踏みをするだけの馬。</div>
<div>「へんっ。どんなもんだいっ」</div>
<div>　得意になって言う与太郎を男達は鼻先で笑っただけだった。</div>
<div>「幻之丞様、我らは後ろから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男御一人がそう言った。幻之介はその言葉を聞いて小さく頷くと、黒駒に跨った。途端に黒駒は走り出す。その後を、与太郎を乗せた斑馬がついて行った。後に続くのは栗毛の四頭。他の馬に合わせた速度で黒駒は走りぬけた。その胴体には勘解由の太刀が括り付けられてあった。陽の光を受け、その太刀はきらきらと光っていた。</div>
<div>　陽が落ちかけても幻之介を乗せた黒馬の走りは止まらなかった。</div>
<div>「遅れているぞっ、人間っ」</div>
<div>　与太郎の背後から激が飛ぶ。</div>
<div>「お前らも、人間だろうがっ」</div>
<div>「ふんっ。貴様らと一緒にしないで貰おうか。我らは混血とはいえ幻之丞様の一族に繋がる者ぞっ」</div>
<div>「ああ、そうかいっ。生憎とな、人間様は夜目が利かねえんだよっ」</div>
<div>　薄闇が少しずつ濃さを増していく中、どうしても与太郎の駆る馬の速度が落ち始めたのだった。</div>
<div>「先の見えねえ処で、全力疾走なんぞ出来るかっ」</div>
<div>「なればこそ&hellip;&hellip;。前をよく見ろっ」</div>
<div>　前を指さす男。その先に仄かに浮かび上がる光。</div>
<div>「あれを目指して駆けよっ」</div>
<div>　幻之介の駆る黒駒の胴体に括りつけられた太刀が仄かな光を放っていたのだった。言われるまま、与太郎は馬の速度を上げた。幻之介に近付くにつれ、その腰元の太刀も僅かな光を発していたのが分かった。</div>
<div>「与太郎、もう少しだけ&hellip;&hellip;。ここを抜ければ、目指す場所だから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与太郎は幻之介の笑みが自分に向けられている様な気がした。</div>
<div>「ああ&hellip;&hellip;。おめえについて行くぜっ、幻之介」</div>
<div>　与太郎は視界の利かぬ恐怖を押し殺しながら答えていた。</div>
<div>　暫く行くと、急に開けた場所に出た。月明かりの中に浮かぶ建物の影。そこに辿り着くなり、黒馬の進みも止まった。馬から飛び降りた幻之介に倣うように、男達も馬から降りていた。民家かと思ったそれは、すでに朽ち果てた残骸を晒すだけであった。幻之介はその光景に息を飲んでいた。</div>
<div>「この村も、だいぶ前に戦火に巻き込まれたそうです。今ここに残るのは、あれだけ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の一人がそれを指さしていた。</div>
<div>　残されていたのはあの社だけ。その外壁には炎の這った様な煤の跡がいくつも残されていた。扉は閉ざされ、そこには無数の傷跡と、返り血がこびり付いていた。足元の石段にも、それと解る様などす黒い染みが残されていたのだった。</div>
<div>「こじ開けようとしたんでしょうな、この痕は&hellip;&hellip;」</div>
<div>　別の男が扉に近付いて言った。</div>
<div>「びくりともしねえな&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ここで夜明かししますか？幻之丞様。&hellip;&hellip;焚き付けには困らねえし」</div>
<div>　扉の前の男を押しのけて、幻之介はその場に立っていた。</div>
<div>　すっと幻之介が手を翳しただけで、扉はギシリと音を立てて勝手に開いた。中からは冷たい空気が流れ出てきた。</div>
<div>　幻之介の掌の上に現れた炎が周囲へと飛び散った。社に残っていた蝋燭に火が灯った。そこに浮かび上がった光景に、幻之介以外の男達は息を飲んだ。</div>
<div>　一人の女を取り囲むように、十数名の子供が寄り添っていたのだった。すでにこれらは誰一人として息をしていない。なのに、その身体は炎を反射してキラキラと光って見えた。今動き出してもおかしくないほどに、彼女たちの時は止まっていたのだった。子供たち一人一人の顔を覗きこみながら、幻之介は女に近付いていた。その中には、幻之介の見知った顔は一つも無かった。</div>
<div>「多喜&hellip;&hellip;。お前の子供たちはどうしたの？」</div>
<div>　ぼそりと呟いた幻之介の頬には、雫が一つ流れていた。死蝋化した女の体をそっと抱き寄せた幻之介。その肩が震えているのを男達はただじっと見つめるだけだった。</div>
<div>「お前の子等も待っているであろう&hellip;&hellip;。多喜&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の体から、炎が舞い上がった。幻之介もろとも、女と子供たちを紅蓮の炎が包みこんでいた。慌てて近寄ろうとした与太郎を、男の一人が止めた。</div>
<div>「死にたくは無いだろう&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ぼそりと呟いた男を与太郎はじっと見返した。</div>
<div>「そう、これが次期様の&hellip;&hellip;、否、総領様のお力――」</div>
<div>　男達は、恭しくその頭を垂れたのだった。</div>
<div>　遺体だけを焼き尽くした炎の中から幻之介が姿を現した。近付こうとした与太郎を、幻之介自身が止めたのだった。紅く変化した瞳が与太郎を見ていた。</div>
<div>「それ以上近付いては駄目&hellip;&hellip;。私は&hellip;&hellip;、お前までを焼いてしまう&hellip;&hellip;」</div>
<div>　魔物と変わった幻之介の瞳から雫が零れていた。口元に光るのは一対の牙。逆立った髪の毛からは、未だにパチパチと火の粉が爆ぜていた。</div>
<div>　与太郎はそれでもゆっくり歩み寄っていた。</div>
<div>「俺はそれでも構わねえ&hellip;&hellip;。あん時、そう言っただろ」</div>
<div>　与太郎は幻之介へと抱きついた。途端に襲った灼熱の痛みに声が漏れた。だが、それもすぐに消えた。がっくりと崩れ落ちた幻之介の体を与太郎は力の限りで支えていた。</div>
<div>「余り無茶な事を仕出かすな、人間。幻丞様が意識を自ら閉ざさなければ、お前まで無駄に命を散らす事になったのだぞ」</div>
<div>　与太郎の腕から幻之介をもぎ取る様に、男がその身体を抱き上げていた。そのまま、祭壇の前に幻之介の体を横たえるのだった。</div>
<div>「仕方も無い。ここで夜を明かすしかあるまいな&hellip;&hellip;」</div>
<div>「まあ、雨露が凌げる分はましだろうが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　一定の距離を保ちながら、男達は幻之介の四隅に其々腰をおろしていた。</div>
<div>「人間、お前は幻之丞様の傍におれ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の命じるままに、与太郎は幻之介の傍に腰をおろしていた。</div>
<div>『思ったよりも早い到着だったな&hellip;&hellip;』</div>
<div>　男達は闖入者に視線を向けた。</div>
<div>「あん時の山犬&hellip;&hellip;。じゃあ、おめえが幻之介をここに呼びつけたのかっ？」</div>
<div>　与太郎の言葉に山犬は頷く様な仕草を見せた。そのまま幻之介と与太郎の間に身を横たえたのだった。</div>
<div>『まあ良い。合流までにはまだ時がある&hellip;&hellip;。この中には我が声を聞ける者もおらぬようだし&hellip;&hellip;』</div>
<div>　山犬は与太郎の前で目を閉じた。</div>
<div>「なんだい、ここで寝ろってことなのか？」</div>
<div>　与太郎の言葉に、山犬は片目だけ開けて頷く様な動作をした。</div>
<div>『存外、この男。感が良いではないか&hellip;&hellip;』</div>
<div>　与太郎は山犬に倣ってごろりと横になった。</div>
<div>「まあ、幻之介が起きたら解る事だしな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言いながら、与太郎は目を閉じた。間もなくしてその吐息は寝息へと変化したのだった。その様子に男達は呆気にとられるだけだった。</div>
<br />
<br />
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/216/">13―9</a><br />]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>泡沫の夢　13―7</title>
		<link rel="alternate" type="text/html" href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/214/" />
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		<issued>2010-03-11T21:47:21+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-11T21:47:21+09:00</modified> 
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		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
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			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/tekagami-sakura-1.jpg"><img border="0" alt="tekagami-sakura-1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221254/" /></a>
<div>　与太郎の姿を見て、幻之介は唖然としていた。</div>
<div>「後で、馬も手に入れるさ。そうしたら、お前の足手まといにはならねえ」</div>
<div>　庵に現れた与太郎は足軽具足に身を包み、その手には長柄まで持っていたのだった。</div>
<div>「一旦あっちの屋敷に寄るんだろ？そこで何とか調達してみせるさ」</div>
<div>　言い切った与太郎に、幻之介は困惑気な表情を見せた。</div>
<div>「連れて行きな、幻之介。黒にゃあ悪いが、あっちの屋敷に着くまでの事だ。与太郎が一番馬扱いにゃ長けてるしな。何よりも、お前の楯くらいは勤められんぞ」</div>
<div>　大助の言葉に、さしもの与太郎も嫌そうな表情を見せただけだった。</div>
<div>「本当なら、俺ら全員がおめえについて行きてえぐれえなんだよ。けどそれじゃあ白妙の世話するのが居なくなっちまうしな&hellip;&hellip;。腕と体力から言ったら大の方が良いんだろうが、この体格じゃあ黒駒が可哀想だしな」</div>
<div>　佐吉の言葉に、今度は大助がプイっと横を向いてしまったのだった。</div>
<div>「白妙の事は、俺らが責任を持て面倒みる。だから、せめてお前だけでも無事に戻ってこい」</div>
<div>　与吉は、幻之介の手を握りしめながら言ったのだった。</div>
<div>「勘解由様と共に戻ってまいりましょう&hellip;&hellip;、それまでの間&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男達は、かわるがわる幻之介の身体を抱きしめた。幻之介自身も男達の体を抱き返していた。</div>
<div>　荷を積み終えた黒駒が、さも嫌そうな表情で男を眺めていた。</div>
<div>「黒っ、悪いけど、少しの間頼むなっ」</div>
<div>　心底嫌そうな溜息を吐いて見せた黒駒に、幻之介は苦笑したのだった。</div>
<div>　幻之介の背後に男が座った途端、黒駒は走り出した。幻之介の背に無様な叫び声を上げてしがみ付く姿。見送る男達の失笑を買っていた。それを少女が祈るような姿で見送っていた。黒馬の姿が視界から消えてなお、少女はその場に立ち尽くしていた。が、暫くすると、男達に守られる様に、庵の中に消えて行ったのだった。</div>
<div>　表屋敷に着くなり、黒馬は幻之介の後ろの男を振り落していた。</div>
<div>「もうっ、黒っ」</div>
<div>　幻之介の叫び声が上がるのと、その男が屋敷から飛び出してきたのは殆ど同時だった。</div>
<div>「おおっ、息災であったか、幻之介殿。最近はちっとも姿を見せてくれんでなあ&hellip;&hellip;。おお？その&hellip;&hellip;、連れの方か？」</div>
<div>　庭先に転がり、しきりに尻を擦っている男を指さし喜平次が聞いてきた。</div>
<div>　幻之介は手早く馬を降り、与太郎に手を貸しながら立たせていた。</div>
<div>「このような処ではな&hellip;&hellip;。さあ、さあ、中へお入り。それ、連れの方も&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は喜平次に案内されるままに、広間へと向かった。その後ろをきょろきょろしながら与太郎がついてきた。</div>
<div>　幻之介を案内すると直ぐに、喜平次はいずこかへ消えた。</div>
<div>「いやあ、何だね。噂にゃ聞いていたが&hellip;。すげえ、屋敷じゃねえのさ、幻之介――」</div>
<div>　幻之介の隣に腰をおろしながら、与太郎が言って来た。</div>
<div>「そうですね。でも&hellip;&hellip;、私は好きになれない&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ちげえねえや。なんか、尻の収まり具合が悪いもんな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　与太郎は長柄を放り投げて、ごろりと横になっていた。</div>
<div>「悪かったなあ、居心地の悪い場所で&hellip;&hellip;」</div>
<div>　響く老女の声に、慌てて与太郎は飛び起きたのだった。</div>
<div>「久しいのぉ、幻之介殿。もっとこちらに顔を出してくれるものと思ったが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言いながら、藤乃は幻之介の目の前に座った。その後ろから幼児を抱いた白菊が顔を見せたのだった。</div>
<div>「お久しゅうございます、幻之丞様」</div>
<div>　深々と頭を下げた白菊からは、血の気が失せていた。</div>
<div>「いやいや、お待たせして&hellip;&hellip;。人手が足りませんでなあ」</div>
<div>　湯のみを手に、喜平次が姿を現した。そして広間の襖はすぐに閉じられた。人払いをしてある故に――、とにこやかに笑う爺。</div>
<div>「藤乃様、喜平次様&hellip;&hellip;。時がありませぬゆえ、これにて&hellip;&hellip;」</div>
<div>　立ち上がりかけた幻之介を藤乃が呼び止めていた。</div>
<div>「待たれよ、幻之介殿。その出で立ち――。よもや戦場に行かれようと言うのではあるまいな」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。そのつもりです」</div>
<div>　仰々しくため息を吐いた藤乃であったが、すぐに喜平次を睨みつけたのだった。</div>
<div>「だからあれ程知らせるなと申したのに&hellip;&hellip;。この爺ときたら&hellip;&hellip;」</div>
<div>「こちらからの知らせが無くとも、同じ事です」</div>
<div>　幻之介はそこまで言ってから、はたと顔色を変えた。</div>
<div>「構わぬ&hellip;、幻之介殿。どうせこの爺も『知る者』だからな。そうか&hellip;&hellip;。他からも知らせが届いていたか&hellip;&hellip;。なれば、いたし方あるまい」</div>
<div>　藤乃は、数回手を打った。</div>
<div>　間もなくして、隠し部屋の通路が静かに開けられ、数名の男が姿を見せたのだった。</div>
<div>「準備いたせ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　静かに藤乃は男達に声をかけた。音も静かに再び閉じられた通路。</div>
<div>「少しだけ時間をおくれ、幻之介殿。お主にあの者どもを付けようから&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「この屋敷の中にも『知る者』はおる。その一部を付けよう。足手まといにはならぬよ。それと馬をもう一頭――、必要であろう？」</div>
<div>　藤乃は優しく微笑んでいた。</div>
<div>「私にしてやれる事はこれくらいぞ。あの者達は皆、お前の事を知っている。安心するが良い」</div>
<div>「じゃがのお、戦場へ向かうとて、どうするつもりじゃ？松次郎の行方とて知れぬものを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　喜平次の言葉に、白菊の顔色は益々青ざめていくのであった。</div>
<div>「それには少々宛てがあります&hellip;&hellip;」</div>
<div>「なれば、やはり幻之介殿に行ってもらうしか方法は無いか。処で&hellip;&hellip;、もう一人の御子の方は元気か？」</div>
<div>　突然の話題の切り替えに、さしもの幻之介も面喰らっていた。</div>
<div>「あの子は大きくなったでしょうか？」</div>
<div>　心配そうに白菊が聞いてくるのだった。</div>
<div>「準備が整うまではまだ時間がかかる。もう一人の御子の話でも聞かせておくれ。それ、そちらの方も&hellip;&hellip;」</div>
<div>　突然声をかけられて、与太郎は慌てて姿勢を正していた。</div>
<div>「そらあ&hellip;&hellip;、めんこく育ってるよ。皆に可愛がられてさあ。当人目の前にして言うのもなんだがなあ、白菊の姐さんより美人になるんじゃねえのか？」</div>
<div>　白妙の事を想い出してか、与太郎は照れたように話始めたのだった。</div>
<div>「ほう、そんなに育ったか。もうすでに変化も終えたとはな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃は吃驚したように呟いていた。</div>
<div>「既に、その&ldquo;力&rdquo;の片鱗も見え始めました。どうやら、白妙は死人の声が聞こえる様です&hellip;&hellip;」</div>
<div>　悲しそうに幻之介の表情が歪んでいた。</div>
<div>「そうか&hellip;&hellip;。心配よのう、幻之介殿」</div>
<div>　藤乃の言葉に、幻之介は頷いていた。</div>
<div>「なんで？」</div>
<div>　不思議そうに二人を眺める与太郎と、喜平次であった。</div>
<div>「&ldquo;力&rdquo;を制御する術を知らねば、死人に引きずり込まれる。そういう力なのだよ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そうなのか？」</div>
<div>「ええ&hellip;&hellip;。それを知ったのも今朝方の事ゆえ&hellip;&hellip;。何も打つ手がなかったのが気がかりで&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白菊も幻之介同様俯くだけだった。</div>
<div>「なれば、この婆があちらに詰めようかの。幻之介殿が戻ってこられるまでの間――。まあ、何かの足しにはなろうや」</div>
<div>「でも、それでは&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の言い分とは裏腹に、喜平次と白菊がこれに賛同していた。</div>
<div>　その時、襖の外から男の声がかかったのだった。</div>
<div>「準備全て整いました」</div>
<div>「行かれよ、幻之介殿。勘解由殿を頼むぞ。ついでに、松次郎も拾って下さると助かるが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。白妙は、未だ声が聞えぬと申しておりました」</div>
<div>　そう言い残すと、幻之介は立ち上がった。広間を出る幻之介の後を、与太郎が慌てて追いかけた。三人はその姿をその場で見送っていた。遠ざかる足音に、白菊は立ち上がろうとした。</div>
<div>「何処へ行くつもりじゃ、白菊。今のお前では足手まといになるだけだぞ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃の言葉に、白菊の動きも止まった。両膝が崩れる様にその場に屈み込むと、嗚咽を零したのだった。</div>
<div>「待つしかあるまいて。我らが総領殿のご帰還をな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　藤乃の言葉は白菊の耳に届くだけの響きであった。</div>
<div>&nbsp;</div>
<br />
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/215/">13―8</a>]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>淡雪　１</title>
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		<issued>2010-03-10T20:11:01+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-10T20:11:01+09:00</modified> 
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		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>＜連載・幻想的時代小説＞　泡沫の夢 外伝・淡雪</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/w-kaiawase-1.jpg"><img border="0" alt="w-kaiawase-1.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221591/" /></a>&nbsp;
<div><font color="#ff99cc"><strong><font size="5">淡雪</font></strong></font></div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
<br />
<br />
&nbsp;</div>
<div>「姫様～、何処におわしますか？姫様――っ」</div>
<div>　右往左往する男や女達。それを足元に見て少女はクスリと笑い声をたてた。</div>
<div>　その頭上で突然ガサリと物音。少女はビックリて見上げた。</div>
<div>　青葉生い茂る古木の上。自分の居る枝よりもさらに高い処に誰かが居るのだった。</div>
<div>「何者っ！」</div>
<div>　少女の声が鋭く相手に向けられていた。</div>
<div>「ただの先客ですよ、姫君&hellip;&hellip;」</div>
<div>　聞えたのは若い男の声だった。</div>
<div>　思いもかけぬ他者の出現に少女は身構えていた。</div>
<div>「先の者達は貴女を探しているのではありませんか？」</div>
<div>　頭上から潜めた声が降って来た。</div>
<div>「姿を見せぬとは卑怯であろうやっ」</div>
<div>　元々この少女、相当に勝気な性格をしているらしかった。</div>
<div>「今暫くお静かに&hellip;&hellip;。かの者達に見つかっても良いのですか？」</div>
<div>　男の声に少女は慌てて自分の口を手で塞いでいた。</div>
<div>　そのはるか足元では、またも人の気配。少女はじっと古木の幹に体を寄せていた。</div>
<div>「はて？この辺りで姫の声を聞いた様な&hellip;&hellip;」</div>
<div>「早くせねば御館様に知れてしまうぞ」</div>
<div>　半ば怯えを見せた従者達が他を探しにその場を離れるまで、少女はじっと息をひそめていた。</div>
<div>　気配も遠のき、風に揺れる様な木の葉の音だけが周りに流れていた。頭上にあった男の気配もしなかった。</div>
<div>「おいっ&hellip;&hellip;、これ、天狗？&hellip;&hellip;おらぬのか？」</div>
<div>　少女は頭上に向かって潜めた声をかけていた。</div>
<div>　ガサリと枝の揺れる音――。</div>
<div>　男は手慣れた仕草で枝を降りてきた。</div>
<div>「天狗とはひどいな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　見上げる程の背の高さ。真白に近い長髪を緩く無造作に後ろで纏めているだけの男。一見その髪の色に年配者とも思ったのだが、その顔付きは青年そのものであった。</div>
<div>「やはりお主は天狗じゃ」</div>
<div>　少女は相手を指さして言い切った。</div>
<div>「まあ、良いさ&hellip;&hellip;。それでも&hellip;&hellip;」</div>
<div>　青年は呆れ顔のまま答えていた。</div>
<div>「それで、姫君。この天狗に何か用がおありか？」</div>
<div>「そちは、何処から参ったのじゃ。この近くでは見たことが無い顔ぞ。何をしにこの地に来たのじゃ？」</div>
<div>「散歩」</div>
<div>　笑みを浮かべながら青年は答えていた。</div>
<div>「悪さを死に来たのではあるまいな？」</div>
<div>「&hellip;&hellip;。余り疑り深いと嫌われますよ、姫君。まあ、簡単に相手を信じるのもどうかと思われますがね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ちらりと少女の方を見ながら、青年はすぐ傍に腰を降ろしたのだった。</div>
<div>「で、姫君はなんでこのような木の上に居られるので？」</div>
<div>「散歩じゃ」</div>
<div>　青年に向かって少女は答えていた。</div>
<div>「普通の姫様は木登りなどしませんけどね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　青年の言葉に少女はプイっとむくれていた。</div>
<div>「どうせ私は普通でないっ」</div>
<div>　青年はオヤオヤという様な表情を見せた。</div>
<div>　はるか遠くの方で、未だ人探しを諦めずに居る声が聞こえていた。</div>
<div>「可哀想ですよ、姫君。皆あんなに一生懸命貴女を探しているのに&hellip;&hellip;」</div>
<div>「あれらと居ても退屈じゃもの&hellip;&hellip;」</div>
<div>　急にシュンとした表情を見せた少女。</div>
<div>「なあ、天狗も一緒に参らぬか？」</div>
<div>　少女はくるりと青年に向き合っていた。</div>
<div>「出来ませんよ&hellip;&hellip;。姫が良くっても他の者がビックリしてしまうでしょ」</div>
<div>　青年は少女の頭を優しく撫でていた。</div>
<div>　それを片手で少女は跳ねのけて見せた。</div>
<div>「子供扱いするでないっ」</div>
<div>　勝気そうな目が青年を見つめていた。</div>
<div>「子供ですよ、姫はね&hellip;&hellip;。この私から見ればまだまだ子供です」</div>
<div>　青年は優しげに微笑んでいた。</div>
<div>「どうせっ&hellip;&hellip;。お前もそうやって&hellip;&hellip;」</div>
<div>　少女はただ俯いた。</div>
<div>「皆勝手に子供扱いしたり、大人扱いしたり&hellip;&hellip;。自分たちの都合の良い様に振舞うだけなんだっ」</div>
<div>　どこか悲しげな表情を見せる少女を青年はじっと見つめていただけだった。</div>
<div>　木の葉の擦れ合う音が静かに響いていた。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。なあ、天狗」</div>
<div>　ふと少女は青年に向き合っていた。</div>
<div>「又、会えるか？」</div>
<div>「縁があれば&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そっか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　少女は木の幹に手をかけてそろそろと気を降りはじめていた。</div>
<div>　下から木の上を仰ぐように少女は見上げていた。</div>
<div>　木の上に居る者が返事をする事は全く期待していないようだった。</div>
<div>「今度お目にかかれた時は、ゆっくりと話でもしましょうか&hellip;&hellip;」</div>
<div>　囁く様な青年の言葉が降って来た。</div>
<div>　少女は吃驚したように眼を見開くと、力強く頷いていた。そして――。少女は袖を膨らませながら里の方へと駆け出して行った。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>「すいませぬ、御館様――。もう暫く&hellip;&hellip;」</div>
<div>　水干姿の男の前で、女が一人ひれ伏すように頭を垂れていた。</div>
<div>「構わぬ。あれの気性は、とうに知れておる。放っておけば何れひょっこりと姿を現すであろう」</div>
<div>　男は苦笑を浮かべながら言った。</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　女は心配げに言うのだった。</div>
<div>「あれの気まぐれにも慣れたわっ」</div>
<div>　男は溜息交じりに遠い目をしていた。しばし、何かに想いを馳せているかの様にも見えた。</div>
<div>「が、いつまでも今の様にさせておくことも出来ぬしな&hellip;&hellip;。あれには当分の間、目付役を付ける事にいたそう」</div>
<div>　それにしても&hellip;&hellip;、と男は眉間の皺を深く刻んでいた。</div>
<div>「姫様がお戻りになられました&hellip;&hellip;」</div>
<div>　汗まみれの女が息を切らせながら男の前に現れた。</div>
<div>「白妙を呼べっ」</div>
<div>　男の言葉に、女は身を縮ませた。</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「泥だらけになっていようが構わぬ。身支度も整える必要は無い。すぐに此処に連れて来い」</div>
<div>　脇息に凭れたままで、男は命じていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　白妙の部屋の周りはしっかりと見張りが付けられるようになっていた。終始監視の生活を強いられるようになったのだった。以前の様に館を抜け出し、勝手気ままな散歩を楽しむ事も出来なくなっていた。</div>
<div>　部屋に押し込められ、やらされる事と言えば行儀作法。まるで花嫁修業の様な事ばかりだった。流石の白妙もこれにはうんざりしていた。</div>
<div>「この時間帯にこの部屋を訪れて、お前の姿を見るとは珍しいな」</div>
<div>　突然の様に従者を引き連れ現れた男を白妙は睨みつけていた。</div>
<div>「自分がそうさせた癖に&hellip;&hellip;」</div>
<div>　ボソリと呟いた白妙の顔を男は覗き込んでいた。</div>
<div>「どうかしたか？白妙」</div>
<div>　一族を束ねる長は、白妙の睨みなど意に介する事も無かった。</div>
<div>「何の御用ですか、父上」</div>
<div>　そう、白妙は総領家の姫であった。</div>
<div>「やはり、血は争えんな&hellip;&hellip;」</div>
<div>「どうせ私は姉様達とは違いますからねっ」</div>
<div>　己の父とはいえ、一族の長に向かって思いっきり舌先を付きだす白妙だった。少女の背後に控える女官も思わずの苦笑い。</div>
<div>「まあ、そこがお前の良さなのだが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の表情が僅かに曇った。</div>
<div>　白妙はそれに気が付かなかった。</div>
<div>「お前ならば、耐えられようか？」</div>
<div>　ボソリと言った父の言葉に白妙は眉間に皺を寄せていた。</div>
<div>「父上――、何がおっしゃりたいのですか？私をこのような処に閉じ込めたままで&hellip;&hellip;」</div>
<div>　不服丸出しの白妙の顔を男はじっと見つめていた。</div>
<div>「此度、お前には『南の地』へ行って貰う事になった故な&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の言葉に、白妙は顔色を変えたのだった。</div>
<div>「な&hellip;&hellip;ぜ&hellip;&hellip;。ちい姉様のはずじゃ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「決定事項だ。既にあちらへも伝わっている」</div>
<div>　その言葉に、白妙はがっくりと肩を落としていた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div><br />
＞　２</div>]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>泡沫の夢　13―6</title>
		<link rel="alternate" type="text/html" href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/212/" />
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		<issued>2010-03-10T20:05:37+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-10T20:05:37+09:00</modified> 
		<created>2010-03-10T20:05:37+09:00</created> 
		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/tudumi_suisen-2.jpg"><img border="0" alt="tudumi_suisen-2.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1257221462/" /></a>&nbsp;
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　男達の目の前で、幻之介は徐に髪の毛を切り捨てた。それを高く結い上げたのだった。</div>
<div>「幻之介&hellip;&hellip;、本気なのか？」</div>
<div>　心配そうに大助が言った。</div>
<div>　書簡の内容は全て皆に伝えた。その上での行動であった。その時、寝所の奥にしまってあった筈の包みを白妙が無言のままに持ってきたのだった。</div>
<div>「お兄様、これを&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙が差し出したのは、例の真紅の神子衣装。</div>
<div>「父様を助けに行くのでしょう？これはお兄様の身を守ってくれる物――」</div>
<div>「白妙&hellip;&hellip;」</div>
<div>「お兄様が傷付いたら、勘解由父様が悲しむから&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は無言でそれを受け取っていた。</div>
<div>「幻之介&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに声をかける佐吉。</div>
<div>「止めても無駄です。私ごときが行ってどうなるというものでもないのでしょうが&hellip;&hellip;。ここでじっと待つ事など出来ませぬっ」</div>
<div>「そうじゃあねえ、違う、幻之介」</div>
<div>　いつになく険しい表情の幻之介に怯んだ佐吉を代弁するかのように、与吉が後を続けたのだった。</div>
<div>「止めるつもりは、毛ほどもねえ。だけどよお、せめて出発は夜が明けてからにしてくれねえか？今から出ても暗闇に呑まれちまうだけだ。お前にもしもの事があっちゃあ、それこそ事だ。それに、こっちにも準備の時間をくれっ」</div>
<div>　頼むから――、と与吉は頭を下げた。</div>
<div>「刻限までは、間に合うんだろ？」</div>
<div>　大助の言葉に、白妙が答えていた。</div>
<div>「黒の足ならば、表屋敷に寄っても十分に時はありますが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　切り落とされた髪の束を手に、白妙はじっと幻之介の方を見ていた。</div>
<div>「お兄様――、これは白妙の我が儘。もう一晩だけ&hellip;&hellip;、一緒に&hellip;&hellip;」</div>
<div>　包みを手にしたまま立ち尽くす幻之介に、白妙が背後から抱きついていた。</div>
<div>「頼むっ、幻之介」</div>
<div>　男達も一斉にその頭を下げるのだった。</div>
<div>「&hellip;&hellip;。解りました。夜明けにはここを出ます。それで宜しいか？」</div>
<div>　ため息交じりに言った言葉に、男達は笑みを漏らすと足早に庵を飛び出していった。</div>
<div>　残ったのは佐吉一人。佐吉はいつもと変わりない所作で台所に立ったのだった。</div>
<div>「幻之介&hellip;&hellip;。まずは湯でも浴びてこいや。白妙も一緒にな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙は嬉しそうに、幻之介の手を引いていた。</div>
<div>「ですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>「飯が出来上がるまでは今しばらくかかる。いっぱい食って、充分体を休めるんだ。ここを出れば何時ゆっくり休めるか解らねえ。旦那の口癖だったよ&hellip;&hellip;。休める時に休んで、次には全力で立ち向かうんだってな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　かつて勘解由と共に戦場を駆け回った男の言葉。素直に幻之介はその言葉に従っていた。幻之介が湯殿に消えたのを確認してか、男はぼそりと言葉を村していた。</div>
<div>「幻之介ほどじゃねえが、俺らだって旦那の事は心配さ&hellip;&hellip;。でも、それ以上に、おめえの方が気がかりなんだがなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　佐吉の手は止まらずに動き続けていた。</div>
<div>　湯上りの幻之介は佐吉を手伝おうとしたのだが、逆に怒鳴られた。手持無沙汰の幻之介は、糸車を持ちだそうとして、これまた、叱られていた。</div>
<div>「白妙っ、幻之介をちゃんと見張ってろ」</div>
<div>「はあい、佐吉おじさま」</div>
<div>　白妙は言うなり、ちゃっかりと幻之介の膝の上に乗ったのだった。</div>
<div>「お前が落ち着かねえのな解るがよ、チャンと休めって言ったよな」</div>
<div>　振り向きながらの佐吉の言葉に、幻之介は苦笑を浮かべていた。</div>
<div>「お兄様、笛を聞かせて&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙は焔華を手渡してきた。</div>
<div>「それ良いねえ。暫くは幻之介の笛の音もきけなくなるんだしな&hellip;&hellip;。俺からも頼むわ」</div>
<div>　佐吉の言葉に後押しされて、白妙はねだる様にそれを求めたのだった。とても笛など吹きたい心境ではない幻之介であったが、白妙の眼差しに負けそれを渋々と口にあてがった。</div>
<div>　不思議なもので、笛を吹き始めた途端に、妙なあせりは徐々に薄れて行くのだった。白妙を膝に乗せたまま幻之介は笛を吹き続けた。白妙はゆったりと幻之介に体を預けて目をつぶっていた。その頬を一筋の雫が流れ落ちたのに幻之介は気がつかなかった。</div>
<div>　いつの間にか、再び集まって来た男達も幻之介の笛の音に耳を傾けていた。思うままの音を出し終えた幻之介はゆっくりと笛を口から離していた。</div>
<div>「&hellip;&hellip;飯にしようかの」</div>
<div>　いつにない品数の料理。佐吉はにっこりと笑っただけ。庵の外は夕日が紅く空を染め上げていた。</div>
<div>　幻之介に杯が差しだされた。</div>
<div>「少しで良い。飲んでおいたほうが、良く眠れるだろう」</div>
<div>　男共は幻之介が酒に弱いのを承知で差しだしたのだった。大助がその杯に少しずつ酒を注ぐ。だが、車座の男達は誰一人として酒を口にしようとしない。</div>
<div>「俺らにはまだ、準備が残っているからな&hellip;&hellip;。お前の出発には間に合うようにしねえとならねえんでな」</div>
<div>　男達の半ば強制の様な勧めに幻之介は渋々と杯を干した。いつも以上に喰わされた幻之介。酒のせいもあってか体を動かすのも億劫なほどだった。そんな幻之介をひょいと抱きあげたのは大助であった。</div>
<div>「後は、時間まで寝てろ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介の傍に白妙だけを残して大助は襖を閉めた。</div>
<div>　横たえられた布団の中に白妙がそっと潜り込んで来た。</div>
<div>「お兄様、勘解由父様大丈夫だよね。必ず、戻ってくるよね&hellip;&hellip;」</div>
<div>　啜りあげる白妙を、幻之介は優しく抱きとめたまま目を閉じた。</div>
<div><br />
&nbsp;</div>
<div>　夜明け前の空気の冷たさに幻之介は目が覚めた。酒を飲んだ割には、意外と意識はすっきりとしていた。襖の外からは未だに物音が聞こえていた。白妙を起こさぬように幻之介は布団から抜け出した。寝間着のままでそっと襖をあけた。</div>
<div>「なんでえ、もう起きちまったのか？」</div>
<div>　与吉が振り向きざまに言った。</div>
<div>「あの&hellip;&hellip;、皆&hellip;&hellip;」</div>
<div>「ああ、俺らの事は気にしねえで良いぞ。お前の出立にやあ万全の備えをさせてやりてえだけだからな」</div>
<div>　言いながら、佐吉は台所に立った。</div>
<div>　見渡すと、一人足りない。</div>
<div>「あの、与太郎は？」</div>
<div>「ああ、もう少ししたら顔出すだろう。朝飯ぐらいは食っていけるだろう&hellip;&hellip;」</div>
<div>　聞き返してきた佐吉に、幻之介は小さく頷いた。</div>
<div>「なら、もう少し体を休めておきな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　大助に促される様に、幻之介は再び寝所へと戻って行った。</div>
<div>「お兄様、もう行くの？」</div>
<div>　目覚めた白妙が言った。</div>
<div>「&hellip;もう少ししたらね」</div>
<div>　その言葉を聞いて、白妙は飛び起き、急いで身支度を整えた。その手際の良さに、幻之介も安堵の表情を浮かべていた。</div>
<div>「私が居ない間、ちゃんと良い子で居られるよね」</div>
<div>　幻之介の言葉に白妙ははっきりと頷いていた。</div>
<div>「大丈夫だよ、お兄様。皆の言う事聞いて良い子にしてる。だから&hellip;。勘解由父様を&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに見上げる白妙を、幻之介は抱き締めていた。</div>
<div>「必ず一緒に戻って来ようから&hellip;&hellip;」</div>
<div>「待ってます、お兄様&hellip;&hellip;」</div>
<div>　白妙の小さな手が幻之介を抱き返していた。</div>
<div>　襖の外から声がかかる頃には、幻之介の身支度も終わっていた。真紅の神子衣装に身を包み、腰には二本の刀を差していた。勘解由から貰った飾り紐で高々と結い上げられた髪の根元には、不知火の片割れが姿を変えて差しこまれていた。胸元には焔華もあった。そのまま寝所を出ようとした幻之介を白妙が呼び止めた。</div>
<div>「お兄様、これも&hellip;&hellip;」</div>
<div>　差し出されたのは、幻之介の物と対となる勘解由の太刀であった。</div>
<div>「父様、今回はそれを置いていかれたの&hellip;&hellip;。だからこうなったような気がする。きっと、それが必要になる感じがするの&hellip;&hellip;」</div>
<div>　持って行って――、とせがむ白妙。</div>
<div>　白妙にもここの男達にも、対となる二振りの太刀と神子衣装の謂れは教えては居なかったのだ。それにも関わらず、白妙は幻之介と勘解由の物とを的確に見分けていた。勘解由の太刀だけならばともかくも、奥にしまってあった幻之介の物まで白妙は取り出してきたのだ。</div>
<div>　はっと想い、幻之介は白妙に問いかけた。</div>
<div>「お兄様の傍にはいつも優しい光の球が浮かんでいるの。それが時々教えてくれる――。私の事も、お兄様の事も&hellip;&hellip;。本当は、もっとたくさん教えてくれるのかもしれないけど、私には片方の言葉しか聞けないから&hellip;&hellip;。それも、半分ぐらい&hellip;&hellip;。父様とお兄様が一緒に居る時じゃないと、解らないの&hellip;&hellip;」</div>
<div>「そう、それがお前の&ldquo;力&rdquo;なんだね、白妙。今、勘解由様の声はお前に聞えるかい？」</div>
<div>「全然聞こえないよっ。聞こえるわけないもんっ」</div>
<div>　お兄様とは違う――、そう呟いた白妙を抱きよせながら、幻之介は襖を開け放った。</div>
<div>「父様は、必ず連れ帰るよ」</div>
<div>　白妙にだけ聞えるように、幻之介は囁いていた。</div>
<br />
<br />
＞　<a href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/214/">１３―7</a>]]> 
		</content>
	</entry>
	<entry>
		<title>泡沫の夢　13―5</title>
		<link rel="alternate" type="text/html" href="http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/211/" />
		<id>http://zyotei.zoku-sei.com/Entry/211/</id>
		<issued>2010-03-10T20:00:24+09:00</issued> 
		<modified>2010-03-10T20:00:24+09:00</modified> 
		<created>2010-03-10T20:00:24+09:00</created> 
		<author>
			<name>猫又女帝・垂氷</name>
		 </author>
		<dc:subject>[ＢＬ系]　＜連載・幻想的時代小説＞泡沫の夢　</dc:subject>
		<content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
			<![CDATA[<br />
<a target="_blank" href="http://file.zyotei.zoku-sei.com/201003031205000.jpg"><img border="0" alt="201003031205000.jpg" align="left" src="http://file.zyotei.zoku-sei.com/Img/1268218623/" /></a>&nbsp;
<div>　白妙すらも居なくなった庵。縁側に座って幻之介は糸車を回していた。男達は野良仕事に出かけて行った。カラカラと廻る幻之介の糸車が時々止まった。その度に小さなため息が漏れるのだった。</div>
<div>　そんな、何度目かの小休止。進まない糸車の糸をじっと幻之介は眺めていた。そこへ、がさりと物音。蹄の音が聞こえたかと思った途端、見知らぬ男の叫び声が聞こえた。</div>
<div>　幻之介は慌ててその声のした方へと駆け出していた。見れば、庭先に入る少し手前の小道で、腰を抜かしたように尻もちを突いている男の姿が見えた。着ている物は粗末だったが、男の傍にはその姿に見合わぬ短刀が落ちていた。男の袖口と着物の裾を、黒馬が踏みしめたまま威嚇の歯ぎしりを繰り返していたのだった。</div>
<div>　丁度そこへ、野良仕事を放り投げて吹っ飛んできた男達が、鍬や鎌を手に詰め寄ったのだから堪らなかっただろう。</div>
<div>「幻之介、大丈夫か？」</div>
<div>　真っ先に走り付いた与太郎がその光景を見て吹き出しそうになっていた。</div>
<div>「黒っ。そのまんま離すんじゃねえぞ」</div>
<div>　佐吉はそのまま手持ちの鎌を男の喉笛へと宛てていた。</div>
<div>「あの&hellip;&hellip;、みんな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　おろおろする幻之介を尻目に、与吉は幻之介を自分の後ろへと押しやった。</div>
<div>「見てくれのまんまって訳ではなさそうだな&hellip;&hellip;。てめえ、何しにきやがったっ！」</div>
<div>　男の傍らに落ちていた短刀を蹴り飛ばしながら、与吉も手の中の鎌を男に向けた。</div>
<div>「わし&hellip;は、その&hellip;&hellip;、伝言&hellip;頼まれた&hellip;だけ」</div>
<div>　目を白黒させながら、男が言った。</div>
<div>「誰にだよ」</div>
<div>　佐吉は握っている手に力を込めた。</div>
<div>「ご家老&hellip;殿&hellip;&hellip;から」</div>
<div>「はあ？」</div>
<div>「幻&hellip;之介殿&hellip;&hellip;と言&hellip;う若者に&hellip;&hellip;と」</div>
<div>「本物か？証拠あんのかよっ」</div>
<div>　黒馬に組伏せられた男を庵の男共が取り囲んでいた。流石の与太郎も、幻之介の名を出された途端に険しい表情へと変わったのだった。男は震える手で、胸元に手を差し入れようとしたが、黒駒の抑えに腕も上がらす男共の方を見上げていた。</div>
<div>「懐に、&hellip;&hellip;ご家老からの書簡が&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男の代わりに与太郎がその胸元へ手を差し入れていた。</div>
<div>　表書きは無し。折り込まれたその裏には何やら人の名らしきものが記されていた。与太郎はそれを幻之介へと手渡した。</div>
<div>「あの&hellip;&hellip;、それは、その幻之介と言う若者へ&hellip;直に渡せと&hellip;&hellip;」</div>
<div>　言いかけた男の胸倉を、佐吉が掴み上げていた。</div>
<div>「あれが、幻之介だ」</div>
<div>「え？あの、女子では&hellip;&hellip;」</div>
<div>　男がそう口にした途端に、与太郎が殴りつけていた。</div>
<div>　幻之介は苦笑を浮かべるしかなかった。長くなりすぎた髪の毛は、高く結い上げる事も難しくなってしまった為、背中で緩く結び止めているだけだったのだ。しかも、この髪型を勘解由が好んだとあっては仕方が無かった。</div>
<div>「幻之介、その家老だかって言うのに、間違いはねえのか？」　</div>
<div>　与吉の言葉に、幻之介は慌てて手の中の書簡を見た。確かに裏には『喜平次』と記されてあったのだった。</div>
<div>「名はそのようですが&hellip;&hellip;」</div>
<div>　庵の男達は文盲であった。</div>
<div>「ご家老殿よりの伝言、確かに渡したぞっ。返事は後で良いから――、と言っておられた」</div>
<div>　男が良い終わるや、黒駒はその足をどけた。男は今とばかりに、這い出して一目散に走り出していた。</div>
<div>「逃げ脚だけは、早いなあ&hellip;&hellip;」</div>
<div>「で、なんて書いてあるんだ？幻之介」</div>
<div>「えっ、はい&hellip;&hellip;」</div>
<div>　幻之介は想い出したかのように、手の中の書簡を広げていた。が、読み進むにつれ、幻之介の手は震えだして、顔は血の気を失っていた。</div>
<div>「そん&hellip;&hellip;な、うそ&hellip;&hellip;」</div>
<div>　がっくりと、幻之介はその場で気を失っていた。</div>
<div>　そんな事があったとは知らず、大助と白妙は鼻歌交じりに庵へと戻ってきた。いつもならば、まだ野良仕事の真っ最中なはずなのに、なぜか全員が雁首をそれ得て車座になっていた。</div>
<div>「なに、辛気臭え顔して集まってんだよ。仕事はどうした？仕事は――」</div>
<div>　大助の言葉に、男達が一斉に睨みつけたのだった。</div>
<div>「&hellip;&hellip;なんでえ」</div>
<div>　その眼光の強さに怯んだ大助。</div>
<div>「幻之介が倒れた&hellip;&hellip;。これを目にしてな」</div>
<div>　大助に投げてよこされたのは、くしゃくしゃに丸められた書簡。</div>
<div>「こんなの、俺に読めるかっ」</div>
<div>　大助は、それを男達に投げ返していた。</div>
<div>　白妙は、にも放り出して幻之介の枕元に座っていた。</div>
<div>「お兄様&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに、幻之介の顔を覗いては、浮かび上がる汗をふき取っていた。</div>
<div>「幻之介が目覚めねえ以上は、俺らにやあ解らねえ事だしな&hellip;&hellip;」</div>
<div>　大助も男達の中に加わった。</div>
<div>　かさりとした物音。白妙はその方向に視線を向けた。</div>
<div>「犬のおば様&hellip;&hellip;」</div>
<div>『暫く見ぬうちに人型になってしまったか――。婆様によう、似ておられるのお』</div>
<div>　獣の唸り声に男達も一斉に振り返った。</div>
<div>　山犬は縁側から上がり込むと、そのまま幻之介の枕元に近付いていた。男達が慌てたのを、白妙が落ち着くようにと言ったのだった。</div>
<div>『この有り様では、知れたようだね&hellip;&hellip;』</div>
<div>　山犬が幻之介の目元をふわりと舐めた。ゆっくりと開けられた幻之介の瞳は紅く染まっていた。</div>
<div>『どうしたい？狐の倭子よ――』</div>
<div>　山犬の言葉に、幻之介の顔がゆっくりと動いた。</div>
<div>『私は男の居場所を知っているがね&hellip;&hellip;。まあ、あれでは当分は動けまいよ』</div>
<div>　身をくつろがせて、前足をぺろりと舐めた山犬。</div>
<div>「それは真？」</div>
<div>『人共と違ってな&hellip;&hellip;。私は嘘は言わぬ。まあ、今ならば、まだ無事だと言えよう』</div>
<div>　その後は知らぬがな――、と山犬は答えていた。</div>
<div>「案内は？」</div>
<div>『必要ならば――』</div>
<div>　むっくりと起き上がった幻之介に、白妙が飛びついた。</div>
<div>「お兄様――、何があったと言うの。その身体で、動いては駄目っ」</div>
<div>　白妙の叫びの様な声に、男達も幻之介の体を抑えにかかった。かっと見開かれた瞳。途端にその身体からは炎が噴きあがった。思わずの熱さに、男達は飛びのいた。だが、白妙だけはその顔を苦痛にゆがませながら幻之介の体を離そうとしなかった。</div>
<div>『お止し、倭子よ。その娘の命を奪う気か？』</div>
<div>　山犬の言葉に、幻之介は我にかえった。</div>
<div>『幻の炎とて、相手が本物と思い込めば焼かれる――』</div>
<div>　特に、お前の&ldquo;力&rdquo;ではな――、と山犬が続けた。</div>
<div>『二日三日ならば、あの男の事。何とか持ちこたえるであろう。日を改めようぞ、倭子よ。そこに居る者共も訳を知りた気の様だしな&hellip;&hellip;。それに、今のお前には片付けなければならぬ用向きもあるだろう？二日後の夕暮れ、あの村で落ち合おう&hellip;&hellip;』</div>
<div>　そう言うと、山犬は豊かな尾を振って外へと飛び出していた。</div>
<div>「お兄様&hellip;&hellip;」</div>
<div>　心配そうに言う、白妙を幻之介はそっと抱きしめていた。</div>
<div><br />
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